2003年1月5日

 1月21日『朝日新聞地方版』は、「川崎市教委の『川崎市立定時制高校を現在の5校から2校に再編する案』について、『定時制高校を守る市民の会かわさき』が教育長に対して公開質問状を提出して、1月20日までに回答するように求めた」と報道しました。
 それによると、質問状は@「今ある定時制の良さを引き継ぐ」としている「良さ」とは何か、A5校を2校にまとめて大規模な3部制の単位制高校にすることが活性化や充実につながるのか、B通学時間が長くなり学習権の侵害を起こしかねないがどう考えるか、など16項目からなるとしています。

 以下に、その公開質問状を資料として紹介します。

2002(H14)年12月20日


公 開 質 問

川崎市教育委員会
教育長  河野 和子様

定時制高校を守る市民の会かわさき
代表  浅野 栄子


 私たちは各種説明会・教育委員会の傍聴、教職員組合や民間団体主催のシンポジウムなどで、「川崎市立高等学校教育振輿計画(案)」(以下「振興計画案」)について、その趣旨や内容についての話を聞きました。
 しかし、説明内容に対して質問しますと、同じ答えの繰り返しや「今後設置される検討委員会で決定します」などの答が返って来るばかりでした。そこで、今回、改めて詳しい回答を得たく、マスコミ各社にも同時に発送する「公開質問」というかたちで、下記の通りお尋ねしますので、ご回答をお願いいたします。
 なお、ご回答はお忙いところを恐縮ですが、1月20日(月)までに文書でお示しいただきますようお願い致します。

1.「振興計画案」には、「定時制教育のさらなる充実をめざし、一人一人に行き届いた教育の実現、生徒の就業時間のの変化や生活スタイルヘの柔軟な対応、活カある学校生活の展開、ガイダンス機能の充実になど、新しい視点による定時制の課程の実現に向けて、5校ある川崎市立高等学校の定時制課程を、2校に再編成します。」とあります。このような現状把握のもととなるデータは、何年の、どのような実態調査に基づいたものなのでしょうか。「何年の」・「○Oの調査」と具体的にお答えください。

 なお、調査に関して、この「振興計画案」の直近の2001年7月に市教委が実施した「教職員アンケ一ト」や「生徒アンケート」が、データとして活用されていませんが、それほ何故なのかについてもお答えください。

2.各種説明会では「いまある定時制の良さを引き継ぐ」と繰り返し説明されていますが、貴委員会が考える「いまある定時制の良さ」とは何かを、具体的にお答えください。

3.「振興計画案」では学級規模を35人とお考えのようですが、現在の定時制のクラスには全日制と比べてより配慮の必要な生徒が多く在籍しています。「定時制教育の充実」をめぎすのならぱ、なぜ学級定員を減らし、例えぱ25人学級などの規模としないのでしょうか。少人数での、担任によるよりきめ細かな対応ができるようにすることが、生徒一人一人の状況にあった指導を可能にする「定時制教育の充実」策だと考えます。そして、それは多くの在校生や卒業生の声からも裏付けられています。

 全国的に小学校・中学校・高校とも「少人数学級に向かって進んでいる今、「川崎市子どもの権利条約に関する条例」で、個別の必要に合った支援を受けることを保障している川崎市で、なぜこのような分かりやすくて、現実にあった方法が採れないのかお答えください。

4.「学校規模の適正化、つまり大規模化することで活性化し、学校行事や部活動を充実させたい」とのお考えですが、集まっている生徒一人一人の実情を考えれぼ、現在の5校を2校にまとめて大規模な3部制の単位制高校たすることが、真に活性化や定時制の充実につながるでしょうか。

 また、3部制や単位制を導入した他府県の例を見ると、必ずしも活性化されていないのが現実です。個々の生徒の指導では、クラスが解体され、担任の目が届かなくなります。その代わりに生徒相談係として、校内に1〜2名のカウンセラーを置いたり、ガイダンス機能の充実を謳ったりはしています。しかし、配慮の必要な生徒への日常的なきめ紬かな対応ができているとは言えません。また、授業が3部に別れるため生徒間の交流がとりにくく、例えぱ部活動ではそれぞれの生徒の授業時間がバラバラであるために部員が集まれないとか、授業が1日中詰まっていて活動時間や活動場所が確保しにくいなどの事があり、3部制だから活発な部活になるとは言えません。さらに学校行事では、これも単位制では事実上クラスが解体されるわけですから、クラスを母体にした体育祭・文化祭・修学旅行なども盛り上がりにかけ実施することすら困難な事例もあり、希望者のみで学校行事を行う例も全国的には存在します。

