岡村通信 No.16 「コッポラの来た道」

2002年2月16日

立春過ぎてもなお寒い毎日ですが、お元気ですか?

先日、ようやくDVDプレーヤーを購入しました。
昨年、私が巻末特典映像のための対談をしたDVD作品が発売になったのが きっかけですが、前から観たかったソフトをついに味わう事ができました。

【 ゴッドファーザー DVDコレクション 】

私はアメリカを信じていた。

アメリカの映画界はとても懐が深くて、1972年当時、まだヒット作のない 若い監督、32歳のフランシス・F・コッポラに大ベストセラー小説の映画化を 潤沢な製作費と充分な撮影期間を保証した上ですべて任せたのだと思っていた。
しかしこの度、事実はまるで違う事を知った。

このDVDには映画の音声とは別のチャンネルにコッポラ監督の解説がなんと パートTからパートVまで全篇に渡って入っているのだ。それによると製作費はわずか250万ドル(最終的には650万ドルかかったが) 撮影日数は62日(!)というから本当に驚いた。映画の撮影中、コッポラは常にパラマウント映画からいつ首になるかと毎日ビクビク していたという。問題児マーロン・ブランドや無名の新人・アル・パチーノの起用も 会社側から大反対されたのを突っ切ったそうだ。 

コッポラにとっては完成後、「早く忘れ去りたい一本」と思っていたこの作品は 意外にも大ヒットし、当時の世界の興行記録を塗り替え、不朽の名作となった。 私にとっても「ゴッドファーザー」パートTとUは生涯のベストワン作品だ。

撮影裏話もさる事ながら、当時の撮影環境や、思い通りにいかなかった事について 延々と愚痴をこぼしているのがとても面白い。逆境をいかに逆手にとるか。予定されていたキャストが得られなかった時の、発想と 脚本の切り替え方。 時々話がそれて家族や俳優への思い入れに発展するのだが コッポラの、映画に対する真っ直ぐな愛情がこちらにまで伝わって来て 何度も胸が熱くなった。

そして彼はこう告白している。
「『地獄の黙示録』を作った時、私は世界中から大変な非難を浴びた。
 この失敗から20年以上たった今も立ち直れないでいる」。

【 地獄の黙示録・特別完全版 】

「 私が倒れたらミリアスが、ミリアスが倒れたら
 ルーカスが、この映画を完成させねばならない」     フランシス・F・コッポラ

ああ、この言葉に何度励まされた事だろう。
パートTとUで得た莫大な富とさらに自宅や自分のスタジオまで抵当に入れて 苦難の末、5年の歳月をかけて完成させたのが 「地獄の黙示録」('80年・日本公開)だ。
現在劇場公開中のヴァージョンはこれに53分の未公開シーンその他を加えて 作り直したもの。 22年前よりもわかり易く、短く感じた。

映画が始まってしばらくすると、キルゴア中佐(ロバート・デュバル)の ヘリ軍団が現れる。
そのシーン冒頭の数機のヘリコプターの動きはちょっと言葉では言い表わせない種類のものだ。
まるで戦争の世紀であった20世紀の美しくも悲しい宗教画のようだ。
あの動き方は一体何だ?
続く、あまりにも有名な「ワルキューレの騎行」。 あの狂ったようなソプラノ。
ナパーム弾の爆撃によって一瞬で破壊されるベトナムのジャングル。
ワーグナーという作曲家が時空を越えてこの映画のためにオリジナルを書いたとしか 考えられない。

この映画の底には、コッポラが本当に伝えたかった事、 映画でしか描き得ないメッセージが、エネルギーのうねりが確かにある。そして、残念ながら我々がすでに知ってしまったカルト集団の怖さや またも繰り返されている最近の戦争の事をどうしても思い出してしまう。そこに見えるのは人間というものが持っている、得体の知れない恐ろしさだ。

この道は何処へ続いているのだろうか?
時々、ぞっとする。 
いやしかし、道を作っていくのはやはり我々一人一人なんだ。

  (と、やや'70年代風…)

【 中原俊 DVDコレクション 全6タイトル 】

「映画監督なんて商売、普通は恥ずかしくてやってられないんじゃないかと思うんですけどね。」
中原監督 「えっ、何で?」
「だって役者だったら、最終的には監督のせいにできるかもしれな い。でも監督は絶対に逃げられない。何を考え、どういう性癖で どんなセックスをするのかまで、ヘタするとすべてを世界中に さらけ出さなきゃなんない、この世の終わりみたいな職業だと 思いますねえ。」
中原監督 「 ハハハハ…」

1月25日にパイオニアLDCから「中原俊 DVDコレクション」×6タイトルが 発売されました。
巻末特典映像として、中原俊監督(「桜の園」「コンセント」他)と私の このDVDのための撮り下ろし対談が約20分ずつ入っています。 中原監督と私の精神的なパンツ一丁が見られます。 是非ご高覧下さい。

「メイクアップ」 ('85年 出演/烏丸せつ子、尾身としのり、吉行和子ほか)
「猫のように」  ('88年 出演/吉宮君子、橘ゆかり、森川正太、河原さぶ)
「DokiDoki ヴァージン〜もういちど I love you」
('90年 出演/中山忍、林泰文、萩原聖人、小倉一郎他)
「シーズンオフ」('92年 出演/土家里織、塩見三省、伊東景衣子、林泰文)
「カラフル」  ('99年 出演/田中聖、阿川佐和子、滝田栄、林家こぶ平ほか)
「姉は女教師」 ('00年 出演/朝岡実嶺、三浦もえか、茉莉子ほか)

もしも時間がありましたら、あなたの近況などを教えて下さい。

寒さはまだ続きますが、春はもうすぐそこ。
どうかインフルエンザに気をつけて…

ではまた!