2005年4月30日

 4月22日、高校入試制度の改善を求めて運動する県内教育関係5団体が、『06年度高校入試に関する要請書』を、県知事と県教育委員会委員長に提出しました。5団体の他にも、定時制の教職員、保護者など21人が参加、「かながわ定時制教育を考える会」からも代表の中陣唯夫が出席しました。
 参加者は、この間高校統廃合をすすめ、入学定員を大幅に削減させたことにより大量の不合格者を生みだし、入試途中での定員拡大などの混乱をまねいた県教委の責任を追及し、原因の解明や改善を明らかにすることを求めました。そのうえで、入試制度の改善、公立高校全日制の定員増、定時制教育の充実、私学助成などを求めました。また、二次入試で定員拡大や合格枠拡大などの緊急措置をとった定時制への教職員の加配や施設・設備面への予算配当などに直ちに対応するように強く求めました。
 以下に、その『要請書』を資料として紹介します。

2005年4月22日

神奈川県知事 松沢成文 様
教育委員会委員長 平出彦仁 様

06年度高校入試に関する要請書


新日本新婦人の会神奈川県本部

会長 柳下靖子

子どもと教育・くらしを守る神奈川県教職員連絡協議会

議長 福田 やよい

横浜市立定時制高校の灯を消さない会

代表 高坂 賢一

不登校の親の会(こだまの会)

代表 馬場 千鶴

神奈川県教育運動連絡センター

事務局長 加藤.誠


 貴職におかれましては、神奈川の教育の充実と発展のために、日頃から努力されておることに敬意を表します。
 私たちは、公立高校の入試について緊急措置をもとめて年間を通して、手続きの節ごとに要請を行ってまいりましたが、今年度の入試の結果にもとづいて、06年度入試について以下の通り要請いたします。子どもたちにとっては、一生に一度の高校受験です。希望する子どもたちに高校教育が保障されるように適切な措置をお願いします。



T 05年度入試の事後措置について
1.県教委は、定員拡大、合格枠拡大などの緊急措置をとった学校に対して、少人数学級の展開ができるだけの教職員定数の配置や、施設・設備整備の予算を加配するなどの措置を講ずると約束されましたが、各学校にどれだけの教職員配置、施設設備面での予算措置を行ったか明らかにすること。

.“行き場のない子ども”が出ないように、最後は、緊急措置として「校長責任で」合格枠拡大をして切り抜けるしかなかったが、この混乱の責任が県教委にあったことは明らかである。04年度の例でも、当初募集定員をこえて合格させる緊急措置をとった学校では、留年生も加わり、学級が過大規模化して、学習環境が悪化していると聴く。足を運んでその事実を直接調査して、必要な措置を十分とること。

<定時制父母の声>
 「合格枠の変更でクラス数も多くなり、クラス定員も多く、生徒が安定した授業ができる環境に思えません。学校自体もなんとなく落ち着きがない状態に思えます。先生方も余裕がない毎日を過ごされているようです。・・・・・」


U 高校入学定員に関して
.県教委は、02年度、04年度、そして05年度入試も、入試途中での定時制の定員拡大、合格枠拡大、三次募集をするなどの緊急措置をとらざるを得ない事態を毎年繰り返し、子どもたちの進路決定に混乱をまねいている。その原因をどのように分析し、06年度以降の入試の改善に方針化しているか、その内容を県民に明らかにすること。

.県教委は、私学への誘導政策を抜本的に改め、全日制を希望する子どもは、全日制に進学できるように、公立高校全日制の定員を大幅に増やして定員計画を立てること。

@県教委は、05年度の定員計画で公立全日制の定員を2,945人削減した。これは、中学校卒業生の減少数より多くの定員削減にあたり、定員不足の原因になった。

 ― 04年度と同じ条件の公立公立高校進学計画の削減数は、2,319人となる。県教委の計画はそれを627人オーバーして削減したことになる。
●3,894人(計画段階の中学校卒業生の減少数)×0.935(計画進学率)×0.637(公立高校定員の割合)=2,319人

