2017年9月6日
8月2日、神奈川県公私立高等学校協議会において、「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」が高校入学定員などについて要望しました。当日は、「かながわ定時制通信制教育を考える会」代表の保永博行が意見陳述を行いました。以下、当日の意見陳述と県公私立高等学校設置者会議主宰者である黒岩祐治神奈川県知事と県教育委員会教育長に提出した請願書を紹介します。
意見陳述(要旨)
2016年10月の公立中学校卒業予定者の進路希望調査結果では、全日制希望率が91.5%と、前年比で0.9%も低下し(前年度92.4%)、一方で通信制が0.2%、未決定者が0.7%も増加しています(以下、グラフ参照)。
ここ数年間の全日制希望率の変化を見ると、過去最低の全日制進学率88.0%を記録した2011年以降、私学進学者への支援の拡充や公私定員枠の見直しなどによって全日制進学率が改善するなかで、それまで低下し続けていた全日制希望率も、2011年の91.3%から2015年の92.4%まで少しずつ回復してきました。
しかし、今回単年度で0.9%と、これまでになく大きく低下したというのは異常な事態です。受験生の状況になにか大きな変化が起きていることを示しています。
「希望率」とは、子どもが自分を将来に向かって成長させる教育への期待の表れです。その希望率が急低下したことは、子どもたちの夢を阻害する大きな要因が存在することを示しています。学費や奨学金、支援金・給付金制度などの経済的要因なのか、公立高校募集枠が少なすぎるのか、現在の高校入試が高いハードルになっていないかなど、実態を速やかに明らかにし、対策をとる必要があります。
現代社会においては、高等学校教育を修了することが社会人として求められている現実があります。子どもが教育に期待する、教育に夢を託すように仕向けること、すなわち「希望率」を上げることは、大人の世代の責任です。
1999年に県が約束した93.5%、千葉県、埼玉県なみの全日制進学率を達成することは、「子どもの権利」として緊急の課題となっています。
全日制希望率の低下は現在の大人の行動の結果が生み出したものであることを肝に銘じ、全日制進学率93.5%の達成に向けて、早急に改善を図ることを求めて請願します。
神奈川県公私立高等学校設置者会議
主宰者 神奈川県知事 黒岩 祐治 様
2018 年度に向けて、全日制を希望する子は全日制で、
定時制を希望する子は定時制で、通信制を希望する子は通信制で、
子どもたちが安心して学べるように、十分な条件整備をもとめる請願
2017年7月27日
かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会
<懇談会団体>
横浜市立定時制高校の灯を消さない会 代表 高坂 賢一
かながわ定時制通信制教育を考える会 代表 保永 博行
定時制高校を守る市民の会かわさき 代表 浅野 栄子
不登校の親の会(こだまの会) 代表 馬場 千鶴
教育委員会を傍聴する会 代表 土志田栄子
港南区・教育を語る会 代表 田崎秀一郎
県民要求を実現し県政の革新を推進する連絡会 事務局長 神田 敏史
新日本婦人の会神奈川県本部 会長 泉水 令恵
神奈川県教育運動連絡センタ- 事務局長 加藤 誠
【請願項目】
2005年9月13日の高等学校設置者会議での合意事項の「1,公私が協調することにより①生徒の視点に立った定員計画をもつ ②全日制高校への進学実績を上げる ③生徒の希望と適性に応じた進路確保 2,公私間格差の是正」を、2018年度生徒募集計画において実現するために以下の項目について請願します。
1,2013年入試より実施した「定員目標設定方式」の検証を行い、全日制を希望する子どもたちが全日制高校に進学できるのに十分な定員計画と条件整備を県が責任をもってすすめること。特に全日制高校進学率向上は、公私立高等学校設置者会議でも毎年確認され、神奈川の教育を考える調査会「最終まとめ」(2013年8月)、県立高校改革推進検討協議会「県立高校の将来像について」2014年6月)でも指摘されている点を重く受け止め措置すること。
2,「全日制計画進学率」を県民に明示して生徒募集計画を策定すること。
3,2018年度の計画進学率については、平成11年度策定の「県立高校改革推進計画」で掲げた最低目標値の93.5%とすること。
