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イラクの日本人人質事件で日本はどう対応すべきか
ボランディアとフリージャーナリストが合わせて3人、イラクの武装集団に拉致監禁された映像が4/8の夜飛び込んできた。 とうとう恐れていたことが起こった。日本国内のテロへの警戒が、通勤電車の駅や霞ヶ関周辺で厳重になっている中、「民間人の人質」というもっとも安全対策が手薄で弱い部分をつかれた形だ。 過去にも、連合赤軍のハイジャック事件や、ペルーの大使館占拠などこの手の事件は起こっているし、政府が国内のテロとサマーワの駐屯地域だけを警戒していたとしたら、全くお目出度いといわざるを得ない。
相手側に狙いは、明白である。それに対して日本政府は、いち早くテロには屈しない、自衛隊を撤退することはない、と明言した。 武装した自衛隊の派遣を「人道支援」のためだといってみても、アメリカを侵略軍とみなすイスラムの武装勢力が、日本をその協力者とみなし、日本に対してテロを仕掛けてきたことは明らかだ。 政府は、自衛隊駐屯地への攻撃や日本国内でのテロ、さらに今回起こったような民間人の拉致といった事態は想定し、そのようなリスクを承知の上で自衛隊を派遣したはずだし、イラク人道支援という旗の下に派遣したわけだから、余程の犠牲が出て情勢が変わらない限り、撤退はしないと腹はくくっているようだ。
しかしフセイン政権崩壊からちょうど一年経った今、イラクの治安は急速に悪化している。ファルージャで、アメリカの民間人が惨殺された事件、それに対するアメリカの報復は今まで忌避されてきたモスクへの攻撃にいたり、スンニ派だけでなく、シーア派をも敵にまわすことになった。 兵員を暫時撤退させ6月に暫定政権に移行するというアメリカの計画の実現はほとんど不可能になった。 9.11が防げなかったのかという、公聴会が国内で大きなニュースになっているアメリカも、これ以上のイラクでのアメリカ人の犠牲にどこまで堪えられるのか、大いに疑問だ。 11月の大統領選挙でブッシュが負ければ、そこで大きく政策転換する可能性がある。
ベトナム戦争で、アメリカは共産勢力に対抗するために、いわゆるドミノ理論を前提に介入を深めたが、結局、ベトナムに民主的な政権を打ち立てるという大義も、ベトナムに傀儡政権を作る以上のことはできず、大きな犠牲を払って失敗に終わった。 イラクは、歴史的にも、宗教的にもベトナムより更に複雑で、民族の誇りとアメリカアレルギーが強い地域だ。 イラク戦争の大義であったはずの、大量破壊兵器疑惑、アルカイダなどのテロ組織の支援という根拠が、結局いい加減なものだったと判明した今、アメリカには大きな犠牲を払ってイラクに駐留し、内戦や軍事テロと長期に渡って戦っていく正義と決意があるとは思えない。 サダムから解放されたイラク人の多くが、アメリカによる民主的な政府の樹立を期待していることも事実であろう。 しかし、イラクに対してそこまでの犠牲を払う国益が、ドイツやフランスにはなく、日本にもなく、さらにはアメリカにもないと思われる。
今回の戦争は間違っていた、とアメリカ人を含め多くの人が思い始めている。 ではどうすれば反アメリカの武装勢力の活動を沈静化させ、曲がりなりにもイラク人の手になる政権の樹立に移行できるのか。 そのプロセスは容易に進んでいない。 日本が国際社会に一員として、イラクの復興を支援するのは大事なことだ。 しかし、武器を持った自衛隊を派遣するという形で、イスラムの反感を買い、日本人がテロの標的になるような選択をすべきではなかった。 自衛隊の派遣は、その危険な一線を超えてしまったのだ。 状況としては、自衛隊の即時撤退を政府が決めることはなさそうだ。 しかし、自衛隊のイラクでの存在により、これ以上日本人の命を拉致やテロの危険にさらすことが許されるのか。 人道支援は、NGOの支援なり、イラク人道支援部隊の設立など別の形で実施すればいい。 イラクの安定と民主的政権樹立の道のりは険しい。 既に、スペインをはじめ、カザフススタンやウクライナなど、当初、部隊を派遣した国々も部隊の撤退を決めはじめている。 アメリカは益々難しい立場に追い込まれるだろう。しかし、それはアメリカが引き受けざるを得ない責任だ。 日本が、政治的安定と人道支援に協力するには、自衛隊以外の方法に切り替えるべきだ。 それにしても、民主党がこの事態に、「自衛隊と人質問題を切り離して考える」などと悠長なことを言っているのは、まったく理解できない。
今回の事件に関して、毎日新聞の緊急アンケート(http://www.mainichi-msn.co.jp/)では、自衛隊を撤退すべきではない、との意見が多数派なのには、やや驚いた。また、Yahoo掲示板の書き込みを見ると、拘束された3人を非難する声が多いのは意外だ。 3人を「向こう見ずだ」、「国への迷惑を顧みないピンとはずれの偽善者、売名目当てのけしからん人間」とする非難には、日本人の狭量と他人への不寛容を見る思いである。 確かにもう少し危険に対して注意深くあり、今回のような「拘束、人質」といった形のケースを想定した行動が求められるべきところはあったろう。 しかし、彼らは恐らく、イラクに入ると決めた時に、最悪の事態も想定していたはずだ。 自分たちが人質になったことで、政府や国民に心配をかけていることに申し訳なくおもっているはずだ。 家族の言葉の中にも、それは聞き取れる。
自衛隊を撤退させることで、今回の人質を救うことができるのなら、政府はそれを検討すべきだ。 「命は地球より重い」と言って、77年にダッカ事件の時に、犯人の要求に応じた福田首相のときとは、今回は状況が違うのは確かだ (息子の官房長官がつぶやいた、「時代が違う」、というのは意味不明の言葉だが)。 自衛隊の撤退を声明しても、人質が帰ってくるとの保証はないし、今後同様の事件やテロが起こらないという保証は全くない。 従って、「自衛隊の撤退」の声明により取引が成立するとの確証はない。
政府としては、アメリカの支援を仰ぎ、犯人と監禁場所の特定、救出を図るというアクションしか選択肢がない。 ここもアメリカのみが頼りだ。 小泉政権としては、人名第一として、自衛隊を撤退すると表明すれば、、既に多くの犠牲を払っているアメリカの一部やテロリストから、臆病者と嘲られ非難を浴びるだろうし、そのような選択はできないだろう。 しかし、このままイスラム過激派や武装勢力を敵にまわしてアメリカと共に歩むことは、長い将来に渡って日本を危険にさらすことになるリスクをどう考えるのか。 テロ組織は、イギリスと並んで日本をアメリカの最も近い協力者として狙いつづけるだろう。 そのようなリスクを背負うことが国益にかなっているとは思えない。 今回の戦争が間違っていたこと、それに加担した日本の判断もまずかったことを認識し、その上で、イラクに平和と安全を取り戻すために日本が何ができるのかを考えていくべきだ。 そのために、日本とアメリカの指導者が代わらねばならないということは、充分ありえる。
アメリカを世界で孤立させないよう、日本は良き友人であるべきだ。しかし、相手が間違ったことをしていると思うときは、それをしっかりとアドバイスするのが、真に対等の信頼関係のある友人だ。 残念ながら、日本は今の政府は、そのような関係をアメリカと持っていない。 相手の機嫌に損なうことを恐れ、取り入るだけでは、日本が国際社会の中で、自立し尊敬されて、平和と発展に貢献するという姿は見えてこない.(2004.4.10)
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