2024年8月13日
7月29日、「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」は黒岩祐治神奈川県知事と県教育委員会教育長に対して来年度(2025年度)の全日制高校入学定員、授業料無償化の対象所得限度制限の撤廃、少人数学級、統廃合反対などについての請願書を提出しました。
7月31日の神奈川県公私立高等学校協議会、および8月6日の県教育委員会8月定例会議において、その請願書についての意見陳述を保永博行(「かながわ定時制通信制教育を考える会」代表)が行いました。以下、当日の意見陳述と請願書を紹介します。
意見陳述(資料)
この請願の要求の中心は、「93.5%の全日制進学率の実現」と「公私立高校の授業料完全無償化」です。
「93.5%の全日制進学率の実現」(請願項目3)の理由は、
① 「適正な全日制進学率の実現」は「生徒の人権」であるからです。
② 93.5%の全日制進学率の実現は、神奈川県にとって、決して不可能でないし、他の都府県とくらべても無理のない数値でもあるからです。
③ 93.5%は1999年の「県立高校改革推進計画」で県が県民に約束した数値であるからです。
「公私立高校の授業料完全無償化」(所得制限撤廃)(請願項目5)の理由は
① 家庭の経済的事情は子どもの責任ではありません。
② 家庭の経済的事情にかかわらず高校教育が受けられることは重要です。
③ 大人になる前に平等な教育を経験することは、民主主義の社会において、主権者を育てる教育をする上で必須であるからです(自分が社会に支えられているという体験をする)。
全日制進学率が2022年春89.6%、2023年89.3%、2024年88.2%と80%台に再び低下し、継続していることに、危機感を覚えます。
「全日制進学率の低下」は、「県立高校の募集定員が充足できていない」ことが主な原因です。また、10月に実施される中学3年生の「公立中学等卒業予定者の進路希望の状況」でも、ここ数年「県立高校への希望率の低下」が見られます。
2016年から始まった「県立高改革(県立高校改革実施計画)」は失敗ではないのか。今の県立高校が中学生にどう映っているのか。改善すべき点は無いのか、よく検討して、県立高校のあり方を改善し、生徒の実態と要求に合った募集計画を策定しなければなりません。
以上、よろしくお願い致します。
神奈川県教育委員会
教育長 花田 忠雄 様
2025 年度に向けて、全日制を希望する子は全日制で、
定時制を希望する子は定時制で、通信制を希望する子は通信制で、
子どもたちが安心して学べるように、十分な条件整備をもとめる請願
2024年7月29日
かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会
<懇談会団体>
横浜市立定時制高校の灯を消さない会 代表 高坂 賢一
かながわ定時制通信制教育を考える会 代表 保永 博行
定時制高校を守る市民の会かわさき 代表 浅野 栄子
不登校の親の会(こだまの会) 代表 馬場 千鶴
教育委員会を傍聴する会 代表 土志田栄子
港南区・教育を語る会 代表 田崎秀一郎
県民要求を実現し県政の革新を推進する連絡会 事務局長 神田 敏史
新日本婦人の会神奈川県本部 会長 田中由美子
神奈川県教育運動連絡センタ- 事務局長 宮田 雅己
【請願項目】
「少子化」と数年続いた新型コロナウィルス感染症対策が、日本社会の変革をせまっています。高校教育においても生徒家庭の経済格差の拡大・貧困化、過大な教育費負担による子育ての困難さなどが問題化し、「身体的距離(フィジカルディスタンス)の確保」や生徒個々に対応した丁寧な学習指導などが求められています。
生徒募集計画もこれらを踏まえて策定しなければなりません。
また、2005年9月13日の高等学校設置者会議では「1,公私が協調することにより①生徒の視点に立った定員計画をもつ ②全日制高校への進学実績を上げる ③生徒の希望と適性に応じた進路確保 2,公私間格差の是正」を合意しました。
以上のことがらを2024年度生徒募集計画において実現するために以下の項目について請願します。
1,2013年入試より実施した「定員目標設定方式」の検証を行い、全日制を希望する子どもたちが全日制高校に進学できるのに十分な定員計画と条件整備を県が責任をもってすすめること。
特に全日制高校進学率向上は、公私立高等学校設置者会議でも毎年確認され、新たに設けられた神奈川の教育を考える調査会の中間まとめでも指摘されている点を重く受け止め措置すること。
2,「全日制計画進学率」を県民に明示して生徒募集計画を策定すること。
3,2025年度の計画進学率については、平成11年度策定の「県立高校改革推進計画」で掲げた最低目標値93.5%以上とすること。
4,2025年度の生徒募集計画については前項の計画進学率93.5%以上を達成できるよう、公立、私立の募集定員を策定すること。
5,公立高校生徒の授業料無償化の対象所得限度制限を撤廃すると共に、私立高校生徒の授業料実質無償化の対象所得制限を撤廃し、高校入学者全員を対象とすること。また授業料以外の費用についての支援制度も充実すること。
