2010年6月12日


2010年5月27日

神奈川県知事     松沢 成文 様
教育委員会委員長  平出 彦仁 様

全日制高校進学希望者を受け入れるに十分な条件整備と
入試の改善をもとめる要請書

                 

かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会


横浜市立定時制高校の灯を消さない会
        代表  高坂 賢一
よこはま定時制父母の会
        代表  沢崎 三郎
かながわ定時制通信制教育を考える会
        代表  中陣 唯夫
定時制高校を守る市民の会かわさき
        代表  浅野 栄子
不登校の親の会(こだまの会)
        代表  馬場 千鶴
教育委員会を傍聴する会
        代表  土志田栄子
港南区の教育を語る会
事務局長 田崎秀一郎
県民要求を実現し、県政の革新を推進する連絡会 事務局長
 佐伯 義郎
新日本婦人の会神奈川県本部
会長  高浦 福子
神奈川県教育運動連絡センタ−
  事務局長 加藤  誠


 貴職の子どもたちのためのご努力に敬意を表します。
今年度から国の制度として公立高校の授業料無償化が実現し、私学生にも相当額の就学支援金が支給されることになって保護者・県民は大変喜んでいます。

 しかし、この春の入試でも9,300人もの子どもたちが公立高校全日制を不合格となっています。経済格差拡大のなかで私学には志願できず、定時制・通信制に不本意進学した子どもたちも多数でています。
 一方、全日制定員の調整弁のように使われてきた定時制高校は超マンモス校化して、落ち着いて学習できる環境にないと緊急な改善がもとめられています。

 高校改革推進計画10カ年は終了しました。公私立高等学校設置者会議も5年を経過しました。県が昨年の3月に発行した「神奈川力構想2008年白書」でも指摘しているように、子どもたちの高校進学を保障する課題は貧困の連鎖を断つ重要な政策です。

「親の世代の雇用の格差や所得の格差が、教育など子どもの養育環境に影響し、親から子へ引き継がれていく『格差の連鎖』が拡大することが懸念され、中長期的な対応も必要となる。 (中略) 緊急的な雇用対策など『事後的な救済』を図るだけでなく、子どもを中心として、次の10年、20年に向けた生活の希望を持てるような『積極的後押し』の面からの支援を検討する必要がある」
〈第4章 資料神奈川力構想・実施計画の点検結果P154の4 今後の計画の推進にあたって(4)今後検討する必要がある事項 イ 格差の連鎖を断ち切る政策〉

その問題を中心に、入試にかかわる改善要求の主な点をまとめましたので、2011年度入試に向けて子どもたちの立場から抜本的に改善されるよう求めます。


1、 全日制高校について

@ 全日制を希望する子どもたちが全日制高校に進学できるに十分な定員計画と条件整備を県が責任をもってすすめ、「15の春を泣かすな」との保護者・県民の願いにこたえること。

〈主旨〉
1.国の私学就学支援金の制度化によって、学費補助が大幅に増額となって私学の志願者数が増加した。一方、公立全日制の志願者割合も増加しています。
前期合格人数+後期志願人数/中卒者数 = 52,327/68,679×100=76.2%
                 (09年度   49,597/65,375×100=75.9%)

2.これは、学費補助を増額すれば私学志願者が増えることを実証しています。一方、経済格差拡大のなか、10年度程度の学費補助増額では初年度納付金90万円を超える私学に志願できない子どもたちが多いことを示しています。

3.公立高校全日制が不合格になって無理に私学に進学した子どもたちが多数でていると考えられます。これらの家庭では、初年度36万円余の補助金で50万円前後の負担増を背負って家計が圧迫され、経済的理由で学業がつづけられなくなる危険性があります。

4.県の「白書」が指摘するように、世代を超えた貧困の連鎖を断つためにも次世代を「積極的後押し」する政策がもとめられます。


A 公立高校の募集定員を公立中学校卒業者数の60%と固定する方式を抜本的に見直し、公立全日制高校の募集定員を十分に増員すること。

〈主旨〉
1.今年度程度の学費補助では、“金のない家庭の子“は私学には志願できず、定時制・通信制に流されることは明らかです。
2.公立全日制の合格割合は下がっています。   

      志願人数
09年度 10年度
前期合格人数 18,836 19,722
後期志願人数 30,761 32,605
合  計 49,597 52,327

      合格割合
 合格割合=合格人数/志願人数
 09年度:40,326/49,597=81.3%
 10年度:42,109/52,327=80.5%



B 県が削減した高校の校舎や施設設備が残っているいま、それを少なくとも10校以上県立高校として活用して、定員の確保と県立高校適正規模化をはかること。

〈主旨〉
1.1999年11月に県が策定した「県立高校改革推進計画」では、「全日制課程の再編整備の基本的な考え方」として次のように述べて、前期計画で14校、後期計画で11校の計25校の県立高校を削減しました。
「今後の生徒数の動向を踏まえるとともに、次のような基礎条件に基づいて計画を策定し、再編整備を推進します。計画進学率は、現在、93.5%としていますが、全日制の高校への進学希望等を考慮し、今後も段階的に引き上げていきます。(平成12年度は、94%にします。)」

