2003年11月1日
10月14日に行われた川崎市教育委員会会議において、市内の定時制高校の生徒と保護者が意見陳述を行いました。この意見陳述の後、川崎市教育委員会事務局は「13名の委員に最近の卒業生と保護者2名を加え、計15名とする」と述べ、「定時制高校を守る市民の会かわさき」が提出していた請願を受け入れることを表明しました。
以下に、その日の定時制生徒の意見陳述を資料として紹介します。
私は市内の定時制高校の4年に在籍しておりますKと申します。この場をおかりして私の定時制高校に対する思いをお話させていただきます。
私は中学生の時に学校に通っていませんでした。いわゆる登校拒否でした。理由は人間関係がうまくいかずそれを相談できる相手もいなかった私は、人間不信になっていき、学校にいても疎外感しか感じず日に日に学校に行くこが辛くなり、最初のうちは仮病を使っていましたが、そのうち全く学校に行かないようになりました。
学校に行かなくなってから両親、特に母親とは毎日のように衝突していました。両親は私のことで口論することが多くなり、精神安定剤を使用していた時期もありました。出口が見えない闇の中を一人でずっと歩いているような気分でした。そうしているうちに日々が過ぎていき、中学二年になったときに引っ越しをすることになりました。新しい学校に行けば、もう一度学校に通えるようになるかもしれないと思い、私なりに頑張ってみたのですが以前のこともあり、人と接することが怖くて、またしても自分の殻に閉じこもってしました。
新しい学校に通わなくなって3年になった時、担任の先生にゆうゆう広場に通うことをすすめられました。そこに通うようになり最初は先生ともぜんぜん話すこともできなかったのですが、広場の先生に『誰も強要したり怒ったりしないから、話したいこと聞いて欲しいことがあったらいつでも話してごらん』と言われれ少しずつ周りの人と話をするようになり、広場に通う子とも友達になることができ、自分では信じられないくらいに明るくなりました。
そして気がつくともう3年の冬になっていました。随分と自分に余裕を持てるようになった私は基礎的な学力が全くついていませんでした。そんな自分は全日制の高校に進学するには大変困難なことだとは思っていましたが、それでも私はどうしても高校に進学したい!今まで中学校に通わないことで散々両親には心配や迷惑もかけてきました。
そんな私でも両親に高校に進学することで少しでも安心して欲しいと思い、その時から高校進学に向けて勉強を始めました。広場の先生に毎日勉強を教えてもらいついに入試を受けました。結果は不合格でした。もしかしたら高校に進学できるかもしれない!という希望は崩れ、がっかりしていた私に広場の先生が、定時制高校ならゆっくりと勉強も進めてくれるし、先生も不登校だった子たちの扱いには慣れているし、何より信頼できる先生方がいるから、との理由で今の定時制高校の進学をすすめてくれました。
最初は定時制高校なんていったいどんなところだろう?とか不良みたいな子たちばっかりで怖いんじゃないかと思っていました。けれど、どうしても高校に通いたかったので定時制高校への進学を決意しました。
入試当日、試験のほうはやっぱりあまり解けませんでした。面接でもとても緊張したのでうまく喋れませんでした。落ちるかな?と正直思いました。そして入試の合格発表の日がきました。結果はなんと合格でした!もう駄目だと、諦めかけていた私に前に大きな道が切り開かれた気がしました。
入学式当日クラスの人たちと顔を会わせました。自分が想像していたのとは違い年配の方々が多いのかと思っていたらほとんどが私と同年代の人達ばかりで、正直びっくりしたのと同時に安心もしました。入学後しばらくはクラスの人とも話せなかったのですが、時がたつにつれて次第に打ち解けて、話もよくするようになりました。今では親友もできました。先生方ともよく話し、放課後は職員室で先生方と色々なことを話したりしています。
今ではうるさいくらいにクラスが騒がしい時もあります。そんな私でも何度かもう学校には通えないかもしれないと思ったことがありました。それでも今日この日まで通ってこれたのは先生方や両親の応援と、この3年半近く一緒に授業を受けてきて楽しいことや辛いことも一緒に経験してきたクラスメイトたちがいたからです。