6,生徒募集計画の策定に当たっては、中学および高校の教員代表、PTAおよび保護者代表を、オブザーバーでなく正式メンバーとして参加させること。また、公聴会を開いたり、中学生・高校生の意見反映を図る仕組みを工夫するなど、より開かれた議論の場とすること。
7,現在、10月のみ実施している「公立中学卒業予定者の進路希望調査」を、5月と10月の2回実施し、生徒の進路希望の実態をより正確に把握して、当該年度の募集計画に反映させること。
8,生徒の学ぶ権利を保障するため、一学年9学級以上の大規模校や過密学級を生み出す高校統廃合を中止し、今後あらたな高校削減はおこなわないこと。また、大規模校を解消し、生徒個々に対応できる学習環境と感染症対策としての学級内での身体的距離2m(最低1m)を実現するため、35人・30人・20人など少人数学級実現のための教育条件整備計画を策定すること。
【請願理由】
神奈川県の全日制高校への進学率は2011年度に公立中学校卒業生の88.0%と、過去30年間で最低を記録し全国最低水準に落ちました。しかし、その後、公立、私学双方の努力もあって、2016年度入試では、90.9%に若干向上しました。その結果、毎年10月に実施している進路希望調査でも全日制希望率(高専含む)が、91.4%(2013年入学生)から92.4%(2016年入学生)に増加し、改善策が希望を与えるかに見えましたが、2022年入学予定者の希望率は90.33%と低下し、全日制進学率も2019年は90.8%、2020年は90.5%、2021 年は 90.3%、2022 年は 89.6%と再び 90%を下回りました。
かつての「県の計画進学率93.5%(1999 年)」や「埼玉県 92.1%」(2020 年)、「千葉県 93.5%」(2020 年)からは大きく遅れ、不本意入学などの改善はまだまだです。進路が決まらないまま中学を卒業する子どもも毎年 400 人余にも上
り、受験生に希望を与えるまでの効果はあらわれていません。
1999年11月の「県立高校改革推進計画」では、「全日制課程の再編整備の基本的な考え方」として次のように述べて、前期計画で14校、後期計画で11校の計25校の県立高校を削減しました。
「今後の生徒数の動向を踏まえるとともに、次のような基礎条件に基づいて計画を策定し、再編整備を推進します。計画進学率は、現在、93.5%としていますが、全日制の高校への進学希望等を考慮し、今後も段階的に引き上げていきます。(平成12年度は、94%にします。)」
この文面からも、2000年度(平成12年度)から始まり、2009年度(平成21年度)を完成年度とするこの計画では、当時の計画進学率93.5%という数値は最低限の目標であり、この計画を進める中で全日制の進学率をさらに高めていくということを県民に約束していることになります。
しかし、その後の全日制進学率は下がり続け、2000年には91.8%だったものが、2011年には88.0%にまで落ち込み、その結果がはじめに述べたような子どもたちの困難を生じさせています。
2005年に前知事が設置した神奈川県公私立高等学校設置者会議、同協議会では、下記のような基本的な考え方を県民に約束しました。その後もこの「基本的考え方」は毎年確認されています。
しかし、その合意事項を検証してみますと、
「基本的な考え方」(1)視点
ア、公私が協調することにより
①生徒の視点に立った定員計画を策定すること
〈結果〉全日制高校を希望しても入れない子どもたちが多数でています
2022年3月卒業生で、全日制進学希望者(高校+高専)が90.3% 進学実績は89.6%
(全日制進学断念者約470人)(添付資料のグラフ①参照)
②全日制高校への進学実績を向上させるよう努めること
〈結果〉 公立枠60%を目指して「率による新たな定員割振り方式」を導入した05年度以降、全日制高校進学率は年々下がり2011年度には88.0%にまで低下しました。
公立6割をはずした2012年度は0.3%、「率による新たな定員割振り方式」を見直し、「公私各々が定員目標を設定する方式」に変えた2013年度は0.5%、それぞれ前年比で増加しました。公立定員、私学定員の拡大が必要です。(添付資料 のグラフ①参照)
③生徒一人ひとりの希望と適性に応じた進路を確保することを目標とした定員計画とすること
〈結果〉 2019年度の「公立中学生志願動向等調査」でも、夜間定時制進学者のうちの夜間定時制希望者は23.4%(前年19.4%)(高校入学時調査)から76.1%(前年73.5%)(入試受験時調査)にとどまり、不本意入学の生徒は前年からは減少していますが、まだまだ高い比率を占めています。
イ、 生徒が幅広く高校を選択する条件の一つとして、公私間格差の是正を図る方向で検討
〈結果〉 「率による新たな定員割振り方式」では、私学学費補助を増やさないまま、公立定員を厳しく制限して私学へ誘導しましたが、私学への進学率も低下を続け、全体の全日制進学率は大きく低下しました。その後、2010年の学費無償化をきっかけに私学学費補助の改善が始まり、一時は私学進学率の低下にストップがかかるかに見えましたが、経済状態は依然厳しく、私学進学率の向上にはよりいっそうの学費補助が必要です。