2. この子どもたち・県民への約束はどうなったのでしょうか。検証し、緊急に対策を講じる必要があります。
その後、全日制進学率は下がり続け、2000年には91.8%だったものが、09年には88.7%にまで落ち込み、完全に破たん状態です。
3.明らかに公立高校の定員が不足し、子どもたちを苦しめている状況の改善は県民の願いであり、次世代の神奈川県のあり様としても重視せれるべきです。

4.いま、県立高校は県が高校の適正規模としている1校6〜8学級を超えて大規模化し、さらに生徒増が予想されています。学習環境の悪化の改善がもとめられています。
 

C 神奈川県高等学校設置者会議、同協議会の5年間の業績評価を明らかにするとともに、実績を検証し、抜本的に見直すこと。構成も現場を一番よく知っている中高教員代表、PTA代表をオブザーバー参加から正規の構成メンバーとすること。

〈主旨〉
1.設置者会議の合意事項は完全に「破綻状態」ではないでしょうか
「基本的な考え方」(1)視点 
ア、公私が協調することにより
@生徒の視点に立った定員計画を策定すること 
〈結果〉全日制高校を希望しても入れない子どもたちが多数でています。
     2009年度で、全日制進学希望者が92.3%  進学実績は88.7%
      →→全日制進学を断念させられた子どもは 2,355人以上

A全日制高校への進学実績を向上させるよう努めること
〈結果〉05年度以降も全日制高校への進学実績は年々下がりつづけています。
      (資料参照)

B生徒一人ひとりの希望と適性に応じた進路を確保することを目標とした定員計画とすること
〈結果〉はじめから定時制を希望していた生徒は中学の調査で定時制進学者の38%、高校調査では25%にとどまっています。(県教委調査)

イ、生徒が幅広く高校を選択する条件の一つとして、公私間格差の是正を図る方向で検討
〈結果〉学費補助増額  ・入学金95,000円(所得制限で27.4%の生徒が受給)
・授業料90,000円(所得制限で23.8%の生徒が受給)
  しかし、私学の初年度納付金は平均90万円、学費の公私間格差は公立の7倍
◆10年度は、国の高校授業料無償化により大幅に増額されたが、県は県独自の加算を一部減額しました。
生徒への学費補助の1人当たり金額・・・入学金補助:95,000円+4,000円
      ・授業料補助:生保14,000円増、年収250万未満世帯119,000円減、250〜350万未満世帯600円減、350〜500万未満世帯6000円増、500〜800万円世帯15,600円減


2.国が国際人権規約に定める公教育の無償化に大きく踏み出し、国際水準に立とうとしていることをふまえ、県の方針も抜本的に見直すべきです。

  D その見直しにあたって、この定員問題があたえている子どもたち・家庭への影響、中学校、高校への影響について実態調査をするとともに、公聴会をもつなど、受験生の父母、中学・高校の教師など、当事者から具体的意見を聞きながら、定数問題や入試問題を実効ある「子どもの立場に立った」改善につなげるよう手立てをつくしてください。


2、 定時制高校について

@ 1校300〜500人近い超マンモス校を解消し、学年2〜3クラスの適正規模にもどすこと。

A そのためにも、全日制希望者は全日制高校に入れる条件を整備して不本意入学者をなくし、中退者を減らすこと。

B 1学級の人数を年度によって40人にしたり35人にしたり、全日制不合格者の受け皿的なあつかいをすることはやめること。35人以下として定時制高校のよさを復活させ、子どもたちが安心して学習できる環境を整えること。

C 以前の定時制高校は、学習のつまずき、いじめ、不登校、高校中退などで傷ついた子どもたちの「生きなおし」の場、勤労者はもちろん、外国籍の人たちの学びの場として、重要な役割をはたしてきた。「定時制のよさ」――少人数学級、小規模学校、安心して通える地域性、異年齢集団を確保するために、定時制の適正配置をして、本来の定時制の一人ひとりが大切にされる“学びの場”に再生してください。

D 横浜市立夜間定時制高校の削減計画中止、川崎市立定時制高校を削減しないこと。40人学級をすぐに解消し、クラスを増やして定時制を希望する子どもたちが安心して学べる環境整備を横浜市、川崎市に強く要望すること。

E 川崎市で定時制に学区制を設けることになりました。横浜東北部に夜間定時制がないことが問題になっています。加えて、横浜総合高校が弘明寺方面に移転する問題が夜間定時制の空白地域をさらに広げることになります。横浜市、川崎市と協議し、定時制の地域的適正配置をすすめること。

F 定時制を希望する子どもたちが定時制で学べるように条件を整備すること。定時制・通信制の二次募集を同日程に変更し、併願を可とする変更には、定時制・通信制を同列に扱い、定時制の溢れを通信制に流そうとする県の意図が見えます。

