2008年7月19日

 7月12日、横浜市中区のいせやま会館において「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」主催による「高校定員問題を考える集い」が開かれました。
 当日は、日本高等学校教職員組合中央執行委員で埼玉県の定時制高校に勤めている鈴木敏則氏が「高校入試、全国の状況」と題して講演しました。
 その後、「かながわ定時制教育を考える会」の事務局で神奈川県の定時制高校の教員が、「神奈川県の生徒募集と高校入試」を報告しました。さらに、この春開校した県立横浜修悠館高校に子どもが通っている保護者から「修悠館高校の実態と問題点」が伝えられました。
 以下、この二つの報告と、当日資料報告された「修悠館高校に関して、県内A中学校教師より」を資料として紹介します。


『神奈川県の生徒募集計画と高校入試』

 
1,子どもたちの置かれた状況

     不登校生徒8000人、暴力行為全国1位、フリーター(高卒無業者)全国2位
     私立高校への経常費補助全国46位、全日制進学率89.3%(全国最低)
 
     経済格差の拡大と貧困化
     (生活保護率11.3%、県立高校授業料免除者:99年2.4%→04年5.3%)
 
     新自由主義的政策の進行(自己責任、自助努力、受益者負担)
     『県立高校改革推進計画』・・・県立高の過大な削減・・・公教育の責任放棄
       前期計画(2000年度〜2004年度)・・・14校削減
       後期計画(2005年度〜2010年度)・・・11校削減
       (99年当時の試算では、『この計画で約2500人の生徒が行き場を失う』)
      多様な高校(総合学科、フレキシブル、単位制など)と多様な入試・学区撤廃、その一方で、『計画進学率の段階的引き上げ』を宣言。(2000年度は94%)
 
2,07年度入試、08年度入試の結果

<07年度入試>
   公立全日制を志願しても入れない子ども・・・・7200人(卒業生の11%)
   その子どもたちが定時制に殺到(約1100人)
   定時制後期試験では、1124人募集に対し、1692人が受験。568人が行き場がない状態
   県教委が210人の募集定数拡大の緊急措置。さらに210人を定員オーバーで合格に。
   定時制2次募集では16人受験で全員合格(定員3人オーバー)
   3度目4度目の受験でやっと定時制に合格(約1000人)

<08年度入試>
   公立中学卒業生64868人(07年)→ 64392人(08年)と376人減少
   公立受け入れ枠:39300人(07年)→ 39000人(08年)、60.6%(中卒者比)
   県教委は定時制当初募集定数を前年比で460人増やす
   定時制での『混乱』『異常事態』はなかったものの、全日制希望の受験生が定時制に、さらに通信制(平日昼間登校できる修悠館)に殺到した。
 
   定時制では2002年以降、5回(03年以外)募集枠を入試途中で拡大して過剰受け入れ
   【定時制の大規模化と過密状態、教育環境の悪化】
    40人を超える学級も、500人近い在籍者数、
    常勤教員の不足(全日制より悪条件)
       常勤教員一人あたりの生徒数(普通科での比較、全県平均):
         定時制=14.9人、 全日制=14.7人 (2007年度)
    教室・机・下駄箱など設備の不足、
    併設する全日制とのトラブル頻発
    『面倒見の良い定時制』の喪失・・・・有職者、不登校、年配者、外国籍などなど
 
  【昼間登校できる定時制や通信制高校に殺到】
    県立川崎高校・厚木清南高校定時制(フレキシブルスクール)・・・大量の不合格者
    08年度開校の平日登校もできる通信制『横浜修悠館高校』(平沼・湘南の通信を統合)
    定員を500人近くもオーバーして約1700人(うち250人は自衛隊少年工科学校生)の新入生、転編入生を受け入れ。
   平沼・湘南からの『移行生』2500人を合わせて4000人以上の大規模校 1クラス100人、40クラスを51人の  教員(07年度:平沼+湘南=48人)が受け持つ。
   従来型の通信制、インターネットを使ったIT授業、平日登校講座の3パターンの授業。
   平日登校希望者は今年度800人。月〜金まで6時間授業を展開。
   日曜は教員全員出勤。7コマの授業。5月からスクーリング、平日登校講座も開始。
   5月の教員の勤務時間はひと月で、260時間(正規は160時間)にも及んでいる。
   教員は授業準備、レポートチェック、生活指導とに追われ、生徒と接触する時間がもてない。その結果、とまどう生徒も多い。
 
3,神奈川の高校定員計画

(1)2005年度(H17)入試まで・・・・『計画進学率』
    県内私学の『私学枠』について、知事と私学協会とで協議(8月)
    知事査定による私学枠の決定
    決定された私学枠と生徒の希望状況、前年度の入試結果等を踏まえ、
    県が目標値である『全日制計画進学率』を設定し、
    それに合わせて公立学校の募集定数を決定(9月〜10月)
 
