岡村通信 No.18 
「チャオプラヤ河に抱かれて」

2002年5月4日

ゴールデンウィークかと思ったらもう立夏、いかがお過ごしでしょうか?

【 最近観た映画の感想 】

「ブラック・ホーク・ダウン」
’60年代のバドワイザーの瓶の栓を今、抜いたような一本。
「地獄の黙示録・特別完全版」を観た後では、作る側のモチベーションが あまりにも小さいのがバレバレで客席に座っているのも辛い。戦場でのモラル?なんて、いつの時代も身勝手なアメリカが、なに寝言言ってんだ。リドリー・スコット監督、回り道はやめて早く「ハンニバル2」を作って下さい。

「ロード・オブ・ザ・リング」
トランプのババ抜きで立て続けにジョーカーを引いたような気分。
ネヴァー・エンディングに続く刺激の連続そのものは楽しいけれど、 これ程の長さになると途中でホッとできるような映画の中の休憩所が必要。メインの登場人物がそれほど魅力的ではないし、クリストファー・リー演じる サルマンはビンラディンのパロディーかと思った。
そんな中、ケイト・ブランシェットだけが森の中透き通った白い悪魔のように美しかった。

さて、最近の私です。

【4月 4日 木曜日 晴れ タイ・Wat Arun 暁の寺】
取材の仕事の後、Wat Pho ワット・ポー(涅槃寺)で 全身を金箔で覆われ肩肘を付いたまま170年前から超然と横たわっている 寝釈迦仏(46m/悟りを開き目は半開き)に呆然としていると 

「ここまで来たならWat Arunに行くべきだ。船賃は俺が出すよ。」と、コーディネーターのノイさん。
「でも、飛行機の時間が…」と言う私に
「ああ、大丈夫。時間は消えてなくならない。」

売店の象

チャオプラヤ河
カフェオレ色のチャオプラヤ河を渡ってWat Arun(暁の寺)に着くと 黄色い僧衣をまとったお坊さんが、「ここにひざまずけ。」と床を指差し 言われる通りにする。と、いきなり聖水(?)のようなものを頭からかけられ 水のついた葉っぱを振って何事かを唱えている。

その澄んだ目は 「あんたは心の底から疲れ切っている!」とでも言っているようだった。

その時、右の手首に結び付けてもらった黄緑色のお守りを今もしている。

【4月10日 水曜日 晴れ 山形県 白竜湖近くの道】

亜熱帯のタイからまだ雪の残る山形へ来て、さすがに少々武者震い。
いよいよ映画『アルカディア(理想郷)』の撮影が始まった。
http://arcadia2002.hoops.livedoor.com/

南陽市のとある村に色々な事情を抱えた人たちが集まって来て農業を始める。
頭取(鹿内孝さん/フジテレビ「空から降る一億の星」他)、マダム (松原智恵子さん/NHK「利家とまつ」他)、車屋(永島敏行さん/NHK 「新宿鮫・氷舞」他)など、みんな個性は強いが気のいい連中ばかりの中で私はただ一人のユダ。
うさんくさい議員秘書で、皆を裏切る悪役なのだ。

≪ シーン26 山裾の道 ≫  運転中のトラックの荷台

秘書 「もうちょっと、早く走れんのかね、篤さん。」
マダム 「(笑って)慌てず、焦らず。秘書さん、それが『生き残り隊』のテーマでしょ。」
秘書 「そりゃ、そうだけど…」

なかなか斎藤耕一監督(「親分はイエス様」「旅の重さ」「約束」他)のOKが出ず 四苦八苦する。何度か追いつめられたような気持ちになるが、大丈夫。
最近、私は自分の中に竜を飼っているのでありマス。

出演は他にガッツ石松さん、エド山口さん、浅茅陽子さん、小林旭さんら。 撮影は断続的に秋まで続き、順調に行けば撮影用に借りた二反の田んぼから 八俵の新米が収穫される予定。
共同生活、悪役、農作業…慣れない事も多いが、この映画が完成する頃 自分自身も大きく変わっているかもしれない。
そんな予感が強くする。 