最初は確かに全日制の高校に進学を希望していましたが、私は今の定時制高校に進学できたことに大変感謝しています。もう一度高校にいくことになってもやっぱり定時制高校を選びたいです。それくらい定時制高校には全日制に勝るほどの魅力があると思います。
そんな定時制高校も今では統廃合の危機にさらされています。全国的に定時制高校の統廃合がすすめられ、お隣の横浜では今まで5校あった定時制高校が今では2校しか募集していません。
しかもその一校とは三部制高校なのです。午前、午後、夜間と分かれ、夜間でも学べることはできますが、三部制の夜間の部はいままであった定時制高校とは全く別のシステムの学校です。
しかもひとつの市に三部制高校とひとつの夜間高校しかないので、片道何時間もかけて通学する生徒もいます。通学時間がかかるということは生徒には大変な負担です。高校では大抵二輪車及び四輪自動車通学は禁止されています。そのため片道2時間以上もかかる子でも電車やバスなどの公共交通機関を使用しなければなりません。しかも学校が自宅や職場から遠くなればなるほど交通費も大幅に増えてしまいます。私の高校の後輩は自宅が横浜にあり学校まで通うのに3〜4回ほど、公共交通機関を乗り換えをしながら通っています。交通費も片道1000円もかかるそうです。往復すると2000円もかかることになります。時間も片道1時間半以上もかかるそうで、学校の授業が終わり部活を終える頃には10時や10時半になってしまい、夜ですからそんなに電車もバスも本数が多くないですから帰宅する頃には早いときで12時、遅くなると1時くらいに帰宅するそうです。このことは、生徒にとっても保護者にとっても大変な負担です。
昨年、市教委が各高校で行った振興計画(案)の「生徒の声を聞く会」に私も参加さていただきました。計画案の概要などを説明していただき、その後、計画案に対する私たち生徒側が様々な質問などをしたのですが、質問をしても「計画案の段階では確かなことは言えない」「今後の検討委員会で検討させていただきます」などの返答しか返ってこないのにはビックリしてしまいました。結局私たちが知りたかった今後の高校教育に関してどのような展望をもってこの計画を進めているのか、校数が少なくなることで今まで通えていた子が通学時間、交通費の増大などの問題で通えなくなる、定時制高校が減ることによって私のような不登校だった子や全日制高校に通えないような子、の受入れ先が少なくなる。また、単位制高校にすることによってクラスというものが無くなり、集団としての協調性や人と人同志のコミュニケーションが薄れるなどの問題は無視できないものではないでしょうか?などの質問等に関しても明確な回答は得られず、「今後の検討委員会で検討させていただきます」などの返答でした。はっきり言いまして本当に私たち高校生の為の教育を真剣に考えているのか?一応高校生の声は聞いた、というだけで片づけられてしまうんじゃないかと思いました。これでは、本当に生徒自身の声が聞こえているとは思えません。
その後の計画(案)動向を見ましても私たちが心配している点に関しては、臨時委員を置き幅広く市民の声を聞くというだけです。臨時委員では発言権があるだけで決定権はありません。これでは本当に私たち高校生が求めている声は計画案に組み込まれないのではないでしょうか?
川崎は日本で初めて子どもの権利条例を作ったところです。この条例の中にも子どもの教育に関する権利はしっかりと保障されているのですから、それらを守る為、そしてこれからの教育を向上させるためには、教育に関する計画(案)の段階でその当事者となる生徒、そしてそれを支えている保護者たちが行政の計画に積極的に参加できる場を提供し、ともに進めていくことが一番自然で大切なのではないでしょうか?ある県では行政の計画に高校生などが多く参加していると聞いていますからそんなに難しいことではないでしょう。
そして、今ここで今後の教育に関する計画に多くの生徒、保護者、市民が参加できることを約束してはいただけないでしょうか?もしそれができないようでしたら、この条例の存する意味さえなくなってしまうのではないでしょうか?私はそのようなことにはならないと信じておりますので、どうぞよろしくお願いします。