2007年11月17日


「15の春」を泣かすことのない入学定員策定を


 10月29日、県教委は08年度の高校入学定員を発表した。23日の県教育委員会会議で、「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」や「子どもと教育・くらしを守る神奈川県教職員連絡協議会」、そして「神奈川県高等学校教職員組合」の三者からそれぞれ出されていた「公立高校全日制入学定員を増やすことを求める」請願を否決して、公私立高校設置者会議で合意した通りの入学定員策定を行った。
 この数年、公立高校全日制の定員が少ないために、多くの子どもたちが「15の春」に泣いてきた。今回の決定は、こうした事態に何の解決策を示さない最悪の定員計画となっている。以下、その問題点を指摘し、解決策を示したい。


1.公立全日制入学定員6割に固執した定員計画

 公立全日制の定員は、設置者会議で合意した県内公立中学校卒業生分の39,000人に、国・私立・県外卒業生分などを加えて39.624人とされ、前年に比べて288人減少した。一方、定時制の定員は、前年より460人増やされた。30日付『神奈川新聞』は、「進む“いびつ化”」という見出しで、「希望者が多い全日制を私学側との協議を受けて減らす一方、全日制希望者の不本意入学が多い定時制は『大規模化』が進む“いびつ”な状況となっている」と伝えた。

 公立中学校卒業者に対する公立全日制定員の割合は、07年度と同様60.6%に抑えられた。05、06年度の59.6%や59.8%から見ると多いものの、03年度以前の63%や64%と比べるとかなり少ない。

 公立全日制枠が少なくなった分、県内私立全日制受け入れ枠が多くなる。しかし、長引く不況のもと経済的困難から私立高校への進学を断念する家庭が増え、私学はその受け入れ枠を01年度以降毎年2,000名以上充足できない事態となっている。

 こうして、公立全日制高校や私立高校に行けない子が、定時制に殺到する異常事態が神奈川県では02年度から5年間(03年度を除く)も続いている。不登校の子をはじめ様々な問題を抱えた子を受け入れてきた定時制に、志願変更後の定員拡大や入学試験後の合格枠拡大が押し付けられ、この間5回の入試で混乱を重ねてきた。

 07年4月に行った県教委による調査によると、定時制受検者2,283名のうち、本来定時制を希望していた者は1,068名(46.8%)と過半数に達していない。定時制25校の新入生調査では、公立全日制希望者は47.3%とほぼ半数を占める。また、定時制受検者のうち私立高校併願者は3%に過ぎない。この調査からわかることは、07年度の公立全日制の入学定員がそもそも1,100名ほど少なかったということである。

 しかし、県教育委員会は自らの調査でこうしたデータを出しておきながら、08年度入学定員策定では、私学経営者の意向に沿った公私立高校設置者会議での合意を追認し、公立全日制入学定員を6割に抑えることに固執した。


2.全日制高校希望92%、公立全日制希望80%の県民要求に応えよ

 06年10月に県内公立中学校で行われた進路希望調査によると、全日制高校進学希望者は92.1%で、そのうち公立全日制高校希望は80%強である。公私立設置者会議と県教委は、この数値の重みを重視しなければならない。全日制高校進学率は、92.1%に近い数値となるべきである。

 ところが、97年に92.3%であった神奈川県の進学率はこの10年間で低下し続け、06年度についに90%を切り、07年度には89.3%と全国最低の水準に落ち込んだ。1999年の「県立高校改革推進計画」では、「計画進学率は、現在92.5%としていますが、全日制の高校への進学希望等を考慮し、今後も段階的に引き上げていきます。(平成12年度は94%にします)」としていた。しかし、公立高校の定員枠を中学卒業者数の62.0%から年ごとに下げていくなかで、01年度以降進学率も91.3%から90%台になってしまう。そして、ついに県教委は06年度入試から、計画進学率という考えそのもの捨て、数値を示さなくなる。

