2014年1月5日

 2013年11月5日に、「いのちとくらしと雇用・営業を守る神奈川県市民実行委員会」による対県交渉が産業貿易センターにおいて行われました。そこで取り上げられ、県に示された14年度に向けた高校教育にかかわる要求項目を紹介します。


W、県民が安心して子育てを続け、青少年、成人が豊かな文化・スポーツを享受できる教育・文化・スポーツ行政を求めて

1.子どもの権利に関する項目

(1)子どもの権利の実現について
 @教育基本法や学校教育法などの改定により、特定のイデオロギーにもとづき「愛国心」や「道徳」のおしつけ、教育の国家管理の傾向が強まっている。子どもを主人公に、憲法と教育の条理にもとづく教育を貫くとともに、未来に生きる子どもたちのために十分な予算を確保して、「人格の完成」をめざすゆきとどいた教育を実現すること。

A神奈川の民際外交推進の立場、及び子どもたちの学習権保障の自治体の役割を重視し、朝鮮学校への運営費補助を復活すること。

B新学習指導要領の実施にあたっては、各学校の主体性を活かした教育課程の編成権を保障すること。とりわけ、学校行事の内容、実施形態に対して通知や職務命令などによる不当な介入を行なわないこと。

以下、略


(2)入学式・卒業式について
@卒業式・入学式における「日の丸」「君が代」の強制をやめ、「国歌斉唱」時の起立が強制ではない旨の告知を行うこと。

A神奈川県個人情報保護審査会及び審議会は、「卒業式・入学式で国歌斉唱時に起立しない教職員の氏名収集は、思想・信条情報に該当する」という答申を出している。県教育委員会による「不起立者の氏名収集」は、神奈川県個人情報保護条例第6条「思想、信条、宗教に関わる情報を取り扱ってはならない」ことに違反する。不起立者の氏名収集と指導主事等による訪問指導をやめること。
 

2.国・県の教育行財政に関する要求
(1)全般について
@ 「神奈川の教育を考える調査会」の「最終まとめ」の具体化にあたっては、以下の点を守ること。

ア、神奈川の子ども1人当たりの教育予算が全国最低レベルにあることをふまえ、子どもたちや現場実態を調査し、関係者の意見も十分尊重してすすめること。

イ、県民の関心の高い問題でもあり、パブコメにとどめず、県民討論会など広く県民意見を反映する手立てをとること。

ウ、「最終まとめ(案)」に見るような、「インクルーシブ教育」の名のもとに、障害を抱える子どもたちを、経費縮減の目的から特別支援学校の整備をせずに、小中の一般学級、高校に誘導するようなことや、学級定数の弾力化による教職員削減など、教育条件の悪化につながるような施策化は絶対にしないこと。


C 実教出版の日本史教科書採択に対する県教育委員会の介入について

ア、県教育委員会は、地教行法第23条第6項を根拠に、県立高校の教科書採択権は県教育委員会にあるとしています(具志堅委員長談話)が、文部科学省ホームページで「高等学校の教科書の採択方法については、法令上、具体的な定めはありません…」とあるように、その主張の根拠は薄弱で、教育課程編成権は各学校にあり、教科書選定はそれと密接不可分であるから、「実質的に採択権は学校側にある」というのが、学会の通説です。従って、今回の各校に対する教科書選定の「再考」要請は、法律的にも学説的にも誤っています。なぜこのような誤ったことをしたのか、法的、学説的に説明すること。

イ、県教育委員会が「再考」をもとめた理由として、国旗国歌法問題に関する脚注の3行が県の主張とあっていないことをあげていますが、県教育委員会は3行以外のすべての記述について通読し検討したのでしょうか。通読した上で、3行の記述以外に問題があると考えたのか答えること。また、たった3行の記述が県の主張とあっていないということだけで、それ以外のすべての記述を否定し教科書として認めがたいと判断することの正当性はあるのか、県民や生徒の保護者が納得するように答えること。

ウ、問題とされた3行の脚注は、神奈川県を特定した記述ではありません。神奈川県と特定したものだと勝手に解釈し、認定教科書からはずすことは、いちゃもんとしか言えません。また、この3行は歴史に関する記述として書かれており、国旗国歌法が制定された過去の一時期、卒業式・入学式における国旗国歌の扱いについて、服務として当然のことと見るか思想良心の自由を妨げる強制と見るかをめぐって熾烈な争いがあったのは歴史的事実です。それを踏まえて、文部科学省は、実教出版の教科書を検定教科書として認定しました。神奈川県教育委員会が越権的に教科書の二重検定を行ったのはなぜか、歴史叙述に関する事実認定の問題として答えること。