【4月25日 木曜日 曇りのち雨 調布・日活撮影所 第9スタジオ】

十数年前に手塚治虫・晩年の傑作「アドルフに告ぐ」を読んでから ずっとゾルゲには興味を持っていた。 彼についての映画が作られている。来年春、東宝系で公開予定の映画『スパイ・ゾルゲ』は 不幸な時代に生きた、ある平和主義者たちの物語だ。
http://www.toho.co.jp/movienews/0111/03sorge_k.html

≪ シーン116 朝日新聞社の玄関ロビー ≫
中橋 「(ピストルを抜き)代表はおらんか! 誰か、社の代表を連れて来い!」

   恐怖に身を硬くしている社員たち。
   その中に尾崎秀実(本木雅弘)の姿も見える。
   エレベーターから緒方竹虎主筆(私)がネクタイを直しながら現れる。
    ピストルを構えて立っている中橋中尉(石原良純)。
緒方 「(名刺を中橋中尉に渡しながら) 私が代表だ。」
中橋 「今日は昭和維新である。 国賊・朝日新聞は叩き壊す!」

時は1936年2月26日 午前8時53分 世にいう二・二六事件の一幕だ。
緒方の、この時の堂々とした応対によって朝日新聞社は難を逃れる。
彼は後に自由党の総裁になった大物で元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんの 義父である。 
私はかつてこのような偉い人を演じた事はない。付け髭の位置には細心の注意を払ったが、終わって篠田正浩監督(「写楽」他)に 「いやあ、まるでそっくりショーだったね!」と、言われて大いに照れる。

この昭和11年あたりから、日本はあの治安維持法に向かって真っ暗闇の時代に 突入して行き、坂道を転げ落ちて行く。やがて、尾崎とその友人・ゾルゲも密告によって逮捕され、処刑されてしまう。
誰も何も自分が悪いなどとは思っていない。皆、それぞれの立場で、自分の信念、あるいは利益のために行動しただけだ。

しかし何処かで誰かが大きな勘違いをしている。誰かが大きな盗みを働いている。 大きく盗むためには見知らぬ何万人かの命や尊厳など虫ケラ同然だと思っている。

今の国会に世紀の悪法・個人情報保護法案が提出されているこの時期 演じていて、実にいろいろな事を考えさせられた。

    “ もの言えば 唇寒し 日本人 ”

しかし黙っていては、やはりダメなんだ。


         映画「スパイ・ゾルゲ」撮影の合間に

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映画『GO』 日本アカデミー賞8部門で最優秀賞受賞
(行定勲監督/窪塚洋介 柴咲コウ 山崎努 大竹しのぶ 他)http://www.go-toei.com/
私は民族学校の教師役で出演しています。

映画 『銀の男 青森純情篇』  
(高橋玄監督/出演・山本修、有森也実、井上晴美、萩原流行他)
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俳優志望の若者の奮闘を描く、みずみずしく切ない一本。
私はテレビドラマのプロデューサー役と、絵沢萠子さんがやっているラーメン屋の 屋台のラジオから聞こえてくる深夜放送のDJの声をやっています。

OV 『借王(シャッキング)ファイナル』
(香月秀之監督/出演・哀川翔、志賀勝、夏樹陽子、加勢大周、布川敏和他)
http://www.hinode.co.jp/media/rele02.html
人気シリーズ最後の大バクチで不良債権の回収と借金完済なるか?
私は詐欺に加担する、倒産寸前の中小企業の社長役で出演しています。

是非、ご高覧下さい。

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もしも時間がありましたら、あなたの近況などを教えて下さい。

暑かったかと思えば、朝夕は意外と寒かったりする今日この頃
季節の変わり目の風邪に気をつけて…

ではまた!