2005年4月、小坂勝巳さんが掲示板に、モデルアート誌記事になった伝説のエアフィックス1/48Bf109F-4 マルセイユ機の2005年現在の写真を投稿してくださいました。買い換えた携帯のカメラの性能がいいのでつい、などと仰っていましたが、驚いたことに二十数年の歳月をみじんほどにも感じさせないほどの鮮やかさ。400ピクセル幅の画像なんですが、まるでシルバーヒル保管所かどこかの、レストア中の実機さながらの迫力です(まじに一瞬、実機と思いこみました)。伝説の…などといった接頭辞は、ご本人が最も嫌がられるでしょうけれど、それにしてもすごい、80年代のモデルアート誌では伝えきれなかった凄さを、いま改めて実感し直しています。大体80年代頃、飛行機モデラーで下記コメントにあるような、表面のテクスチャーを再現しようと様々な技法を駆使した方など皆無だったんじゃないでしょうか。どちらかといえば工作メインで、リアリティ追求の途ははせいぜいリベット打ちくらい。塗装なんてエアブラシで一色吹いて、あとは剥がれとか汚し程度じゃなかったのかな(当時私はヤング88の時代で、見る目、聞く耳も無い頃ですから、単に無知だっただけかもしれませんが)?
下:まるで本物! 下:こっちは背景のみ博物館画像にしてみました(^o^) 下記に小坂さんご本人のコメントを。2005.04.17
がらんどうさん、どうも御無沙汰を致しておりました。
数ヶ月間に及ぶロードから、地震の後の福岡にやっと舞い戻ってまいりました。
先日、ケータイを機種変更したのですが、これのカメラが意外や良く写るので、暇さえあればこいつで遊んでおります。
脚は未修復なのですが、昔の拙作です。
また近日中に、修復後の三点姿勢の影を落とした姿で紹介できるといいとは思ってるんですが。製作当時にはあまり触れるようなことのなかった、塗装・仕上げについての技法的な解説を少しばかり付け加えると、
塗色はもちろんラッカー系の調合色で、あまり回数を数えたことはないけど、気に入った色調になるまで色味を若干加減しつつ、大抵10回ぐらいは塗り重ねてゆきます。
適当な所でさっと軽い磨ぎ出し(これをやりすぎるとモデルのシャープ感をスポイルするので、あくまで軽く)を行い、マーキングを終えた後に、エナメル暗色(褐色グレー系)でのウォッシングを行い、その拭き取りを兼ねて、少量のエナメル溶剤を含ませたウェスでツルツルに磨き上げてあります。こうすると決して艶消しではないが、完全なグロス塗装でもない、どことなく金属質の鈍い光沢に近い仕上がりが得られます。
さらに今度は各パネルラインを外して、明色(バフ/アイボリー系)のウォッシングを行い、それが生乾き(ラッカーの下地を僅かに侵食した状態)の内に、同系色のパステル粉末(複数色)を外皮表面に散らして、砂塵による汚れと褪色を表現してゆきます。・・・この過程で単純なゲルプ79単色ではない、複雑な色味を演出してゆきます。さらに内翼上面あたりの「足跡」による泥汚れや、エンジン排気&機銃周りのカーボンも、同様に生乾きのエナメルとパステルを併用して、試行錯誤を繰り返しつつ、それらしくまとめてゆきます。最後に細筆で、漏れたオイルによる汚れを薄めたエナメルで描き込んで、おおむね仕上がりとなります。
パステルの固着度についての不安は、完成後20数年を経たこの完成品が、ほぼ当時のままの状態を保っていることからも、問題はないものと思われます(その間、何度か水洗い洗浄も経験しています)。
もちろん、各工程どの段階を以って「仕上がり」と判定するのかは、作者個人の美意識と判断とに委ねられるわけで、表現技法的にどうこうと言うよりも、行き着く先は結局「センス」の問題ということになってしまうのでしょう。ずっと前にも書いたことがあったと思うけど、この「黄色14番」は、当時、月間3作を余儀なくされてしまった自分が、実はたったの2週間という、やっつけ仕事でデッチ上げてしまった代物です。当然、殆ど素組みに近い状態で、自身としてもかなり不満を残す作例の一つだったわけなのですが、とにかくキットが良かったお陰で、どうにか今日でも見られる完成品の内に数えられるのかも知れません。
エアの109はいいですよ。特に胴体/主翼周りの断面プロポーションがいいので、全く手が掛かりません。コクピットやホイールなどのディテールもいいし、ちょっと手馴れた人なら、あっという間にベスト109を完成させられます。自分が人生の中で出遭ったベスト・キットの筆頭です。
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