2015年12月4日
11月26日、「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」は、神奈川県教育委員会総務室高校改革グループの改革担当課長に対して、高校改革について申し入れを行いました。当日は、「かながわ定時制通信制教育を考える会」代表の保永博行も参加しました。以下、教育委員会委員長に求めた要請書を紹介します。
神奈川県教育委員会
委員長 具志堅幸司様
県立高校改革実施計画(全体)【素案】についての要請書
2015年11月26 日
かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会
<懇談会団体>
横浜市立定時制高校の灯を消さない会 代表 高坂 賢一
かながわ定時制通信制教育を考える会 代表 保永 博行
定時制高校を守る市民の会かわさき 代表 浅野 栄子
不登校の親の会(こだまの会) 代表 馬場 千鶴
教育委員会を傍聴する会 代表 土志田栄子
港南区・教育を語る会 代表 三輪智恵美
県民要求を実現し県政の革新を推進する連絡会 事務局長 神田 敏史
新日本婦人の会神奈川県本部 会長 泉水 令恵
神奈川県教育運動連絡センタ- 事務局長 加藤 誠
「県立高校改革実施計画(全体)【素案】」について、今の神奈川の高校教育の実情を踏まえて、若者たちが将来主権者として、豊かな未来を切り拓いていくための礎となるような高校教育を実現するために以下の項目について要請します。
1. 多様性(ダイバーシティ)を過度に強調するのでなく、社会の主権者としての市民の協同性や連帯および各生徒の潜在的な能力をはぐくむことを意識した教育に取り組んでください。
【説明】
多様な市民が存在する市民社会の主権者としての成長を促す「生徒の多様性(ダイバーシティ)を尊重し、個性や能力を伸ばす、質の高い教育に取り組みます」とありますが、高校段階の生徒は著しい成長過程にあり、同世代の友人や周囲の人々、社会に大きく影響を受けながら変化成長する存在であることを前提に考えなければなりません。中学卒業の段階で将来の人生の方向が限定されてしまうような学校システムは教育的ではありません。生徒の多様性を尊重しはぐくむことは、多様な高校をつくって生徒それぞれの棲み分けをつくることではありません。各高校を入試成績や学力調査、大学入試結果などで極度に特化させるのでなく、どの学校に在籍しても多様な生徒がいて、お互いに刺激しあう中で、生徒の成長・必要にあった教育が受けられるような学校体制づくりが必要です。
2. すべての生徒に質の高い高校教育を保障するため、全日制進学率を近県並みに向上させ、前回の高校改革で県民に約束した「93.5%」を早急に実現してください。
【説明】
2000年から始まった前回の高校改革では、「93.5%」の全日制進学率達成を掲げましたが、実現どころか、高校削減により、急速に低下し、全国最低水準になってしまいました(2015年現在90.2%)。近県並みの進学率の達成(千葉94%、埼玉93%、東京92%)は緊急の課題です。「質の高い教育」も入学できなくては受けようがありません。
3.高校授業料無償化と給付制の県奨学金を実現し、学校の県費維持運営予算を増額して保護者からの私費徴収(学校運営費、図書費など)をなくし、「家庭の経済状態にかかわらず安心して受けられる高校教育」を実現してください。
【説明】
神奈川の県立高校の私費負担は全国的にみても大きいものになっています。この原因は県費の学校運営予算の不足にあります。維持運営の予算を増額し、私費負担を軽減することが必要です。
4.「生徒の個性や優れた能力を伸ばす教育」のために、全県立高校で30人以下学級(経過的には35人以下学級、定時制は25人以下学級)の実現に取り組んでください。
【説明】
「質の高い教育」、「個性や優れた能力を伸ばす教育」はきめ細かな指導と、生徒本人が常に参加できる教育活動が必要です。そのためには、小集団での一人一人の生徒が参加できる授業や教育活動の実践が欠かせません。多くのOECD諸国では、高校の25人以下学級が実現されています。グローバル社会に対応するためにもできるだけ速やかにこうした教育条件整備に取り組んでください。
5.生徒学力調査は実施しないでください。「学力向上進学重点校」、「国際バカロレア認定推進校」、「グローバル教育研究推進校」などの指定については指定の指標も含めて慎重に再検討してください。
【説明】
生徒学力調査を実施し、その結果で学力向上推進指定校の判断資料にしたりすることは、県立高校間の序列を決定づけるものとなり、高校間競争と生徒間の学力競争をあおる結果となります。いまの日本の高校教育で弱いといわれている「ものごとをじっくり時間をかけて考える力」や「多様な人々と対話し、連帯・協働する力」などの育成とは相反するものです。
6.「共生社会に向けたインクルーシブ教育」の実現のために、当面、パイロット校を中心とした実践を積み重ねて、人員・規模など必要な教育条件や教育活動、入試システム、進路支援システム等を時間をかけて、十分に検討してください。