 大規模化して「人数が集まれぱ活性化する」という訳にはいかないと思いますが、どの様な活性化・充実化の計画をお持ちですか、具体的にお答えください。

5.「学校規模」と「活性化」についていえぱ、もとより生徒や保護者の中には、「大きくて活動的な学校」を求める人もいれば、「小さいが穏やかで落ち着いた学校」を希望する人もいます。昨今、盛大な学校行事や活発で強い部活動ぱかりが注目される傾向にありますが、特に定時制に入学してくる生徒の中には、そういった活発さを望まない生徒や、そのような活動から弾き出され疎外感を感じてきた生徒達がかなりいます。このような生徒や保護者の考え方について、どのようにお考えでしょうか。また、「大規模化」や「活発化」をお考えの際、この相反する二つの価値観について、どのようにご検討いただけましたでしょうか。策定会議等での議論も含め具体的にお答えください。

6.統廃合の理由として、毎年10月に行われる、市立中学校の現役中学生を対象とする進路希望調査では『定時制は50人前後しか希望がない』ことがあげられています。しかし、実際の定時制志願者は毎年約350人(資料〉になっています。この7倍前後の差は、入学希望者が潜在していることを示しているのではないでしょうか。現役の中学生の場合、10月段階で進路希望が確定している生徒は少なく、定時制希望と答える生徒はどうしても少なく(全日制高校でも同様の場合があります)なります。それに対し、潜在入学希望者の多くは、不登校の生徒や高校中退などの過年度卒業生、全日制の不合格者などです。不登校ゆえに、登校していない生徒の場合は、やむを得ず統計処理上「未定」とされることも多いと聞きます。毎年受験者の20〜30%を占めている高校中退者や年配者は調査の対象にもなっていません。中学校だけの調査では、これらの人々の希望はつかめません。さらに、全県学区の定時制ですから10%を越える横浜など市外からの入学者も調査対象になっていません。

 これを説明会で「定時制は進路希望が少ない」という、統廃合の理由資料として使われるのは、正確さを欠くと思いますが、あえて使われる意図は何ですか説明してください。

 因みに、この論理で同じ10月現在でのデータを使うならぱ、全日制私立高校希望者は毎年約1500人(16%)位で〔実際の入学者は約3200人(36%)〕となっており、私立高校の半分は廃校を迫られることになってしまいます。

7.「単位制にすれぱ留年がなく、そのために退学者を減らせる」との説明がありました。この場合単位未修得者の年度途中や学年末での進路変更が見えにくいだけで、在籍はするが単位未修得の生徒が増え、対策として「在学しても単位を取らず、卒業しない者を退学させるための校則づくり」が全国的に見られます。今年開校した横浜総合高校でも「すでに大量の欠席時数オーバーで単位未修得者が出て、その生徒を次年度にどう位置づけて授業をしたらいいのか当惑している」との話を聞いています。このような説明は、メリット・デメリットと両面ある制度の、都合のよい部分だけに注目した誘導的なもので、生徒や市民に誤解を与えると思われます。あえてこのような説明をされる理由をお答えください。

8.現在・定時制高校に来ている生徒の多くは「人間関係をつくることが下手だったり、失敗したりした体験」を持っていて、それ故に不登校だったり、高校を中退したケースも多く、特に「人間関係づくりに自信を持てるような教育」が必要とされています。しかし、「振興計画案」では定時制のすべてに単位制の導入を求めています。単位制は、学年制のようにクラスが学校生活の単位ではなく個人個人が自分の興味や関心に従って学ぶシステムで、人間関係や社会性を身につけることを苦手とする生徒にとって、問題のある教育制度だと恩います。不登校だったりした生徒にとっては、自分の担任・自分のクラス・自分の机という決まった居場所は、特に大切な学習条件だと思います。にもかかわらず、単位制をすべての定時制高校に、あえて持ち込むのは何故ですか。また、人間関係を含む杜会性をどの様にして育てる計画なのかお示しください。

9.3部制高校を、「独立校として5校とは別に創立・開校」するのならば、一応の意味はあると思います。しかし、「振興計画案」は、現在の夜間定時制高校を再編統合し、代わりに3部制高校を設置する計画ですので反対です。横浜での様子をみても、3部制高校の入学志願倍率が高く(咋年の横浜総合高校の場合、I部・・4.71倍、U部・・3.27倍、V部・・1.88倍、特にT部・U部の倍率は全日制高校にもない高倍率で、これほ全国的に同じ傾向です。)これでは、これまで夜間定時制高校に入学できていた生徒たちは、ほとんどが入ることができず、締め出されてしまうことになります。

 このような3部制高校の実態を示さずに、午前・午後の部のクラス数も含めて合計11クラスになるので「2校にしても従来の定時制のクラス数は確保」というのは、どのような観点からのお考えでしょうか。障害のある現役高校生の母親の「うちの子は定員割れがなげれぱ入学は難しかった。こんな倍率の高校ではとても障害のある子たちは入れなくなってしまう。これは定時制のかわりの学校ではない」という声とか、「ゆうゆう広場」にいる中学不登校の生徒の、「俺たちの行くところがなくなる」という切実な声にどう答えられるのですか。お尋ねします。