 この間の経過を振り返ってみると、全日制高校の進学率を上げるためには、まず公立高校全日制の定員枠を増やすことが必要である。公立全日制進学希望80%強という中学生とその保護者の要求にしっかりと応え、まず最低でも公立枠を65%程度まで引き上げるべきである。

 ところが、今回の定員計画では、全日制の定員を減らし、その穴埋めに県立定時制を10学級増(350人増)とし、さらに川崎、横浜、横須賀の市立定時制は学級増ではなく学級定員を35名から40名に増やし110人増とした。全日制の入学定員を増やすのではなく逆に減らし、全日制に入学できなかった生徒が定時制に殺到したときに混乱しないように、前もって定時制の定員を増やしておく対策をとった。これほど、県民の願いに背き、定時制を犠牲とするやり方はない。


3.県立高校の増設と私学授業料の半額補助を

 前年比288人減となった全日制は、県立高校で8クラス減らすことで対応する。全県で53学級を増やし、61学級を減らす。ここで問題なのは、どの学校が学級増となり、またどの学校が学級減になるのか、その基準が明らかにされていないことである。

 学級増は、「改革推進計画」で新設される学校関連で39学級、中卒者増加地区を中心に14学級である。学級減は、同計画で統合や再編される高校を中心に52学級、過年度増の調整減として7学級、中高一貫校に変わるための準備(?)として2学級である。

 入試の学区がなくなったとはいえ、地区ごとの中卒者数を踏まえた学級減や学級増、また各学校の実情を考えた学級増が行われるべきである。

 ところが、生活指導が大変な学校であるのに、この3年間で6学級から7学級、7学級から8学級、そして来年度も8学級募集となるところがある一方、7学級から6学級に、さらに6学級から5学級になる学校がある。また、単位制高校と総合学科の高校はほぼすべてが6学級規模である(単位制高校では小田原高校だけが7学級、総合学科では藤沢総合高校だけが7学級である)。また、再編新設校である横浜国際高校や海洋科学高校、横須賀明光高校などは4学級規模の学校である。その一方、普通科の高校には8学級から9学級規模の学校がある。

 県教委は、各学校の学級数を決める基準を県民に示すべきである。生活指導に手がかかる学校は4〜6学級規模とし、6学級以上にはしないなどという取り決めが必要である。現状は全県で、8クラス規模の学校が増加してきている。これは、「県立高校改革推進計画」で高校を削減しすぎたためである。

 県は、「改革推進計画」で中卒者が大きく減少することを理由に、県立高校を25〜30校削減する計画を立てた。しかし、減少するのは07年度までのことであり、08年度以降は増加に転ずる。その増加の割合を県教委は、当初計画で2,000人と推計して計画を立てた。しかし、その推計に誤りがあり、7,000人増と修正した。それにもかかわらず、「推進計画」後期分の削減が強行され、前期分と合わせ25校の県立高校削減が進められた。この推計誤差5,000人は約20校分である。したがって、25校を削減すると、私立高校への進学者数が大幅に増加しない限り、全日制に入れない子が大量に生ずることは初めから予想された。「改革推進計画」が目指した94%の進学率は、そもそも不可能な数値であった。県立高校を削減しすぎた結果、子どもたちが「15の春」に泣いているのである。

 子どもたちが、「15の春」に泣くことなく高校に進学することができるようにするためには、第一に公立全日制高校の入学定員枠を、公立中学校卒業者数の65%程度まで増やすことである。しかし、この定員枠拡大は学級増となって、既存の全日制高校の教育条件を悪化させる。したがって、定員拡大を学級増で対応するのではなく、これまでに統合した高校の復活など、県立高校を新たに増設することが必要である。

 第二に、私立高校への進学者を大幅に増やすために私学助成を増額するとともに、経済的困難を抱える私学進学者には授業料の半額を特別学費補助として支給するなど、私学定員枠を充足させるために抜本的な対策をとることである。

 第三に、定時制を全日制の「受け皿」であるかのように入学定員の「調整弁」として使うのをやめなければならない。少人数教育という定時制の本来の良さを取りもどすために、定時制の規模を3学級以下、学級定員を25〜30人にすることである。 

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