  計画進学率(%)= (公立高校定員+県内私学枠+県外全日制・高専進学見込み者数)/(県内公立中学校卒業見込み者数)×100

 *その問題点
  1)私学枠の問題
     イ、私学枠の設定・・・知事と私学協会の協議・・・密室協議
     ロ、『私学枠』の『カラ枠』・・・98年度以降、毎年2000〜2500人の空き
  2)計画進学率と実績との大幅なズレ
     90年度〜93年度の間は、計画を実績が上回る
     90年度:計画91%→実績92%   93年度:計画91%→実績91.8%
 
    94年度以降、計画を実績が下回り、年々その差が増大
     94年度:計画92%→実績91.6%
       *99年秋、「県立高校改革推進計画」決定(計画進学率の段階的向上)
     02年度:計画94%→実績90.1%  05年度:計画93.5%→実績90.1% 
 
(2)2006年度(H18)入試以降・・・・『設置者会議』・『公私協議会』
  2004(H16)年10月 私学協会が県教委を提訴
    県の『募集計画(公立枠)』の差し止め訴訟 →知事による仲裁で和解
  2005(H17)年3月 『設置者会議』・『公私協議会』の設置
    『公私立高等学校設置者会議』・・・・年2回
      知事、教育長、私学理事者代表
    『公私立高等学校協議会』・・・・年5,6回
      県教委、県民部、横浜・川崎・横須賀市教委(計6名)
      私学協会代表(計6名)
      オブザーバー(高校校長会、中学校長会、私学保護者、公立保護者、計4名)
 
<2006(H18)年入試にむけての検討>・・・公立高校定員について
   県教委は、前年度からの定時制への『あふれ分』等を見通して、38919人を提案
   私学側からは強い反対意見         (2005年8月29日公私協議会)
   知事判断で、38000人とすることを決定。併せて奨学金充実など私学への誘導策。
                        (2005年9月13日設置者会議)
       → その結果、全日制進学率:90.1%(05年)→89.6%(06年)に
 
<2007(H19)年に向けての検討>
 2007(H19)年度定員計画から『率による割り振り方式』を導入
 「公立全日制の枠」は『率による割り振り方式』の完成年度である2009(H21)年度の
  基本比率6割を目指した計画とする。(具体的には39300人、60.6%)
       → その結果、全日制進学率:89.6%(06年)→89.3%(07年)に

<2008(H20)年に向けての検討>
 2007(H19)年度にひきつづき、『率による割り振り方式』を導入
 「公立全日制の枠」は『率による割り振り方式』の完成年度である2009(H21)年度の
  基本比率6割を目指した計画とする。(具体的には39000人、60.6%)
   → その結果、全日制進学率:89.3%(07年)→とうとう88%台に??(08年)
 
<公私協議会での『基本的考え方』>
 募集計画策定方式の変更
  『計画進学率』を決めない(ただし、県教委は内部目標として設定。07入試は91%)
  『公立枠』のみ決め、私学については、各私学が認可定員の範囲内で募集定員を設定
  『率による割り振り方式』を導入
   2009(H21)年度の基本比率を公立6割、私立とその他を4割(中学卒業生に対し)
 
 2005(H17)年9月13日公私立高等学校設置者会議了承事項
  Ⅰ 今後に向けて
   1 公私が協調することにより、
    (1)生徒の視点に立った定員計画を策定すること
    (2)全日制高校への進学実績を向上させるよう努めること
    (3)生徒一人ひとりの希望と適正に応じた進路を確保することを目標とした定員計画とすること
   2 生徒が幅広く高校を選択する条件の一つとして、公私間格差の是正を図る方向で検討
 
* その問題点
  公私比率:『公立6割』の非現実性・・・・実現する『手だて』を打っていない。
   『公立8割』の進路希望とのへだたり と 所得格差・貧困化の進行
   『全国46位』の私学助成、拡大はしたが、『返還義務』と『成績条項』の奨学金
   『計画進学率』の放棄・・・・次世代を担う人間に対する責任は?
 
*定時制・通信制の混乱状況をなくすためには、
  せめて、公立枠を62.5%に引き上げることが、いますぐに必要。




『県立横浜修悠館高校の実態と問題点』


 平沼通信制高校へ1年間通学し、今年度から修悠館高校へ移行された娘を持つ保護者です。
 小1から不登校、小3からフリースペースに通い、高校1年から通信制高校へ。去年1年間で、やっと先生に質問をすることが出来、初めての学校生活にも慣れ、今年は、「お友達を作りたい」との希望に、平日講座で学ぶことを決めました。

