2013年7月13日
神奈川県では2012年9月に「神奈川の教育を考える調査会」(教育臨調)を発足させ、経費の節減と教育の質の確保などを中心に審議されています。神奈川臨調は、この3月に「柔軟な学級編成と教職員配置」、「県立高校の再編・統合」などを内容とする『中間まとめ』公表しました。
最終答申は今年8月とされており、「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」は6月、これについての『意見書』を提出しました。以下。その『意見書』を紹介します。
神奈川の教育を考える調査会
各委員のみなさまへ
「神奈川の教育を考える調査会 中間まとめ」についての私たちの意見と今後の神奈川の高校教育のありかたについての意見書
2013年5月26 日
かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会
<懇談会団体>
横浜市立定時制高校の灯を消さない会 代表 高坂 賢一
かながわ定時制教育を考える会 代表 保永 博行
定時制高校を守る市民の会かわさき 代表 浅野 栄子
不登校の親の会(こだまの会) 代表 馬場 千鶴
教育委員会を傍聴する会 代表 土志田栄子
港南区・教育を語る会 代表 三輪智恵美
県民要求を実現し県政の革新を推進する連絡会 事務局長 蓮池 幸雄
新日本婦人の会神奈川県本部 会長 泉水 令恵
神奈川県教育運動連絡センタ- 事務局長 加藤 誠
お忙しい中、調査会でのご審議、一県民として、まことにありがとうございます。
私たち、かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会では、「中間まとめ」についての意見と今後の神奈川の高校教育のありかたについての意見をとりまとめました。ぜひご一読いただき、審議の参考資料にしていただければ幸です。
Ⅰ 「中間まとめ」についての意見
1,「Ⅲ 神奈川の教育に関する課題、1 教育費」について
・・県教育委員会の平成24年度当初予算(5,364.4億円)に対する教育職員人件費(5,098億円)の割合は95.0%であり、本県の教育予算は、その大部分が教育職員の人件費で占められている。
こうしたことから、神奈川の教育を考えるに当たっては、教育職員をいかに効果的に配置し、様々な教育課題に対処していくのか検討することが重要となる。
上記の表現は「教育職員人件費の比率が高いので、その費用をいかに減らして、効果的に職員を配置するか」とのように読める。しかし、神奈川の県立学校に使われている1校あたりの維持運営の予算は、東京都の半分、近県の埼玉や千葉の3分の2以下であり、全国水準から見ても極端に低い。学校の維持運営費用や修繕費用などの教育委員会の人件費以外の予算が少ないため、結果として人件費比率が上がっている事実を指摘しておきたい。
2,「(1)公立・私立高校の柔軟な定員決定のしくみづくり」について
『新たに導入した「定員目標設定方式」の検証と改善』となっているが、公立と私立とがそれぞれ募集定数を公表するという現行の方式は県民にとってわかりにくい。県民にわかりやすい行政目標値としての「計画進学率」に改めるべきである。
「まとめ」にも書かれている「公立、私立を問わず全日制高校への進学を希望する生徒が、希望する高校に入学できる環境の創出」はぜひ実現して欲しいものである。
3,「(2)私学助成の学費補助への重点化」について
学費補助の拡大と充実は全日制進学率の向上には欠かせない。しかし、学費補助以外の私学助成の削減が行われると学費の値上げや教育条件の悪化につながる恐れがある。私学助成全体の改善充実も欠かせない取り組みである。
4,「(3)柔軟な学級編制と教職員配置の実現に向けた働きかけ」について
「支援が必要な生徒への対応」としては、現在、クリエイティブスクールにおける教職員加配などがある。一方、定時制高校では、日本語を母語としない生徒や、経済的に恵まれない家庭や学習環境が劣悪な家庭の生徒がかなり多くを占めている現実がある。こうした生徒への支援を手厚くするためには、定時制においても最低限、クリエイティブスクール並みの教職員配置の加配は欠かせない。