A県教委が、私学への誘導政策を強めた結果、この5年間に県内私学、県外公私立への進学割合が大きくなって、公立高校への進学割合が減っている。

(資料1)県教委 高校入学計画の県内公立と県内私立・県外公私立の定員割合変化

 00年度  05年度   増減 
県内公立高校(全日制)  67.1%  63.7%  −3.4%
県内私立高校  24.9%  26.9%  +2.0%
県外公・私立高校   8.0%   9.4%  +1.4%

B県教委が私学への誘導政策を強めても、実績は計算通りにはすすんでいない。所得格差の拡大・家計悪化のの深刻な実態は、子どもたちの私学への進学を困難にし、公立不合格者に全日制進学を断念して定時制に変更する子どもたちが増え、全日制進学率を下げている。

(資料2)2000年度と2004年度の県教委計画比較、実績比較)

00年度と04年度の比較 中学校
卒業生数
全日制
進学率
進学者数
(高専を含む)
県内私立 県外公・私立 県内公立
県教委入学計画  −6,919  −0.2  −6,633   −800   −300  −6,132
県教委入学実績  −6,907  −1.0  −7,030  −1,102    +47  −5,975


C01年度から05年度の5年間の全日制定員削減数は、全日制学級222学級分の削減に相当し(8,865人/40人=221.6学級)、1学年7学級の学校31.7校を削減した計算になる。高校再編計画での削減数25校をすでに上回っている。その結果、定時制の定員不足が毎年繰り返され、定時制学級を8学級分(280÷35)、つまり3校分増やしている。それでも追いつかず、毎年“行き場のない子ども”が多数でるため、入試制度の道理をも無視した緊急措置を繰り返し、受験しながら全日制、定時制を不合格となって断念した人が04年度76人、05年度55人、この他にも志願しながら志願変更時に断念、受験時に断念など、受験の厳しさから途中で断念した人が数十人でている。

D受験辞退者が前年より大きく減っていることも、家計の悪化などから公立志向が強まっていると判断して、私学併願校への進学はますます少なくなると考えて計画する必要がある。


.私学助成を全国平均まで大幅に引き上げ、私学の学費を大幅に引き下げるとともに、私学生への学費補助、高校入学支度金補助を制度化して、希望者が私学にも進学できる条件整備を早急にはかること。

@私学には、毎年2000人前後の空きができている。それが埋まらない限り、全日制高校に進学できない子どもたちが県内で2000人でる仕組みに県の計画がつくられている。

Aしかし、私学にはどうしてもいけない経済状況の子どもたちが増えている。経済格差の拡大がすすみ、家計の二極分化が子どもたちを直撃している深刻な状況にある。

Bそれを解決するには、子どもたちが私学に通えるように条件整備するか、公立高校の定員を大幅に増やすか、のいずれかの方策しかない。

C私学設置者と公立設置者間の問題は、子どもたちはまったく関係のない問題であり、一生に一度の受験にかける子どもたちをその犠牲にすることは絶対に許されない。

D定時制高校を全日制高校の安全弁に活用するようなこの間のやり方は、県教委の高校再編の方針にも反する安易な方策であり、今後繰り返すことは絶対に許されない。今年度の結果はその誤りと限界性を示している。


4.全日制高校の進学率(計画進学率)を95%に引き上げること。

@進路希望調査で全日制高校への進学希望率が94%台から93%台に落ちてきたのは、2002年度以降である。全日制進学希望者数が0.5〜0.9%下がっているのは、希望の多い新設の三部制横浜総合高校が定時制扱いである影響も大きい。02年度02年度285人(0.4%)、05年度246人(0.4%)をしめしている。さらに、連携校付通信制が0.3〜0.4%、養護学校高等部が0.2〜0.3%と増えているのが原因であり、全日制の厳しさの反映でもある。
 05年度計画進学率を93.8%から93.5%に引き下げたことは、公立、私立、県外の全日制高校への進学者の総枠を約200人縮小することになった。それはそのまま進学率の実績を引き下げることにつながっている。