エ、県教育委員会は、「不採択になると校名が明らかになり、その学校に様々な団体が来て混乱が起こる」と当該校の校長に対して伝えたと報道されています。また、「街宣車が学校にやってくる」との発言があったことを、複数の校長が当該校の教職員に言明しています。本来、不採択になった学校の名前は、情報公開でもとめられなければ明らかにならないはずです。なぜ、実教出版の日本史教科書が不採択になると、自動的に校名が明らかになると伝えたのか答えること。つぎに、たとえ校名が明らかになり、その学校に外部団体が何らかの圧力をかけた場合、その外部団体の行為は、明らかに学校に対する威力業務妨害であり、生徒や教職員に対しては脅迫の罪が適用される行為です。県教育委員会は、威力業務妨害や脅迫から、生徒や教職員を守るために警察と提携しながら行動するのが役目のはずです。以上の推論が誤っているのか否か答えること。もし正しいのだとしたら、県民や生徒や教職員に対して謝罪し、間違いだったことを明らかにすること。

オ、以上の点から、今からでも「再考」を要請した当該校の教科書を、最初の希望の教科書に戻すことをもとめます。また、来年度以降、各学校における教科書採択を実質的に保障する従来の方法に戻すよう約束すること。また、外部団体の圧力がある場合には、県教育委員会の総力をあげて、不当な圧力から学校・生徒・教職員から守ること。


(2)就学援助・経済支援について
C 高等学校等進学者数の割合が97.9%と、高等学校等への進学が実質的に準義務化している現状がある。子どもの貧困化・格差拡大が社会問題化するなかで、小中学生に設けられている就学援助制度を高等学校にも新設する必要があると考えるが、県教育委員会としての見解を伺いたい。

以下、略


(6) 県立高校について
@ 神奈川県立高等学校の管理運営に関する規則第8条第1項には、「高等学校の全日制の課程、定時制の課程および通信制の課程の教育課程は、高等学校学習指導要領の基準により、校長が編成する」とある。昨年は、「神奈川県立高等学校教育課程編成基準」に従って各高校は教育課程を編成すると回答があったが、この編成基準は管理運営規則との関係でどのように位置づく基準なのか明らかにすること。

A 教育委員会は個別学校の教育課程編成に介入しないこと。特に一律の枠を決めた「〜運動」などの強制をしないこと。
ア、各学校の教育課程編成権を尊重すること。

イ、教職員を多忙化に追い込み、生徒と向き合える時間や授業準備の時間を奪っている「観点別評価」「地域貢献デー」「全公立展」「公私高校展」や自主的な教育課程編成を妨げるシチズンシップ教育、日本史必修などの上からの一律押し付けをやめること。

ウ、学習状況調査を廃止すること。

B 現業職の民間委託は、偽装請負の形をとらなければうまく行かないシステムである。民間委託をやめ、現業職員の採用再開をすること。

C 臨任の学校事務職員・学校図書館司書の昇給は、1級29号給(178,800円)で頭打ちとなり、官製ワーキングプアを神奈川県が作り出している。特に、学校図書館司書は県が政策的に採用を控え、その結果、臨任学校図書館司書として10年以上勤め続けている人もいる。いち早く採用再開するともに、臨任として働き続けている学校図書館司書の待遇を抜本的に改善するために、昇給の頭打ちをなくすこと。

D 基本的な校務が勤務時間内で終了する学校運営を徹底させること。やむを得ず超過勤務となった時間は完全な振り替えで対応するような措置をとること。また、教職員の勤務実態調査をすること。また、昨年の回答では労働時間の短縮や校務運営の効率化等の指導をしているとなっているが、具体的な進展状況を明らかにすること。

E 学校私費会計の強制的な教員による執行を止め、教員を教育活動に専念させること。そのために、各校に私費会計執行に必要な人員を配置すること。(私費会計数×2時間で計算する)昨年は、学校私費会計処理は、教員のみならず、学校全体として対応するべき業務であると回答を受けたが、教員が会計執行にあたることについての見解をもとめるとともに、学校全体でどのように私費会計処理を合理的に実施すべきと考えているか明らかにすること。