 しかし、通信制は、自分で勉強する力のある人でなければ卒業できないのが実態です。不登校、病気、経済的困難、外国籍など学習の遅れや複雑な問題をかかえる子どもたちの学習には困難が伴います。手厚い支援体制が必要です。修悠館高校に進んだ子どもたちのかなりの部分が就学困難になって苦しんでいる実態もあります。全国的には定時制がセーフティネットの役割を果たすのがあたりまえになっています。定時制を希望する子どもたちは定時制で受け止めるべきです。


3、 県立横浜修悠館高校および県立通信制高校について

@ 県立横浜修悠館高校は「昼通える通信制高校」と子どもたちに大きな期待をもたせて開校しました。いま、子どもたちがそこで安心して学べる条件整備は緊急課題です。とくに教職員を大幅に増員して子どもたちの学習進度にあったきめ細かな指導ができるようにすること。

A 私学の通信制のように普通の全日制高校のスタイルでの学習をイメージして入学した子どもたちは、「だまされた」と感じている子どもたちも少なくありません。
  保護者との懇談会や生徒の要望を聞く会などをもって、要望を聞き、それを生かすよう学校運営や施設設備の改善をはかること。

B 超マンモス校化を解消するため、県民に「サービスは残す」と約束していた平沼、湘南の通信制を再開すること。それは特に07年度以前の入学生の希望が強く、子どもたちの希望・実態に合わせた通信制の配置がもとめられています。

4、 保護者の学費負担軽減について

@ 公立高校の私費負担の実態を調査し、県民に明らかにするとともに、学校予算を増額して私費負担をなくし、文字通り「高校学費無償化」をはかること。

A 松沢知事が05年に約束したように「公立並みの学費で私学を選択できるように」私学助成、学費補助を大幅に増やして、私学を希望する子どもが私学に志願できる条件を整備すること。

B 国からの就学支援金を理由に減額した学費補助をただちに復活させること。

C 学費補助を中学生3年時に仮申し込みできる方式をさらに発展させ、それを見越して入学金の貸付制度をつくること。

D すべての私学の入学手続き(納金)を入学金含めて公立の合格発表後にすること。

E 全日制・定時制・通信制を問わず、前期選抜から二次募集まで一回の受験料納入で受験できるように特別の教育的配慮をすること。

5、奨学金制度について 

@ 経済困難・格差拡大は子どもたちの教育の機会均等の大きな妨げになっています。
奨学金の希望に応じて予算を大幅に増額し、適用人数も増やすこと。

A 保護者の収入を前年の所得でみる方式を、リストラ・解雇などの急変による緊急措置の必要な家庭については、特別な配慮をするよう改め、中学校の段階から周知徹底をはかってください。

B 返還免除条件が厳しかったときは、予算措置はあっても活用されず、返還免除条件をゆるめて活用されるようになった経過もあります。以前は、努力して成果を残している子どもなどの評価も返還免除条件にありました。個々の子どもたちの状況を考慮して基準を弾力的に運用できる以前の制度にもどしてください。

6、入試制度について

@ 子どもはもちろん、先生方にも全体の理解が困難な学校ごとに異なる複雑な入試をわかりやすい入試制度に改めるよう再検討すること。(独自入試問題 ・入試と内申点の割合 ・前期と後期入試の割合 ・・・など)

A 学区撤廃を見直してください。――「入学できる学校から入学したい学校」「自由に高校が選べる」といわれた学区撤廃は、自由に選べたのはごく一部の子どもで、多くの子どもたちは、近くに学校があっても警戒して受験できずに遠くに行ったり、ランクを下げたりして、結局は不本意入学者を増やす結果になっています。ますます激しい競争を子どもたちに強いることになっている学区撤廃を見直し、中学区制に戻すなど検討すること。

B 前期選抜、後期選抜の二回選抜を中止すること。――1度の入試なら合格する子も一度は不合格を経験する制度に疑問が広がっています。同じ学校を再受験する気になれず、後期で合格しても喜べない不本意入学が増えています。

C 学力検査で独自問題を作成する高校には、入試作問の作業量の増大、問題漏洩などの危険性が心配されます。問題点を洗い出して再検討すること。在校生の学習充実と教職員の超多忙化改善のために、入試のためのパート配置などの手立てもとること。

D 特別活動等の点数化と自己PRカード導入が中学校教育をゆがめる実態が明らかになり、重ねるごとに深刻になってきています。その実態を調査し、県民に明らかにするとともに特別活動等の点数化を再検討すること。

E 全日制と定時制が同日程、同問題での入試のため、不登校などハンデイをもつ子どもの進学が難しくなっています。特別枠の検討など、そうした子どもたちに配慮された特別措置を検討すること。また、以前のように、実態にふさわしく、定時制を全日制の後に、別問題で行うことも検討すること。


7、中学校3年生の学校生活と高校の正常な授業を保障する措置について

@ 前期・後期の2回選抜制を見直して期間を短縮すること。
A 私学の願書受付期間を3日間位に集中して合わせてること。(そうすれば、学級で全員揃う日数が増えます)
B 私学の1月入試・「推薦入試」を遅らせること。
C 公立の入試から合格発表までの期間を短縮すること。

以上

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