県教委の調査でも、定時制進学者の30.6%(2019年度調査)が全日制希望であったことが明らかになっています。子どもたちの希望をかなえて、全日制高校への進学者が増えれば、全日制に比べて学習環境が厳しい夜間定時制や通信制・広域通信制での中退者も少なくなると考えられます。
松沢前知事は、設置者会議の席上「公立並の学費で私学を選択できるように」私学助成、学費補助、奨学金制度などを充実することを約束して、公立全日制の定員を減らし続けました。しかし、経済困難な家庭が増えるなかで、学費補助等のわずかな増額では、希望はあっても私学を選べる子どもは限られています。結果として希望しても全日制高校に行けない子どもたちはまだまだ大量に存在します。
2010年度は「学費無償化」による国の「就学支援金」が実施されて、年々減少を続けていた私学進学者が前年比で1039人も増えましたが、「6:4体制」が実施されたために、全日制進学率は2009年の88.7%から低下して88.2%に、2011年度はさらに88.0%にまで落ち込んで、またまた多くの子どもたちが全日制高校から閉め出されました。
2013年度入試以降、「率による割り振り方式」をあらため、公私それぞれが目標を設定する「定員目標設定方式」に変えたことから、全日制進学率は年々わずかずつ改善し、2015年90.2%、2016年90.9%と、10年ぶりに90%台を回復しましたが、その後低下し、2022 年度は 89.6%と再び 80%台に戻ってしまいました。不本意入学などの改善は不十分で、近県の埼玉や千葉とも大きな隔たりがあります(前述)。
2016年10月調査の中学3年生の全日制希望率は91.5%と、前年比で0.9%も低下し、2021 年 10 月には90.3%と全国的にも低い数値となってしまいました。91〜90%程度の低い進学率の設定が続けられていることが生徒のあきらめを生み、結果として低い全日制希望率となっている可能性は否定できません(添付資料 グラフ① 公立中学卒業者の高校進学率(実績と希望)参照)。
神奈川では、2000年から11年にかけての県立高校統廃合(高校削減)にともなう生徒募集枠の削減による全日制進学率の急低下が、中学3年生の全日制進学希望を断念させてきた(希望率の低下)という重い事実があります。私学進学者への学費支援を一層拡充するとともに、公立募集枠の一層の拡大と、生徒の権利としての教育という視点から現実をとらえ直し、改善策を講ずることが求められます。
中学生は3年生になって、1学期、2学期、そして3学期と、学校での面談や塾での模試などが進行する過程で、前年度の高校入試の実態を知り、それに順応する形で進路希望を変化させていきます。10月実施の進路希望調査では、本来の生徒自身の希望でなく、進路指導の結果として「諸条件を勘案して調整された現実的進路選択」となっていることは明らかです。過酷な入試の実態が、もともとあった生徒本人の進路希望を断念させているのです。
これらの実態を明らかにするためにも「公立中学卒業予定者の進路希望調査」を、10月だけでなく、5月と10月の2回実施する必要があります。
感染症の対策や安心安全な学習環境が求められています。生徒が一日の大半を過ごす学校では教室での身体的距離(フィジカルディスタンス)の確保が生徒の命と心の安定を守るうえで最重要課題です。
現在の 40 人学級ではその距離が 0.6 メートル程度しかなく、最低 1 メートル以上(厚労省推奨は 2 メートル)の身体的距離がとれる 30 人以下学級の即時実現と近い将来の 20 人学級(身体的距離を 2mに近づける)を見通した少人数学級化が必要です(添付資料 図①「30 人学級」参照)。
また、個別の生徒に対応できる丁寧な学習指導も求められていて、国際的には小学校の 20 人以下学級、中学・高校の 25 人以下学級が標準になってきています(添付資料 グラフ②参照)。
県は高校設置者の責任として、即刻、独自に行う必要があります。神奈川ではすでにクリエイティブスクールなどで「6クラス募集(40 人×6 クラス=240人)を 30 人学級で8クラスに展開する」など、神奈川独自の 30 人以下学級を実施してきました。これらの取組を全校に拡げる事が必要です。
2021 年度から学年進行による小学校 2 年以降の 35 人学級が始まり、やがて中学・高校にも及びます。来年度は公立中学卒業者数は 67,005 人(2022 年公私協資料)となる見込みですが、生徒募集定員を、公立 41,350 人、私立 15,750 人とすれば「県立高校改革推進計画」で掲げた最低目標値(93.5%以上)を達成することができます(添付資料 表① 参照)。
また、それにより現在の教職員定数を確保し、さらに必要な人員を加配することで、神奈川独自の高校 35 人以下学級・30 人以下学級が実現できます。
私たちは、神奈川の子どもたちが、それぞれが希望する公立・私立の全日制・定時制・通信制高校を選択し、権利としての教育を安心して受けられるよう、上記の請願事項の実現を求めて強く要望します。
以上
添付資料 グラフ①
添付資料 図①
30人学級では、身体的距離が1.0mに
添付資料 グラフ②
国際的には、20人・25人学級が標準に
添付資料 表①
2025年度入試に向けての「懇談会」の提案
トップ(ホーム)ページにもどる