F 耐震工事・老朽化対策のおわっていない県立高校の早急な改修を実施すること。また、工事の進捗状況と今後の計画を示すこと。

G 体育館や灯油庫などのアスベストは速やかに撤去すること。特に、囲い込み等の対策工事では、地震災害でアスベストが飛散する可能性をなくすことはできない。根本的な撤去工事を行うこと。保土ヶ谷高校のシックスクール問題にあるように、雨漏り防止の改修工事における有機溶剤の汚染防止に努めること。


以下、略


3.児童生徒の必要に応じた学校運営をすすめるための教職員の定数改善に関する要求
(2)現在の保健室は精神面からも子どもたちをささえている。その今日的役割を考慮して、すべての学校に養護教諭を複数配置する県独自措置をとること。県立高校で正規採用の養護教諭の複数配置をめざすとともに、臨任・非常勤の形での複数配置に付いても、配置の時期については各学校の要望を受け要望にかなう形での配置とすること。

(6) 再任用教職員を国が行っているように、定数外として扱うこと。また、当面2分の1再任用教職員は定数外として扱い、学校の教育力低下を招かないようにすること。

以下、略


8.県立高校再編・入試改革に関わる要求
(1)公立高校入学定員枠と中卒者の進路について
 国連子どもの権利委員会が、『学力的な優秀性と子ども中心の能力形成を結合し、かつ、過度に競争主義的な環境が生み出す否定的な結果を避けることを目的として、大学を含む学校システム全体を見直すこと』を日本政府に勧告している。

 神奈川では、その否定的影響が、不登校、暴力、いじめ、中途退学などと顕著に実体化している。高校入学問題が義務教育全体、子どもたちの人格形成に大きな影響を与えていることを重視して、以下の改善を図ること。

@ 13年度入試から、「生徒の受入れを拡大することを基本方針とし」、公私立高校が「実現を目指す定員目標を設定する方式」に変更して、全日制高校進学率が一定改善された。しかし、なお1,786人以上の子どもたちが全日制高校を希望しながら断念させられている現状は早急に改善しなければならない。県民の子弟の教育に責任を負う県政として、県内公立、県外公立、県内私立、県外私立、それぞれの定員計画と計画進学率を県民に示し、その達成のために具体的施策を検討すること。

A 知事が主宰する公私立高等学校設置者会議は8年を経過して、当初県民に約束した目標と逆の結果を生みだし、機能不全状態から脱出の道を模索する事態にある。子どもたちを蔑にした公私の談合の場とまで批判されている。この体制を解体し、現在オブザーバー参加とされている、現場を一番よく知っている中・高教員代表、PTA代表を中心メンバーとし、高校生、中学生の意見表明も保障する組織に再編すること。

B 公立高校授業料無償化の精神を具体化して、全日制高校進学率を当面、生徒の全日制希望率(12年度卒は91.4%)とし、公立全日制高校の定員を増やすとともに、私学学費補助を大幅に増額して公私間格差を是正し、希望する子どもたちが私学を選べるようにすることによって、全国最低全日制高校進学率(13年度入試は88.8%)の大幅改善を図ること。

C その年度の高校募集定員計画にその年度の中学校の進路希望調査を活用できるように、その調査の実施時期を現行10月より早めること。

D 全日制の学級数を確保するためとして、1学年9学級以上の学校を作ることは止めること。県が学校規模の標準としている学年6〜8学級を守り、現在行われている6学級8クラス展開の運営を保障すること。

E 定時制高校の学級定員現行35人を守って、入学定員・学級数を決めること。さらに、定時制30人、単学年2〜3学級の適正規模化をすすめ、定時制を希望する子どもたちのニーズに応える教育を保障する環境を整えること。

F 義務教育修了者が自らの進路を決めて、希望をもって門出できるように行政が条件整備に責任を果たすべきである。毎年1000人近い子どもたちが進学も就職も決まらないまま中学を卒業している。さらに、高校1年生の中退者(12年度)も全日制454人、定時制547人、通信制768人と、1,769人を超えている。その多くは、16、17歳でドロップアウトしていると心配される。その後の子どもたちの生活実態を追跡調査し、それらの子どもたちを生みださない対策を明らかにすること