しかし、一方「柔軟な学級編成」とあるが、現在の高校での「40人学級」はまだまだ国際水準からしても劣悪である。小中学校で始められている「35人以下学級」を高校でも進める必要があるし、さらに「30人以下学級」をめざして改善措置を進めるべきである。「柔軟な学級編成」として「40人超」の学級編成も考えるというのなら時代錯誤も甚だしい。
5,「(4)県立高校の再編・統合の検討」について
「学校の適正規模化や適正配置を通じた、より効果的な教育の実現と活力の創造」や「再編・統合を通じた効率的な教職員の配置と組織体制の確立」が「期待される効果」としているが、いま再編・統合(廃校)は必要ではない。むしろ旧横浜北部学区などでの、将来も見据えた高校増設が必要である。
「公立中学校の卒業者は・・平成26年の7万人をピークに・・6万5千人程度で横ばいとなる見込み」とあるが、「再編計画」でも途中で5000人増の修正を行わざるを得なかった。今後の外国籍人口の流入と定着なども考えると想定値の増加修正が出る可能性も高い。
2000年からの「再編計画」で前期14校、後期11校の削減が行われた。その結果、2002年からの「定時制・通信制へのあふれ」や全日制進学率の大幅低下(全国最低の88.0%)が引き起こされている。この事態についての「検証」はしたのだろうか。
また、「再編計画」では「全日制は6〜8クラスが適正規模」とされたが、現在、10クラス募集校が10校、9クラス募集校が13校にもなっている。この時期での「再編・統合の検討」は、「教職員定数削減ありき」(人件費節減)の、現状と将来像(40人から少人数学級への改善)を見ようとしない暴挙である。
Ⅱ 今後の神奈川の高校教育のありかたについての意見
1,生徒募集計画および全日制高校について
① 公立全日制高校の募集定員を中卒者比62.9%以上に引き上げること。(表参照)
→→全日制進学率を現在の88.3%(2012年度公立中学校等卒業生実績)から91.2%に引き上げるには、2.9%引き上げる対策が必要。
→→これを公立と県内私立で現状の比率で分担すると、公立2.2%、県内私立0.7%となる。
② 10校以上を県立全日制高校として増設し、定員の確保と県立高校の適正規模化(1学年8クラス以下)をはかること。
→→今後、92%や93%程度(千葉県や’埼玉県なみ)の全日制進学率を展望すると公私で3500人程度の定数増(88%の進学率に比べて)が必要となり、県立でも2500人程度の増加が必要となる。現在、すでに横浜北部の地域を中心に適正規模の8クラスを超えて9,10クラス校も多数でている。適正規模を守り、教育環境を守るためにも全日制高校の増設は必須である。また、今後の30人以下学級の実現のためにも、学校数の維持・確保は欠かせない。
③ 全日制高校30人以下学級、定時制高校25人以下学級を実現すること。
→→「質の高い教育」実現のためには、高校30人以下学級、25人以下学級の実現が欠かせない。また、多くの国ですでに実現されており、グローバル社会の進行の中で、日本の立ち後れは甚だしい。
2,定時制高校について
① 緊急対策(あふれ対策)を行った結果として生じた1校300~500人近い超マンモス校を早急に解消し、35人学級・学年2クラス以下の適正規模にもどすこと。
② そのためにも、全日制希望者が全日制高校に入れる条件を整備して不本意入学者をなくし、中退者を減らすこと。
③ 定時制高校の実態を踏まえ、クリエイティブ校なみの加配を行い定時制の教職員を増員して、きめこまかな指導によって不本意な中途退学者を減らすこと。
④ 1学級の募集人数を年度によって40人にしたり35人にしたり、全日制不合格者の受け皿的なあつかいをすることはやめること。定時制高校のよさを復活させ、子どもたちが安心して学習できる環境を整えること。定時制の溢れを通信制に流して解消するなど許されない。