 逆に計画進学率を95%に引き上げることは、県教委の05年度計画より約960人の公立、私立、県外の全日制高校への進学者数の総枠を拡大することになる。県の財政的負担の削減を目標に子どもたちの未来を閉ざしてはならない。

A進路希望調査の3年生10月時点では、進路を決めかねている子どもたちが多くいること、などから高校進学希望さえだせない子どもたちの置かれている状況の厳しさを配慮して、計画進学率は95%以上に引き上げ、公立高校の入学定員の拡大、私学助成制度の大幅拡充、奨学金制度の拡充で、希望する子どもたちに高校教育を保障すること。

D知事の発言、県教育委員会議の決定は、子どもたち、県民に対する公約である。それを具体化する抜本的改善策を打ち出す必要がある。

*現知事が「受験生のことを第一に考え、混乱を避けるルールを作らなければならない」と述べている。(05.2.25神奈川県高等学校設置者協議会)
*県教育委員長「高校再編後期計画を“子どもの立場に立って考える”ものとして、請願は不採択でいいですね」(04.11.16県教育委員会会議)


5.公立中学卒業生数が、06年で最低となって以降増加に転ずる。その人数が1999年再編計画策定の推計より5000人多く推移すると修正された。その人数は、高校20校前後の募集人員に相当する。したがって、当初計画の25〜30校削減する根拠がなくなったばかりか、高校不足の事態となってくることが明らかである。11校削減の後期計画を中止すること。


6.定時制教育の充実をはかること

@いま、定時制高校は学習のつまずき、いじめ、不登校、高校中退などで傷ついた子どもたちの「生きなおし」の場、勤労者はもちろん、外国籍の人たちの学びの場として、重要な役割をはたしている。「定時制のよさ」 ― 少人数学級、小規模学校、安心して通える地域性、異年齢集団を確保するために、定時制の統廃合はおこなわず、学年2〜3学級規模とし、学級規模を35人にもどすこと。

Aこの間の志願状況を見ても、横浜関内地区に普通科の定時制高校が必要とされていることは明らかである。そのためには、横浜みなと総合高校、または横浜商業高校に戸塚高校定時制の普通科の分教室を設置するなど、横浜地区の普通科の定員不足を解決すること。

B“身近なところに誰でも通える安全な学びの場を”確保するために、川崎市立高校定時制の統廃合計画の中止を川崎市教委と協議すること。

<受験生父母の声>
「教育の問題全体が定時制にしわ寄せされている」
「定時制高校は、全日制の不合格者の受け皿ではありません。全日制希望者は、全日制で引き受けて下さい」
「子どもたちに不合格のダメージをこれ以上与えないで下さい」
「子どもは社会の宝だと思います。それを育てる責任は、親にあると同時に社会全体にあると思います。・・・・・税金は何をおいても、そのことを最優先させて使って欲しい」
「今年中学3年の子がいますが、不登校で小学校の勉強はしていないのでとても不安です。・・・・・安心して定時制に合格できるような体制が欲しいです。・・・・・希望を持って、安心できる受験をさせてください」


V 奨学金制度に関して (略)

W 入試制度に関して

.新入試制度による混乱の実態を具体的に調査して、改善された部分は何か、改善すべき部分は何かを明らかにして、直ちに手をつくすこと。
@05入試では、受験生・保護者は志望校を選んでも、その合否の可能性に不安をつのらせ、安全性を考えての不本意志願も増える状況にある。中学校の先生方は合否を読めない不安から、受験生・保護者の意志を尊重する立場をとって、滑り止めにできるだけ私学の併願をすすめるなど指導責任がとれない深刻な状況があった。

A各高校ごとに異なる複雑な入試制度が個々の子どもにどのように有利なのか不利なのかわからない、さらに学区が廃止されて受験する子どもたちの特質や成績が読みきれないのが原因である。先生方にも全体の理解が困難な学校ごとに異なる複雑な入試の見直しをして、子どもたちや保護者にもわかりやすい入試制度に改めるよう再検討すること(独自入試問題、入試と内申の割合、前期と後期入試の割合・・・・など)。