①パイロット校は、30人以下学級、1学年6クラス以下としてください。
②将来の「インクルーシブ教育推進指定校」を「20校程度」と限定するのではなく、「希望すればどの学校でも受け入れる体制」をつくるため、まず、県立高校全体の教育条件改善の計画(30人以下学級実現など)に取り組んでください。
③また希望する生徒が、適正な通学時間で適正規模の学校での教育を受けられるよう、特別支援学校(養護学校)の増設を進めてください。
【説明】「
20校程度」の「インクルーシブ教育推進指定校」をつくるということは、「第二の特別支援学校(養護学校)」をつくることに他なりません。過大規模の、教職員定数を減らした「安上がりの養護学校づくり」となってしまいます。インクルーシブ教育は、障がいを持った生徒とすべての多様な生徒との共生が重要です。県立高校全体の教育条件を改善するとともに、必要となった高校には専門知識を持った専門の教員をすぐに配置できる体制をつくるなどの条件整備をおこなって「希望すればどの学校でも受け入れる」体制をつくることが必要です。
7.「外国につながりのある生徒への教育機会の提供と学習支援」についてもインクルーシブ教育の一環(多様な言語や社会文化とそのハンディキャップ)と位置づけ、各学校での支援体制(言語の専門教員とコーディネーターの配置)と、それをバックアップする全県のセンター的機能を持つ機関(教育センターなど)を含めた充実をはかってください。
【説明】
いま「外国につながりのある生徒」の多くは入試のハンディなどから、夜間定時制に入学しています。こうした生徒を全日制でも受け入れることができる体制づくりが必要です。また、入学する生徒の言語や文化は様々ですが、学校により、入学年度によって大きく変動します。これに対応するためにも全県を見据えた「センター機能の設置・充実」は重要です。
8.「校長のリーダーシップ」を過度に強調するのでなく、職員会議を充実させて、職員間の調整を密にし、過密・過重な労働を軽減して教職員全体の活力を高める効率的な学校運営をしてください。
【説明】
前回の改革では「校長のリーダーシップ」が強調され、管理職と総括教諭による企画会議中心の学校運営に移行し、職員会議の伝達機関化がはかられました。こうした中で、校長が異動したために学校運営が大きく変わって生徒や保護者にも影響する混乱を生じたり、「起案書類」が急増して管理職が処理しきれなくなって校務の進行が遅れる、書類作成に時間を取られる一方で授業準備や生徒対応の時間が確保もあり過重労働となるなど、多くの深刻な問題点が生じています。
学校は教職員各個人の労働の場であるだけでなく、多くの教育活動は教職員相互の協働労働によって成り立っています。全教職員の合意形成の場である職員会議を充実させることで、情報を共有し、学校の教育理念や教育活動の意思疎通をはかることで、無駄な書類作成や各教職員の孤立化も防ぐことができます。教職員の総力を結集した学校運営をはかることは、校長をはじめとした管理職や県教育委員会の責任です。
9.「学校運営協議会」については、生徒の代表およびPTA代表の参加と、校長など管理職とは別に校内の一般教職員からの代表も含めてください。
【説明】
子どもの権利条約では「生徒の発達段階に応じた参加」が定められています。「18歳選挙権」も来年から施行されます。高校での主権者教育のなかで最も重要なのは「自分たちに関わることの意思決定への参加」です。学校運営協議会への生徒代表参加は最も優れた取り組みとなります。また、生徒に加えて、一般教職員、PTA(在校生の保護者)も参加することで、学校内の生きた情報が共有され、協議会が形式的なものでなく、実質的なものとなります。
10.県立高校校舎・施設の耐震化と老朽化対策(校舎建て替えなど)を進めてください。
【説明】
県立高校の校舎・施設は、県内市町村の小中学校や市立高校、他県の高校と比べても大変見劣りがします。安心・安全で、現代の生活水準に合った高校生活が送れるよう、トイレやランチルームなど食事スペース、男女別の更衣施設・ロッカールームなどを含めた施設・設備の充実をはかってください。
11.再編統合、高校配置について
①現在ある県立高校(142校、分校1校)を削減しないでください。
②横浜北部など、現在高校が不足し、過大規模化している地域での高校増設を進めてください。
③すべての県立高で30人以下学級(定時制25人)を実現してください。
④夜間定時制については、当面、入学生徒数の増減に関わらず、現在の募集クラス数と教職員定数を確保・維持してください。
⑤通信制のサテライト校(協力校)は全県にわたって、安い費用と短い時間で通学できる範囲に10カ所程度設置してください。
【説明】
「素案」にあるとおり「概ね20〜30校の減」となると、計画完成後の2027年度には40人学級で一学年10クラス以上の過大規模の高校が多数となります。これでは国際水準の25人学級から大きくかけ離れてしまい、「質の高い教育」どころではありません。
以上
<追記>
この件について、口頭陳述をさせていただきますよう申し入れます。