⑤ 以前の定時制高校は、学習のつまずき、いじめ、不登校、高校中退などで傷ついた子どもたちの「生きなおし」の場、勤労者はもちろん、外国籍の人たちの学びの場として、重要な役割をはたしてきた。「定時制のよさ」――少人数学級、小規模学校、安心して通える地域性、異年齢集団を確保するために、定時制の適正配置をして、本来の定時制の一人ひとりが大切にされる“学びの場”に再生すること。
⑥ 横浜市立夜間定時制高校の削減計画を中止すること、川崎市立夜間定時制高校を削減しないこと、および募集クラスを増やして定時制を希望する子どもたちが安心して学べる環境整備について横浜市、川崎市に強く要望すること。
⑦ 川崎市の定時制学区設定の結果を検証し横浜地域への影響を明らかにすること。また、横浜総合高校の弘明寺方面移転にともなう夜間定時制の空白地域拡大について、横浜市、川崎市と協議し、定時制の地域的適正配置をすすめること。
⑧ 相模向陽館高校および新たに開校予定の港南台方面多部制定時制高校については、4年制、少人数学級展開などの定時制の良さを保ちつつ、「多部制展開」をやめて、子どもたちの要求に合わせて放課後の部活動や課外活動等ができる環境を整えること。また特に指導に配慮が必要な生徒が多い実情を踏まえて、個々の生徒に各教職員が十分な時間をもって対応できるよう職員定数や配置に配慮すること。
⑨ 2014年4月より設置される川崎市立の昼間定時制高校について生徒の実態にふさわしい教育内容が保証されるよう、教職員の定数や配置さらには教育課程について特段の配慮を行うように川崎市に働きかけること。
3,保護者の学費負担軽減について
① 公立高校の私費負担の実態を調査し、県民に明らかにするとともに、学校予算を増額して、本来公費で負担すべき費用の私費負担をなくすとともに、文字通り「高校学費無償化」をはかること。
② 義務教育にある、「就学支援制度」を公私立高校生にも創設し、入学時の過重負担を軽減すること。
③ 松沢知事が05年に約束したように「公立並みの学費で私学を選択できるように」私学助成、学費補助を大幅に増やして、私学を希望する子どもが私学に志願できる条件を整備すること。
④ 学費補助を中学生3年時に仮申し込みできる方式をさらに発展させ、それを見越して入学金の延納や貸付制度をつくること。
⑤ すべての私学の入学手続き(納金)を入学金を含めて公立の合格発表後にもできるようにすること。
⑥ 全日制・定時制・通信制を問わず、共通選抜から二次募集まで一回の受験料納入で受験できるように特別の教育的配慮をすること。
⑦ 2012年9月に発表した「緊急財政対策」に「削減対象」として計上した高校教育に関する補助金等については、保護者負担軽減の視点から見直し、むしろ維持・強化を図ること。
4,高校卒業後の自立に向けて
いま、「若者の貧困」が問題となっています。授業料の値上げ、経済状況の悪化などによって、「家庭の経済状況により大学、短大、専門学校等への進学をあきらめる若者」は、ますます増え、また、月数万円の通学費用負担に苦しみ、職業訓練をあきらめる若者も出る昨今です。
「貧困の連鎖」を断ち切り、高校卒業後の将来に展望を与えることは高校生活の充実にもつながります。以下のことがらについて検討、改善をお願いします。
① 大学、短大、専門学校等を対象とした給費制の奨学金を創設し、充実を図るよう、国に強く働きかけること。
② 国立大学の無償化をはじめ、大学、短大、専門学校等の無償化に向けての環境整備を早急に進めるよう国に求めること。
③ 当面、国公私立を問わず、すべての大学、短大、専門学校等の学費や入学手続き費用の納入については、学生支援機構の奨学金の初回支給日(6月末)以降の期日にするなどの指導措置を国に対して求めること。
④ 国費など公費による職業訓練制度の拡大と充実をはかり、また職業訓練生の通学費用の補助制度の創設など、実質的に無償化をすすめること。
⑤ 高校生の就職活動の充実のため、各高校に正規職員の専門職としての「就職支援員」を配置し、その充実を図ること。
⑥ また、生徒の就職活動にかかる交通費用について公費からの補助制度を創設すること。
⑦ 「正規」と「非正規」との間の賃金など労働条件の格差をなくすための改善措置を国や産業界に対して強く働きかけること。