 平日講座では、新入生が何でも優先的に決めてから、残りの中から時間割を決めたり、バーコードもかなり遅く届いたり、情報やお手紙が来なかったりと、移行生にとっては情報が届かない不安な毎日が始まりました。トライ教室とかもやっているそうですが、今月始めて知りました。保護者コミュニティも始めて知りました。お手紙でも日にちは書いてあっても、時間や場所の記入が無くどうしたらいいのか?学校に電話をかけてもどなたも出ません。仕方が無いので、スクーリングが無くても学校に行って、先生に質問するために(このときもたらいまわし)先生を捕まえたら、まとめて質問しないと、次はいつ捕まえられるかわからない状態です。

 校舎も工事があと2年間続くため、教室変更が多く、家から1時間30分で学校へは行けるのですが、2時間前に家を出ないと不安で仕方ない様子。早めに教室で待っていても、授業が始まらず、気がついたら教室変更、また教室を探し、先生に聞きまわりついた頃には、5分を過ぎてしまうので出席扱いにはなりません。現在でも教室変更には、なかなか対応できていません。電車が止まった場合も、5分遅れたら出席扱いにはならないそうです。電車が遅れて授業が受けられずに替わりに受けられる時間を質問しても、「受けなくとも大丈夫、替わりに受ける時間がない」と返答され、本人はとても不安で不安で仕方ない様子。教科のことなどで、質問すると先生から「先生も忙しい。自己中心的だ。」と叱られ、質問することを止めた時期もあったそうです。

 レポートも平沼時代とは違って難しい科目もあり、数学のある科目では兄弟の一人が自分の高校の先生に質問しても答えられない問題が出されています。先生方も採点に今までの倍の時間がかかり、休日や寝る時間を借しんで採点してくださっているようです。先生ひとり当たりの採点する生徒の数は、今までと変わらないとのことですが、登校講座やIT講座もあり、生徒がレポートを提出してから戻ってくるまで1週間以上かかるので、前期試験までに必要なレポートが戻ってくるかをとても心配しています。

 ロッカーは1階にロッカールームがあるのですが、授業間の休み時間にロッカールームに戻ることが難しく、全部持ち歩かないとならない様子です。

 IT講座は6月9日から稼動したものの、セキュリティが厳しく確認作業が多すぎて落ち着いて学習できないと聞いています。部活に入りたくても7時間目のみ(部活のある曜日の娘のスクーリングは2時間目のみ)で、日曜講座もスクーリング時間が重なっていて、受けたいスクーリングを受講することが出来ないため、1科目1時間のために通学します。

 彼女のやる気が毎日少しずつ諦めに変わっていきます。7月からは、朝起きる意欲が減少中…。唯一、図書館の司書先生に名前で呼んでもらえるので、図書委員を引き受けて頑張っています。

 平沼からの先生には、名前を覚えてもらっているみたいですが…誰とも話さない一日も多い様子です。先生(養護教諭も)の人員も増やして、もっと余裕をもって子ども達に接することが出来るように望みます。

 

県内A中学校教師より


 修悠館高校で、追い出きれた生徒が、中学校の地域に戻り、昼夜、在校生たちを呼び出したり、たばこを吸ったり、校門で部活帰りの生徒たちを待っていたり、夜、万引きしようと誘ったり、公園でわめいていたり、・・・。とっても困っています。警察を呼んでそのつどパトロールもしてもらっています。そもそも修悠館高校で、かかえこむことができないしくみの高校づくり、の矛盾が、地域で混乱をもたらしています。

 先日の中学校進路担当者会で、校内見学をしました。目にした光景は、2~5人くらいのみ後ろの方に座り、ドリルをひらいて、先生は前の教卓で授業を進めていました。とても静かでした。もと不登校などで学べなかった生徒に学習を保障できていると。たしかに救われて、「ちゃんと学校行っているよ」と、挨拶に来た卒業生がいて、よかったなとは思いました。

 説明の校長、教頭は、安心して勉強できている、初めに線を決め、1週間がんばって、「筆記用具を持ってこない、教科書を持ってこない、レポートを持ってこない生徒は教室に入れない」と教師たちがみんなでー致してぶれない指導をしてきた成果があらわれたと。そして、それらの生徒たちは教室から追い出され、ラウンジに。そこからも追い出され、校舎外に。そして、さらに追い出されて、古巣の地元に戻ったということなのでしょう。

 たしかに勉強道具を持ってこない生徒には、毅然とせまって良いと思います。でも、どれだけかかわってもらったでしょうか。かかわる職員体制はどうつくれているしくみなのでしょうか。どんな生徒でも受け入れの方針でできた昼間の通信制高校ではなかったでしようか。わずか数ヶ月でもう追い出された生徒たちです。

 掲示物には、「大声で騒いだり、音楽など流したりしない。机に腰掛けたり、椅子に寝ころばない。ゴミはゴミ箱に捨てる。食い散らかさない。室内でダンスや化粧をしない。窓から出入りしない。他の迷惑となる行為をしない」と書かれて、いろいろなところに貼ってありました.そし、来年度の入試では、きちんと選考すると言っていました。無責任な高校づくりの、ツケなのです。
 

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