2009年5月31日

 5月17日、横浜市中区の横浜市従会館において「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」主催による「高校入学問題を考える集い」が開かれました。当日は、「かながわ定時制通信制教育を考える会」の事務局で定時制高校の教員が、「ここまできた神奈川の高校入試」と題した報告を行いました。
 その後、参加者から、今年度の全日制入試(後期選抜)で不合格者が前年比1,586人(23%)も増加している異常な事態、鶴見工業高校が廃校とされサイエンスフロンティア高校が開校したため鶴見区の子どもたちが通うことのできる高校がなくなってきているという話、私学助成が少ないため私立高校へ行けない問題、横浜市立南高校が中高一貫高校に変えられると地元の子どもたちが通えなくなること、などの発言がありました。
 最後に、「定通教育を考える懇談会」の事務局から、公立全日制の定員枠を増やし私学助成の増額を求める署名活動をはじめとする大運動を行っていこうという提起がなされました。
 以下に、「ここまできた神奈川の高校入試」の報告を紹介します。


『ここまできた神奈川の高校入試』

 
1,多くの不合格者を出した2009年度入試 (括弧内は昨年の実績)

  全日制前期入試倍率 2.19倍(2.10倍) → 全日制後期入試倍率 1.41倍(1.33倍)
  定時制前期入試倍率 1.58倍(1.40倍) → 定時制後期入試倍率 1.12倍(0.83倍)
   通信制は、前期、後期合わせて1,309人(1,415人)の合格(受検者全員合格)

表1 2009年度公立高校後期入試の結果(県教委発表)

入試
年度
全日制
(昼間定時2校含む)
定時制
募集A 受検B B/A 不合格者 増減 募集A 受検B B/A 不合格者 増減
08 21,581 28,776 133% 7,024 1,440 1,194 83% 154
09 21,391 30,267 141% 8,610 1,586 1,499 1,675 112% 276 122
                  
 全日制後期入試で8,610名もの不合格者。
 昨年比で1,586人(23%)も増加

 定時制後期入試は、受検者数が昨年比481人(23%)も増加。276人もの不合格者。
 
 全日制不合格者が1,586人も増えているが、定時制の受検者の増加は481人、通信制受検者は前期・後期あわせて約100人減・・・・・・その差、約1,000人の動向は? 中学浪人は?

 
2,全日制進学率の低下と定時制・通信制への進学者の急増

 神奈川県の高校進学率は2000年に始まった「県立高校改革推進計画」以来、急速に低下している。

表2 神奈川県の高校進学率(公立中学卒)

年度 全日制進学率 定時制+通信制進学率 特別支援学校
1997 92.5% 2.5% 0.6%
2000 91.8% 4.5% 0.6%
2008 89.2% 7.2% 1.1%
            *定時制+通信制進学率の全国平均は、3.82%(08年)

 この計画によって、2000年から2010年の間に県立高校(全日制)を25校削減。
 2006年3月から公私立高校設置者会議・公私立高校協議会を設置し、知事主宰、公・私立で公立および私立の募集定員を協議。

 定時制・通信制の入学者の急増(全日制希望者が定時制・通信制へ入学せざる得ない事態へ)
 定時制や通信制の過大規模化と教育条件の低下。

表3  定時制入学者の増加

年度 1997年 1999年 2006年 2007年 2008年 2009年
合格者数 ・・・・・・ ・・・・・・ 2764 2881 2612 2907
進学者数 1443 1953 2724 2830 2559


 3,神奈川の「高校定員計画」策定の流れ

(1)2005年度(H17)入試まで・・・・『計画進学率』
    県内私学の『私学枠』について、知事と私学協会とで協議(8月)
    知事査定による私学枠の決定
    決定された私学枠と生徒の希望状況、前年度の入試結果等を踏まえ、
    県が目標値である『全日制計画進学率』を設定し、
    それに合わせて公立学校の募集定数を決定(9月〜10月)
 
  計画進学率(%)= (公立高校定員+県内私学枠+県外全日制・高専進学見込み者数)/(県内公立中学校卒業見込み者数)×100

 *その問題点
  1)私学枠の問題(「カラ枠」・・・・予定された定員枠が埋まらない)
     イ、私学枠の設定・・・知事と私学協会の協議・・・密室協議
     ロ、『私学枠』の『カラ枠』・・・98年度以降、毎年2000〜2500人の空き
  2)計画進学率と実績との大幅なズレ
     90年度〜93年度の間は、計画を実績が上回る
     90年度:計画91%→実績92%   93年度:計画91%→実績91.8%
     94年度以降、計画を実績が下回り、年々その差が増大
     94年度:計画92%→実績91.6%
       *99年秋、「県立高校改革推進計画」決定(計画進学率の段階的向上)
     02年度:計画94%→実績90.1%  05年度:計画93.5%→実績90.1% 
 