4,2018年度の生徒募集計画については93.5%の全日制進学率が達成できるように、公立高校生徒募集定員は44000人程度、および私立高校生徒募集定員は14700人程度とすること。
5,また、その定員を充足させるために私立高校生徒への学費補助制度の改善(助成額の増額と対象所得限度額の引き上げ)を図ること。
6,2016年10月の「公立中学卒業予定者の進路希望調査」で全日制希望率が91.5%と、前年に比べて0.9%も低下し過去最低水準に戻ったことについて、その原因究明と改善策を講じること。
7,生徒募集計画の策定に当たっては、中学および高校の教員代表、PTAおよび保護者代表を正式メンバーとして参加させ、また、中学生・高校生の意見反映を図る仕組みを工夫すること。
8,公聴会を開き、受験生の保護者、中学校・高等学校の教職員、県民、中学生から具体的な実態や問題点、意見などを聞いてそれを公表し、審議を行うこと。
9,現在、10月のみ実施している「公立中学卒業予定者の進路希望調査」を、5月と10月の2回実施し、生徒の進路希望の実態をより正確に把握して、募集計画に反映させること。
10,来年度は「県立高校改革実施計画 第Ⅰ期」による4組の高校統廃合が行われる。前回の「高校改革推進計画」では全日制を25校削減したために全日制進学率が低下し、毎年2000人前後の生徒が、全日制を断念して定時制や通信制に進学せざるを得ない状況に追い込まれた。このようなことをくり返すことのないよう、十分に配慮した募集計画を策定すること。
【請願理由】
神奈川県では、全日制高校への進学率は2011年度に公立中学校卒業生の88.0%と、過去30年間で最低を記録し全国最低水準に落ちました。しかし、その後、公立、私学双方の募集定数を増やす努力が実り、89.2%(2014年)、90.2%(2015年)、90.9%(2016年)徐々に向上しました。その結果、毎年10月に実施している進路希望調査でも全日制希望(高専含む)が、91.4%(2011年)から92.4%(2016年)に増加し、改善策が希望を与えています。
しかし、まだ約8,300人もの子どもたちが公立高校全日制を不合格となっていて、定時制高校や通信制高校への不本意入学は入学生の半分以上を占めている状態です。また、進路が決まらないまま中学を卒業する子どもも毎年500人から900人にも上っています。
1999年11月の「県立高校改革推進計画」では、「全日制課程の再編整備の基本的な考え方」として次のように述べて、前期計画で14校、後期計画で11校の計25校の県立高校を削減しました。
「今後の生徒数の動向を踏まえるとともに、次のような基礎条件に基づいて計画を策定し、再編整備を推進します。計画進学率は、現在、93.5%としていますが、全日制の高校への進学希望等を考慮し、今後も段階的に引き上げていきます。(平成12年度は、94%にします。)」 (「県立高校改革推進計画」平成11年策定より引用)
この文面からも、2000年度(平成12年度)から始まり、2009年度(平成21年度)を完成年度とするこの計画では、当時の計画進学率93.5%という数値は最低限の目標であり、この計画を進める中で全日制の進学率をさらに高めていくということを県民に約束していることになります。
しかし、その後の全日制進学率は下がり続け、2000年には91.8%だったものが、2011年には88.0%にまで落ち込み、その結果がはじめに述べたような子どもたちの困難を生じさせています。
2005年に前知事が設置した神奈川県公私立高等学校設置者会議、同協議会では、下記のような基本的な考え方を県民に約束しました。その後もこの「基本的考え方」は毎年確認されています。
しかし、その合意事項を検証してみますと、
「基本的な考え方」(1)視点
ア、公私が協調することにより
①生徒の視点に立った定員計画を策定すること
〈結果〉全日制高校を希望しても入れない子どもたちが多数でています
2016年3月卒業生で、全日制進学希望者(高校+高専)が92.4% 進学実績は90.9%
(全日制進学断念者約1056人)(添付資料 のグラフ①参照)
②全日制高校への進学実績を向上させるよう努めること
〈結果〉公立枠60%を目指して「率による新たな定員割振り方式」を導入した05年度以降、全日制高校進学率は年々下がり2011年度には88.0%にまで低下しました。
