大恐慌時代のアメリカ。実在し、人々から“シンデレラマン”と呼ばれたボクサーの人生の断片を、カメラは寄り添うように見つめていく。家族と幸せに暮らすジミーは、前途有望な若手ボクサー。右ストレートを武器に、次期チャンピオンになれると目されていた。だが、右手を故障。勝利に見放された彼は、ライセンスを剥奪されてしまう。
失業者の一人となり、日雇いの肉体労働に就けることすら難しい日々。困窮の中、彼が守りたかったのは、愛する家族だけだった…。
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“涙と共にパンを食べた者でなければ、人生の味はわからない”
これは、ドイツの文豪・ゲーテの言葉。今年の私は、塩っぱいパンばかり齧っている。
特に今週は、キツ過ぎるなぁ。ロン・ハワードという監督は、絶対に万人に解りやすい映画でなければ映画ではない、と思っている人の様だ。
そういう意味では、ハリウッド映画の王道を行っている作品だ。
画面は、終始貧乏臭い。でも、優しさに満ちている。貧乏で、子供がサラミを盗む。
父親が詫びを入れ、返しに行く。台詞はない。何でもないが、人間の矜持というものを教えられるいいシーンだ。
その父親が、電気代が払えなくて、苦しくて苦しくて、かつての仲間の所に援助を頼みに行く。塩っぱいパンだ。そう。金持ちほど、ケチなのだよ、ジミー君。
こっちは、そんなに上手くは生きられない。オレも知ってるよ。
アメリカは、生きる事の職人だ。そのパワー、“やれば、出来る!”“Go and get it !”の精神をこの映画では、ボクシングの試合という形で見せてくれた。
ロン・ハワード監督の優れている所は、練習のシーンをほとんど見せていない所だ。
だから、本番が生きる。その試合のシーン。凄い。
危険なので、客席にいた私も何度かパンチをよけた。
ラストでは、1935年6月、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにいた観客たちと共に、私もスクリーンに駆け寄りたかった。
映画は、目で観るもの。中期のチャップリンが息づいている一本だ。
字幕なしでも、きっと楽しめたに違いない。私の本年度ベストテン入りは、確実だ。
(2005.9.29)
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