B「入学できる学校から入学したい学校」「自由に高校が選べる」といわれた学区撤廃は、自由に選べたのはごく一部の子どもで、多くの子どもたちは、近くに学校があっても警戒して受験できずに遠くに行ったり、ランクを下げたりして、結局は不本意入学者を増やす結果になった。回を重ねると学校間格差が広がり、ますます激しい競争を子どもたちに強いることになる学区撤廃を見直し、中学区制にもどすこと。

C前期選抜と後期選抜の二回選抜の導入によって、前期選抜で受験生の3人に2人が不合格になり、ショックを受けている。同じ学校を再受験する気になれず、後期で合格しても喜べない不本意入学が増えている。なぜ、一度不合格の烙印をおされなければならないのか疑問が広がっている。再検討すること。

D前期、後期、全日制二次募集、定時制二次募集と受験ごとに受験料を納付する制度は、不合格となった子どもには残酷である。「定数料」の考えではなく、教育的配慮で再検討すべきである。

E学力検査で独自問題を作成する高校には、入試作問の作業量の増大、問題漏洩などの危険性が心配される。05年度の問題点を洗い出して再検討すること。教職員の超多忙化改善のため、入試のためのパート配置などの手だてをもとること。

F特別活動等の点数化と自己PRカード導入が中学校教育をゆがめる実態が明らかになってきている。その実態を調査し、県民に明らかにするとともに特別活動等の点数化を再検討すること。

G絶対評価は、中学校間の差が改善されないまま入試を迎えた。子どもたち・保護者に不公平感つのらせ、学校不信・教師不信が問題となっている。観点別評価の活用も有効とは考えられない。その実態を調査し、県民に明らかにするとともに、それが相対的比較を前提とする入試にはなじまない性格であることを考慮して、その使用については再検討すること。

H全日制と定時制の同時入試のため、不登校などハンデイをもつ子どもの進学が難しくなっている。特別枠の検討など、そうした子どもたちに配慮された特別措置を検討すること。

2.中学校3年生の学校生活を保障するため、公私立高校が協議して入試期間を短縮する措置をとること。

@前期・後期の2回選抜制を見直すこと。
A私学の願書受付期間を3日間位に合わせること(学級で全員揃う日数が増える)。
B私学の推薦入試を遅らせること。
C公立の入試から合格発表までの期間を短縮すること。

3.すべての私学の入学手続き(納金)を公立発表後にすること。
 
<受験生父母>
「子ども自身に“自己PR書”を書かさなくても受けられるようにしてください。面接するから十分だと思う。」
「高校入試制度をわかりやすいものにしてください」
「前期では落ち、後期で受かりました。後期入試まではぐじゃぐじゃでした。前期で合格の子どもたちと私立の推薦合格者が半分以上を占めているクラスもあり、最悪でした。後期の子どもたちは不安とのたたかいでした」
「ポイント評価はやめてください」「いまの中学校では、人を信用できない子どもをつくりだしていると思います」「人格を否定するようなやり方はやめてください」

<中学教師>
「受験期の長さが中学3年の学級を卒業期にバラバラにしてしまう」
「ボランティアを点数化するということは、子どもの生き方に点数をつけるようなものである(思想信条を犯していると思う)」


X 新設の通信制高校に関して
.不登校などに配慮した学校として県民の期待が大きい。他県の実態から、大規模化の 危険、人間的なふれあい、交わりの保障、担任制、・・・・・などが心配されている。子どもたちのニーズに応える学校にするために、関係者の意見を聞き、実態調査もするなどの手をつくすこと。

.関係者との懇談の場を持つこと。


Y 神奈川県公私立高等学校設置者会議、神奈川県公私立高等学校協議会に関して
1.公聴会をもって、受験生の父母、中学・高校の教師など、当事者から具体的意見を聞いて、定数問題や入試問題の「子どもの立場に立った」改善をはかること。

トップ(ホーム)ページにもどる