10.夜間定時制高校生とって、特に重要な意味を持つのが通学時間です。東京でも横浜でも弁護士会が「定時制高校の統廃合、生徒に30分を越すような通学時間を強いることは、学習権の侵害にあたる」とみなして、人権侵害の救済を勧告しています。5校を2校に統廃合すれば、そのような人権侵害が川崎でも起こりえます。それを「川崎市子どもの権利に関する条例」を定め、子どもの権利を保障している川崎であえて行うのでは、川崎市教育委員会の提唱する「人権教育の実質」が問われると思いますが、お考えをお聞かせください。

11.退学者が多いことを、定時制高校の統廃合の理由の1つに上げて説明されましたが、入学を希望することと、入学した生徒が退学することとは全く別の問題です。志願者がいなくなったのなら統合再編も納得できますが、入学希望者は毎年ほぼ定員に近い人数がいる現在、退学者が多いことは、少人数学級にするとか、教員を増やすなど行政の努カや、分かり易い授業の工夫など学校の努力、さらには生徒本人の取り組みで滅らすことであって、統廃合の理由にはなりません。教育を受ける機会を奪うことは、それこそ行政の責任が問われると思います。お考えをお聞かせください。

12.この「振興計画案」の定時制統廃合計画こは、現在生徒が通っている定時制の専門学科教育については、書かれていません。伝統をもつ専門学科の商業科・工業科の教育について、どのように位置づけ、発展させるお考えなのですか。現在学んでいる生徒にも分かるように具体的にご説明してください。

13.「高校にも障害児学級を設置してほしい」との声があります。また、大阪府では障害の如何を問わず別枠入試の形で障害のある生徒の受入れを試行しています。従前より貴委員会では、障害のある生徒の高等学校への受け入れについて、「今後検討が必要な事項であると認識している」との立場でした。この「振興計画案」では、「バリアフリー化の促進」とありますが、川崎市立高校では障害のある人々の学習要求にどのような対応を考えているのか、検討された内容を具体的にお答えください。

14.各種説明会やシンポジウムなどでも、この「振興計画案」の現在の定時制5校を2校にすることに対しての、賛成の意見は聞いたことがありません。市教委へのはがきやメールにも「定時制を縮小し、全日制を充実させてほしい」という意見が1つあっただけと聞きました。そんな中で「振興計画案」策定を教育委員会へ提案する日は既に決まっているとのことですが、なぜ計画を急ぐ必要があるのですか。

 また、もし広く意見を聞いて計画の変更をする姿勢がないとするならぱ「市民説明会」とは、なぜ何のために行ったのですか。そして、そこでの意見に何の意味があったのですか。以上の3点についてお答えください。

15.11月30日の午後のシンポジウムで、定時制の生徒の質問に対して「5校を2校にすることにはメリットとデメリットがあるが、メリットが多いと判断した」と話されました。貴委員会の考えられる「2校にするメリットとデメリット」とはどんなことでしょうか。
 また、「市民の意見を聞いて計画の変更も含めて検討してみてほしい」、「もともと5校を2校にしてほしいという声はどこから出たのか」との質問もありましたが、あわせて具体的にお答えください。

16.11月30日の午後のシンポジウムで、「『再編成』とは、今あるものを全部無くし新しく作り替えることで、『5校のどこを残すかでなく、どこにどれだけの学校が必要か』で考えているので、「夜間定時制の必要なら、3部制1校で足りるが、川崎市は南北に長いので南北に配置するため2校にした』」との発言がありました。この発言の意味がよく分かりません。詳しい説明をお願いします。


  [資料(教育統計調査(NO29 2001)より)]

市立高等学校定時制課程年度別志願状況

年度 募集人員 志願者数 入学者数 志願倍率
1996(H 8)    385    363    320   0.9倍
1997(H 9)    385    330    258   0.9倍
1998(H10)    385    338    297   0.9倍
1999(H11)    385    385    339   1.0倍
2000(H12)    385    360    327   0.9倍
2001(H13)    385    365    338   0.9倍



川崎市立中学校卒業予定者年度別進路希望状況(各年10月1日現在〉
 抜粋のため合計は合いません

年度 卒業
予定者数
全日制
希望者
通信制
希望者
その他盲聾
学校希望者
進路
未定者
定時制
希望者
当年定時制
志願者
1998(H10)   9368   9048    35    49   172    50     338
1999(H11)   9104   8574   43    63   200   44    385
2000(H12)   8904   8577   76    54   185   60    360
2001(H13)   8673   8135   51    56   211   54    365

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