公立6割をはずした2012年度は0.3%、「率による新たな定員割振り方式」を見直し、「公私各々が定員目標を設定する方式」に変えた2013年度は0.5%、それぞれ前年比で増加しました。公立定員、私学定員の拡大が必要です。(添付資料のグラフ①参照)
③生徒一人ひとりの希望と適性に応じた進路を確保することを目標とした定員計画とすること
〈結果〉2016(H28)年度の「公立中学生志願動向等調査」でも、夜間定時制進学者のうちの夜間定時制希望者は21.9%(前年21.7%)(高校入学時調査)から65.6%(前年61.9%)(入試受験時調査)にとどまり、不本意入学の生徒は前年からは減少していますが、まだまだ高い比率を占めています。
県教委の調査でも、定時制進学者の約半数が全日制希望であったことが明らかになっています。子どもたちの希望をかなえて、全日制高校への進学者が増えれば、過大規模校化して学習条件がきわめて悪化している定時制高校、通信制高校の問題も解決し、中退者も少なくなると考えられます。
松沢前知事は、設置者会議の席上「公立並の学費で私学を選択できるように」私学助成、学費補助、奨学金制度などを充実することを約束して、公立全日制の定員を減らし続けました。しかし、経済困難な家庭が増えるなかで、学費補助等のわずかな増額では、希望はあっても私学を選べる子どもは減っています。結果として希望しても全日制高校に行けない子どもたちが大幅に増えているのです。
2010年度は「学費無償化」による国の「就学支援金」が実施されて、年々減少を続けていた私学進学者が前年比で1039人も増えましたが、「6:4体制」が実施されたために、全日制進学率は2009年の88.7%から低下して88.2%に、2011年度はさらに88.0%にまで落ち込んで、またまた多くの子どもたちが全日制高校から閉め出されました。
2013年度入試以降、「率による割り振り方式」をあらため、公私それぞれが目標を設定する「定員目標設定方式」に変えたことから、全日制進学率は年々わずかずつ改善し、2015年90.2%、2016年90.9%と、10年ぶりに90%台を回復しました。しかし、長く続いた「公立6割」を念頭に置いた目標設定であったため、「県立高校改革推進計画の93.5%(1999年11月)」や近県の「埼玉県93.7%」(2016年)、「千葉県94.7%」(同年)には大きな隔たりがあり、不本意入学などの改善はまだまだです。
2016年10月調査の中学3年生の全日制希望率は91.5%と、前年に比べて0.9%も大きく低下し、全日制は中学3年生にとって「狭き門」という意識の広がりが懸念されます。過去最低の全日制進学率88.0%を記録した2011年以降、私学進学者への支援の拡充などによる進学率の改善の中で、全日制希望率も91.4%から2015年10月の92.4%まで回復してきましたが、今回の急激な低下は深刻です。これはこの間の一連の改善策が一定の効果はあったものの、受験生・保護者にとってあらたな困難が生じていることがうかがえます。その原因の調査と対策の実施が求められます。
神奈川では、2000年から2011年にかけての県立高校統廃合による全日制進学率の急低下が、中学3年生への全日制希望率を異常に低下させてきたという重い事実があります。私学進学者への支援の拡充はもちろんですが、公立募集枠の一層の拡大が必要です。
中学生は3年生になって、1学期、2学期、そして3学期と、学校での面談や塾での模試などが進行する中で、前年度の高校入試の実態を知り、それに順応する形で進路希望を変化させていきます。
10月の進路希望調査では、本来の生徒自身の希望でなく、進路指導の結果として「諸条件を勘案して調整された現実的進路選択」となっていることは明らかです。過酷な入試の実態が、もともとあった生徒本人の進路希望を断念させているのです。
これらの実態を明らかにするためにも「公立中学卒業予定者の進路希望調査」を、10月だけでなく、5月と10月の2回実施する必要があります。
私たちは、神奈川の子どもたちが自分の将来に夢と希望をもって、それぞれが希望する、公立全日制、私立全日制、定時制、通信制高校を選択できるよう、上記の請願事項の実現を求めて強く要望いたします。
以上
添付資料 グラフ①
添付資料 2018年度に向けての「懇談会」の提案