(2)2006年度(H18)入試以降・・・・『設置者会議』・『公私協議会』
  2004(H16)年10月 私学協会が県教委を提訴
    県の『募集計画(公立枠)』の差し止め訴訟 →知事による仲裁で和解
  2005(H17)年3月 『設置者会議』・『公私協議会』の設置
    『公私立高等学校設置者会議』・・・・年2回
      知事、私学協会代表(4名)、県・横浜市・川崎市・横須賀市教育長、県民部長、教育局長、教育部長、横浜国大教授、県自然保護協会理事長の14名
    『公私立高等学校協議会』・・・・年5,6回
      県教委、県民部、横浜・川崎・横須賀市教委(計6名)
      私学協会代表(計6名)
      オブザーバー(高校校長会、中学校長会、私学保護者、公立保護者、計4名)
 
<2006(H18)年入試にむけての検討>・・・公立高校定員について
   県教委は、前年度からの定時制への『あふれ分』等を見通して、38919人を提案
   私学側からは強い反対意見         (2005年8月29日公私協議会)
   知事判断で、38000人とすることを決定。併せて奨学金充実など私学への誘導策を約束。
   「公立と同程度の負担で私学にも行けるように(松沢知事)」(2005年9月13日設置者会議)
       → その結果、全日制進学率:90.1%(05年)→89.6%(06年)に
 
<2007(H19)年に向けての検討> 
 2007(H19)年度定員計画から『率による割り振り方式』を導入
 「公立全日制の枠」は『率による割り振り方式』の完成年度である2009(H21)年度の
  基本比率6割を目指した計画とする。(具体的には39300人、60.6%)
       → その結果、全日制進学率:89.6%(06年)→89.3%(07年)に

<2008(H20)年に向けての検討>
 2007(H19)年度にひきつづき、『率による割り振り方式』を導入
 「公立全日制の枠」は『率による割り振り方式』の完成年度である2009(H21)年度の
  基本比率6割を目指した計画とする。(具体的には39000人、60.3%)
   → その結果、全日制進学率:89.3%(07年)→とうとう89.2%(08年)に
 
<2009(H21)年に向けての検討>
 県教委は、「2009年度の公立全日制枠を60.3%のままとし、公立枠60.0%実施は2010年度に先送りする。理由は全日制希望者増加の現状と2010年度には座間方面多部制高校開校予定のため」と提案。これに私学側が反発し、紛糾。公私協議会座長(県民部私学振興課長)の調整案が出され、決着した(2009年9月12日設置者会議で最終合意)。
 合意案:2009年度の公立全日制枠を60.3%とし、2010年度は60.0%と決める。2010年度の比率については、あらためて協議は行わない。

<公私協議会での『基本的考え方』>
 募集計画策定方式の変更
  『計画進学率』を決めない(ただし、県教委は内部目標として設定。07入試は91%)
  『公立枠』のみ決め、私学については、各私学が認可定員の範囲内で募集定員を設定
  『率による割り振り方式』を導入
   2009(H21)年度の基本比率を公立6割、私立とその他を4割(中学卒業生に対し)
 
2008年9月12日公私立高等学校設置者会議合意事項(要旨)

   今後の「高等学校生と入学定員計画」の策定について

1 基本的視点
 (1)公私が協調することにより
   ①生徒の視点に立った定員計画を策定すること
   ②全日制高校への進学実績を向上させるよう努めること
   ③生徒一人ひとりの希望と適正に応じた進路を確保することを目標とした定員計画とすること
(2)生徒が幅広く高校を選択する条件の一つとして、公私間格差の是正を図る方向で検討
 
2 率による割り振り方式による定員計画の策定
 各年度における全日制公立高校の入学定員は、公立中学校卒業予定者の6割(基本比率)とする。ただし、この基本比率は平成21年度に完成すべきところを公私共存のための県のさらなる条件整備の一層の努力を前提に私学側の特段の理解を得て、その施行は平成22年度の定員計画からとする。

* その問題点
  公私比率:『私立4割』の非現実性・・・・実現する『手だて』を打っていない。
  『公立6割』・・・『公立8割』の進路希望とのへだたりと所得格差・貧困化の進行
  『全国46位』の私学助成、拡大はしたが、『返還義務』と『成績条項』の奨学金
  『計画進学率』の放棄・・・・次世代を担う人間に対する責任は?
 

*定時制・通信制の混乱状況をなくすためには、
  せめて、公立枠を62.5%に引き上げることが、いますぐに必要。


トップ(ホーム)ページにもどる