(2)高校入試について
@ 新入試制度は、学力重視をうたい、社会科は極端に平均点が低下した。差をつける学力競争ではなく、それぞれの高校で学習するに足る学力をみる問題とし、子どもたちへの心理的、肉体的過重負担を解消し、義務教育の競争主義教育の弊害を排除すること。

A 地域づくりの観点からも学区問題を重視し、全県一学区制から当面、以前の中学区制にもどし、希望する子どもたちが安心して近くの高校に進学できるように改革すること。アンケート結果に見る学区自由化の肯定的意見は、合格者の意見であり、不合格者も含めた受験者・保護者の意見ではないことも考慮し、その弊害も分析する必要がある。


D 募集人員の80%枠では不合格になるが、はじめから100%枠ならば合格となる子どもたちを挫折させないために、3月の「定通分割選抜」を廃止し、「共通選抜」で100%とるように改めること。不合格者の受け皿は二次募集で可能であり、定員が十分に準備されていれば問題はない。


(3)高校再編・「高校改革」について
@ 全日制高校を廃止して昼間定時制をつくる県教委の方針は県民の理解を得難い。全日制を希望しても入れないから定時制に希望する。夜間定時制よりは昼間定時制を希望する。昼間定時制が子どもたちの真のニーズでないことはアンケート調査からも明らかである。昼間定時制ではなく全日制高校を増設すること。

A 学級の適正規模を確保しつつ、全日制高校定員を確保するために、人口急増地域の横浜北東地域など、地域的配置を考慮してしながら高校増設を図ること。

B 定時制高校の地域性、今日の定時制高校が果たしている役割を考え、夜間定時制の定員確保のため、横浜市教委と川崎市教委の定時制再編合理化計画を抜本的に見直して定員を確保するよう申し入れること。

C 横浜総合高校の弘明寺移転に伴い、横浜東部が夜間普通科定時制高校が手薄になる。定時制高校の全県的適正配置と適正規模を考えて、横浜東部に県立の夜間定時制を設置すること。

(4)定時制高校の充実について
@ 経済格差の拡大・貧困化の拡大を考慮し、定時制高校の給食費や教科書代を自己負担させないこと。

A 夜間定時制給食は、経済困難が深刻化する中で、若者の健康と体力維持増進、食育の観点からもますます重要になっている。給食制度の維持はもとより、衛生基準や現場・生徒のニーズに合った施設設備と給食内容の充実を図ること。

B 定時制の在籍生徒数の急増にともない、全日制・定時制併置校においての県費予算不足はより深刻である。全日制単独校と変わらない図書費20万円をはじめ、生徒数の増加に見合った予算とするよう、ただちに改善を図ること。

C 夜間定時制においては、この10年間に入学生徒数が2倍に増加した一方で、教職員定数はほぼ同じという状態が続き、教員一人あたりの生徒数が全日制を大きく上回る学校も現れている。不登校、病弱、外国籍など配慮を必要とする生徒が多い現状をふまえ、定時制の教員定数の改善を図ること。

D 生徒がいる時間帯であっても司書、事務職員および現業職員が配置できていない状況を改善するため、定時制のための司書、事務職員、現業職員を増員すること。


(5)新しいタイプの通信制高校の学習環境充実について
@ 不登校が1万人を前後する実態がつづいている。義務教育を修了して模索するなかで高校教育に移る高校1年生は、自分を主体的にとりもどすチャンスである。修悠館高校に対する期待も高い。その子たちの条件に合わせて、寄り添う指導がもとめられる。そのためには法定数にとらわれることなく、「毎日通える」という条件に合せて教員数を増員して、遅れを取り戻して成長できる条件を整備すること。

C 「残す」との県民に約束をし、施設も残っている湘南高校、平沼高校の通信制課程を、不登校生徒のニーズに多面的にこたえる施策として、小規模通信制として再開すること。

(6)高校生の就学保障・経済的支援について
@ 学費の公私格差を縮小するとともに、学費補助制度の大幅な拡充・増額を図ること。公私立高校への入学に「入学支度金制度」を新設すること。

A 経済困難家庭の増加に合わせて、返還不要の給付型奨学金を新設すること。また、少しでも多くの家庭で利用できるように、奨学金制度について広報活動を促進すること。貸与型の奨学金についても、奨学金受給者が一定の収入額を得るようになるまでは返還猶予する制度をつくること。


以下、略

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