2000年9月29日
さる9月21日、横浜地裁民事法廷において、「勤務条件に関する措置の要求に対する決定取消請求訴訟(不当人事取り消し訴訟)」の第1回公判が行われました。そこに提出された訴状を資料として掲載します。
2000年9月25日
勤務条件に関する措置の要求に対する決定取消請求事件
訴 状
原告 中 陣 唯 夫
被告 神奈川県人事委員会
請求の趣旨
一 被告が、平成12年4月19日付でした、原告の勤務条件に関する措置の要求についてはこれを取り上げることができないとの決定を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
請求の原因
一 原告の勤務条件に関する措置の要求
1 勤務条件に関する措置の要求
原告は被告に対して平成12年3月28日、次の内容の措置を求め勤務条件の関する措置の要求をなした。
記
@ 神奈川県教育委員会(以下教育委員会という)において、平成12年4月1日付人事異動で原告を平塚商業高等学校(定時制)から秦野曾屋高等学校(全日制)へ転任させる旨の命令の内示について、その転任命令の理由を明らかにすること
A 教育委員会において、右転任命令について撤回すること
2 措置要求をした理由
(一) 原告は、神奈川県立高等学校の教諭であるが、神奈川県教育委員会は、平成12年3月、原告に対して、平塚商業高等学校(定時制)から秦野曾屋高等学校(全日制)へ転任させる旨の内示を行った。
(二) ところで、教育委員会は、県立高校の人事異動について、県立高等学校人事異動方針の基づき、県立高校人事異動要綱を定め、これにより人事異動を行ってきた。
この人事異動要綱によれば、「本人が希望する場合を除き、57歳以上の者」は原則として人事異動対象から除外されている(要綱3(4))が、原告は、57歳であり、右要綱の人事異動から原則として除外される者であった。
(三) 原告およびその所属する神奈川県高等学校教職員組合は、教育委員会に対して、前期転任内示について、要綱で原則として除外されている者に対して何故転任が命じられるのか、また原則を適用しない合理的理由は何かについて明らかにすることを求めたが、教育委員会は一切回答を拒否し、「原則除外」ということは転任を命じないことにはならないとの抽象的な説明をするだけの不誠実な態度に終始した。
これは、これまでの教育委員会の異動に関する扱いと全く異なる対応であった。
(四) また、原告の妻は、平成12年3月19日、動脈瘤の疑いによる症状の発症により、現在東海大学病院で検査、加療中である。このため、原告は午前中に病院まで自動車で妻を送り迎えする必要があり、転任によりそれが不可能ないしは困難になる事情があった。
(五) 原告は以上のような理由で、被告に対して勤務条件に関する措置の要求をなしたものである。
二 被告の決定
被告は平成12年4月19日付で、前記の勤務条件に関する措置に対して原告の要求についてはこれを取り上げることはできないとの決定をなし、同月24日に原告に交付した。
右決定の取り上げることができないとした理由は次のとおりである。
@ 原告は、転任命令の理由を明らかにすることを求めているが、これは給与、勤務時間その他の勤務条件に関するものではないから、措置要求の対象とならない。
A 原告は、転任命令の取り消しを求めているが、職員の転任は、任命権者がその判断と責任において行うべき管理運営事項であるので、措置要求の対象とならない。
三 被告の決定の違法
1 被告は、転任命令の理由を明らかにすることを求めることが勤務条件ではないとの判断の違法
被告は、転任の理由を明らかにすることを求めることが勤務条件でないとしているが、教育委員会において労使の間での話し合いによって作成された経緯をもつ人事異動の原則たる人事異動要綱に反する転任が命じられた場合、当該公務員においてその理由を知りたいと考えるのは当然であり、重大な意味がある。
このような公務員における手続き的な利益についても、勤務条件と解するべきである。
なお、最高裁判所は、地方公務員法46条について、地方公務員法が職員に対し労働組合法の適用を排除し、団体協約を締結する権利を認めず、また争議行為をなすことを禁止し、労働委員会に対する救済申立の途をとざしたことに対応し、職員の勤務条件の適正を確保するために職員の勤務条件につき人事委員会または公平委員会の適法な判定を要求し得べきことを職員の権利乃至利益として保障する趣旨のものと解すべきとしており(最高裁第三小法廷昭和36年3月28日判決)、このような考えからすれば、同条の「勤務条件」は、民間労働者における「労働条件」と同様に解釈されるべきであり、本件決定のように限定されるべきではない。
2 転任は管理運営事項であるので措置要求に対象とならないとの判断の違法
どこでどのような内容の公務につくかは、典型的な勤務条件の一つである。
そして、地方公務員法46条は、勤務条件であっても「管理運営事項」にあたる場合は措置要求を認めないと規定しているわけではなく、公務員の労働基本権制約の代償としての制度である以上、管理運営事項であることを理由として、転任を同条の「勤務条件」であることから除外する根拠はない。
最高裁判所は、市立小学校教師が国際交流教育のためのベトナム研修旅行について研修として認め、旅行期間中、職務専念義務を免除することを求めた措置要求について、前記最高裁判決を引用した上、「本件措置要求が職員の勤務条件に関する側面を有することは否定できないから、上告人は、これを受理した上、措置要求に応ずることができるものかどうか、あるいは、執ることができる適当な措置があるかどうかなどの点につき、審理すべきものである」として、勤務条件に関するものには該当しないから取り上げないとの名古屋市人事委員会(上告人)の判定を取り消すべきものとした原審判断を是認している(最高裁判所第三小法廷平成6年9月13日判決。名古屋市人事委員会は、「勤務条件」については管理運営事項は除外されるとの主張をしていた)。
原告は、被告に対して右最高裁判決の存在を指摘し再考を求めたが、その姿勢に全く変化がない。
四 以上のとおり、被告の決定は違法であり、取り消されるべきであるので原告は本訴に及んだ。
証拠方法(略)
付属書類(略)
平成12年7月21日
原告訴訟代理人
弁護士 野村 和造
同 岡田 尚
横浜地方裁判所
第一民事部 御中