>>>僕の最も身近な軍人
今年も８月１５日が近づいた。戦争論については、マスコミなどで頻繁に取り上げられているし、思いも人それぞれなので、あえて僕が語る必要も無いが、僕も間接的に戦争を感じた一人なのだ。
間接的というのは、実際戦争に行った人に大変お世話になったからだ。僕が通ってた渋谷区立広尾中学校は今はどうだか知らないが、僕がいた頃（もう四半世紀前になる）は、かなりワルが集まる学校だった。最近、少年少女の犯罪が問題にされているが、ニュアンスは違うがケンカなどは日常茶飯事。若い方ならBE-BAP-HI-SCHOOLのイメージを思い浮かべて貰えればお解りになるかと思う。今でこそ恵比寿などはイメージが良くなったが、当時は山の手の下町と呼ばれるところで、町工場の集まりみたいなところだった。（ちなみに恵比寿ガーデンプレイスはビール工場だった）そして、その教師陣がなぜか（と言うかわざとだと思うが）軍隊上がりの教師が多かった。僕の父は今年、７２になるが、戦時中はまだ、高等学校に通ってたので、軍隊経験などはない。つまり、それより上の世代が教師陣だったのだ。何かあると『歯を食いしばれ』と殴られた（特に僕は良く殴られたなぁー？小学校の頃から柔道をやっていたので、しごきみたいなものには抵抗無かったし、そんなものじゃ反省するほど素直じゃなかったけど）今なら体罰事件で、P.T.Aや教育委員会やマスコミが
大騒ぎするようなことも、僕たち悪ガキも親も愛のムチとして受け止めていた。（まぁ、その当時は当然愛のムチなどとは思ってなかった。卒業したら落とし前つけてやろうなどと、みんなで話してたもんな。さすがにやった奴はいないけど。愛のムチだったなんて、だいぶ経ってから解った事で）そういうことに嫌悪感を持つ人は多いと思うが、当時は当たり前だったし、なんで殴られるのかも解っていた。時代が違うといえばそれまでだが。
教師というものに職業を超えたものを感じていた。その頃までは。
しかし、中学三年になって勉強はしないどころかわざと白紙でテストを出したり（いわゆるドロップアウトと言うヤツだ！受験戦争に嫌気がさして。自分の名誉のためにあえて言うが中学二年までは勉強できた方だった。学級委員などもやったし。まぁ、アレは人気投票みたいなところもあったけど）するヤツだった。僕は。
そこで、若き日の矛盾が！そんな教師を見て勉強はしない僕が、将来教師になりたいと真剣に思った。そして、信頼できる当時の担任で、技術を教えてた元陸軍兵の大沢紀和先生に相談しに行った。今でも鮮明に覚えている。技術室で工作機械の並ぶ中「先生！実は僕、教師になりたくて」当然、その頃の僕のことはよく解ってたし、今の成績で教職につくなどもってのほかの相談だと僕も思ってた。（こんな事言ってヘタしたら殴られるなぁー）と思ったが、思い切って素直な気持ちをぶつけてみたのだ。僕の話を一通り、ちゃんと聞いてくれた大沢先生は『ちょっと時間をくれ』との事。どうせダメだな。と思った僕は技術室を後にした。
そして、何日か経って『丹下！放課後、技術室に来るように』と。行ってみると大沢先生と生物の先生が二人でいた。この生物の先生はご老体で、受験科目外ということもあり、面白い話ばかりする好きな教師の一人だったのだが、その先生の、出身校である東京農業大学の付属高校に行く気はないかとの事。生物の教師になるなら最適だと言われ、事細かく大学のカリキュラムなどを取り寄せた資料を基に説明してくれた。
結局、その後教師にはならなかったが、その付属校には入り、大学も卒業した。
そして、社会人になって中学のクラス会。それまでもクラス会はやっていたのだが、教師は呼ばなかった。幹事のおせっかいで大沢先生を招いた（失礼）まだ、社会人に成り立ての頃なので大勢集まった。大沢先生は到着するやいなや、僕の方に来て『お前のことが一番気になってたと』それは幹事から聞いていたが、どうやらほんとらしかった。そして、盛り上がり待ちに待った二次会に行くことになる。そこで、大沢先生に耳打ちされた『もう一軒付き合え！女房を待たせてある』あちゃー！と思いながらも大沢先生には負い目を感じてた僕は幹事にこれから行く店の電話番号を教えてもらい、大沢先生夫妻と三人で小料理屋で話した。だいぶ前のことなので、正直どんな話しの内容だったかは覚えていない。まぁ、心配していたのは確かなようだ。そして、最後に担任を持ったのが僕らだったこともその時、聞かされた。
それが、大沢先生との最後になった。平成７年、他界したとのハガキが送られてきた。
それ以来、この時期になると大沢先生のことを思い出す。
軍隊上がりの力強い男。僕の事を本気で怒り殴ってくれた男の事を。
そして、死んでも僕の永遠の教師である大沢紀和先生を。
