>>>書き下ろしショートストーリー【CYBER LOVE】

         


そのシステムエンジニアの男は失恋の絶望から死を考えた。
『自分の人生はこんなはずじゃなかった』と!
彼は歩むべき理想の人生をその後10年に渡るダイアリーとして書き綴った。
それまで、彼が果たせなかった想いを。特に彼が愛した人への想いを。
彼女と行くことが果たせなかった場所 ・聞かせたかった音楽etc。
そして、自分が作ったサイトに毎日ダイアリーを自動更新するシステムを組み込み、毒薬を口にした。誰の目にも触れることなく人生のピリオドを自ら打った。

だが、彼は失恋などしていなかったのだ。彼女は彼が死んだ数時間後、いつもの場所で彼を待っていた。彼のプロポーズを受け入れるために。まだ結婚に対して踏み切れなかった彼女が、ようやく彼の優しさを受け止め人生の大きなセリフ『YES』を言うために。しかし、彼はその場所に来ることはなかった。今度は彼女が絶望のどん底に落ちた。

絶望のどん底に落ちた彼女は彼からプレゼントされたPCをはじめて開いた。お気に入りをクリックすると素朴であるが、誠実な日記を書く男性のサイトが出てきた。
そのサイトには『確かな愛』が感じられた。
毎日帰宅するとそのサイトの更新日記を見るのが彼女の日課となった。
次第に、彼女はまだ見ぬその男性に好意を持ち。気がつくと『恋に墜ちていた』

彼女は躊躇しながらもサイトのメールに気持ちを伝えた。すぐに返信メールが帰ってきた。彼女の名前がハッキリ書かれた文面には『残念ながら、今はお逢いすることは出来ませんが、あなたのことは心の中に確実に存在してます』
それからは、彼女は今日会った出来事や、彼への想いを毎日メールした。
しかし、返信メールはいつも同じ文面。それでも彼女は満足した。愛が日増しに強くなっていく自分を感じた。

すでに、現存する男性に心奪われることもなくなっていた。

そして、いつの間にか10年の歳月は流れ、最後の彼の日記となるそれに目を通す。その日記には、愛する君へという題が付けられ、彼女との思い出の場所・カーステレオから流れてきた想いでの曲・二人で見つめた海に沈む太陽などが克明に綴られていた。そして、日付はあの『プロポーズとなるはずだった待ち合わせの日付が』彼女はその時すべてを悟った 。

彼女は、その10年間の彼への想いを綴ったサイトを残し、彼の元に旅立った。

この不幸な事実は誰にも知られることがなく。残されたのは二人のサイトだけだった。


 

 

 
 
 
 
 
                         

 

         
 
           

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