1999年1月12日

       「3修制」導入は、定時制教育と高校教育全体の改悪

                  ―「希望者全入」とその条件整備こそ、定時制教育の発展につながる―


  97年2月、県教委は一方的に「定時制再編通知」を出し、県立定時制を「教育改善重点校」と「非重点校」に差別化し、「非重点校」に対して「2年連続15人以下の入学者なら募集停止」という全国的にも突出した「基準」を突きつけた。その年の10月には「重点校」として具体的に8校を指定し、それ以外の定時制を教育改善を重点としない学校と決め、公表した。さらに、「重点校」「非重点校」別に「検討し、実施すべき項目」を示し、年度ごとに何を行うかを点検することを開始した(これは、教育行政による「教育課程の編成権」への介入である)。

  こうした状況のなかで、募集停止を避けるためにも何か新しいことを導入しようということで、県教委の言う「3修制」を検討し、実施に踏み出そうとする定時制が現れ始めている。ここでは、「3修制」が教育改善であるどころか、定時制教育の改悪であるだけでなく、これからの高校教育全体の改善に対して、それを阻害するものであることを示し、本来の定時制教育の充実について考えていきたい。

 
 「希望者全入」を可能とする条件は整う

  70年代初め、第二次ベビーブームの高校進学を控え、「15の春を泣かせない」「高校へ行けない子をなくそう」という高校増設運動が母親、市民、教職員を中心として大きな高まりとなった。そうした運動の結果、神奈川県でも高校百校計画が立てられ、高校の新設が進んだ。運動のなかで掲げられたスローガンは、「希望者全入」(高校進学希望者は全員入学させよう)であった。

  しかし、行政は計画進学率で枠をはめ、「適格者入学」(高校教育適格者のみ入学させる)に固執し続けた。そのなかで、神奈川県では毎年、数千人が全日制高校に進学できず、高校進学をあきらめるか、不本意であるが定時制や通信制に入学しなければならなかった。定時制や通信制は、働きながら学ぼうとする人だけではなく、こうした全日制を希望していた人も受け入れてきた。

  90年代に入り、新規中卒者が急減していくなかで、高校進学を希望する人をすべて受け入れていく条件は、施設・設備の面でも、人員の面でも客観的には可能な状況となった。しかし、県当局は「適格者入学」を固持し、全日制の学級減を大幅に行い、全日制希望者のすべてを受け入れるのではなく、一部を排除してきた。さらに、昨年の「県立高校将来構想検討協議会報告」では、県立高校の統廃合を打ち出し、あくまでも全日制高校には一定の「適格者」しか入学させない姿勢を示している。また、全日制「適格者」から排除された人には定時制や通信制があるという宣伝をしておきながら、きわめて厳しい「募集停止基準」を適用して、定時制の募集停止を打ち出し、その門戸を閉ざしてきている。

   「3修制」は「希望者全入」運動の足を引っ張り、新たな差別化をもたらす

  こうした情勢を踏まえるならば、今こそ「希望者全入」(「全日制を希望している人はすべて全日制に受け入れよう」「定時制・通信制を希望している人はすべて定時制・通信制に受け入れよう」)を強く主張すべきであり、こうした運動を父母・県民とともに繰り広げていかなくてはならない。

  このような主張や運動は、決して定時制教育を否定し、廃止しようとするものではない。

  98年7月に、「民主教育研究所」は、「中等教育における中・高の接続と高校教育のあり方に関する広範な合意の確立とその早急な実現のために」という呼びかけを発表した。そのなかで、「中学を卒業してさらに進学を希望するものは、だれでも高等学校に入学できるようにする」をまず最初に掲げている。そして、その説明のところで、「『希望しない者』の存在を認め、その意志をも大切にしたい。また、そういう道も社会の責任で保障すべきであると考える。『そういう道』に展望を持つためには、中卒で働ける場、職業訓練を受けられる場、働きながら学べる場の充実とそれを可能とする労働条件、中途からでも進学できる機会・・・・などが必要である」と述べている。これを踏まえるなら、「希望者全入」とそのための教育現場や労働現場の条件整備こそが、本来の定時制教育を発展させると考えられる。

  こうした運動に反し、結局は「自分の学校だけの生き残り」「自分の職場の延命」「今よりましな生徒の獲得」などという批判を受けざるを得ないのが、夜間定時制への「3年制」や「単位制」の導入である。それは、全日制を希望している人を「全日制もどき」の学校に入学させることで満足させ、全日制が「希望者全入」に進むのに猶予をあたえるだけではなく、差別化された後期中等教育にさらにもう一つの差別を持ち込むものである。

  というのも、「3年制定時制」は、全日制と定時制の間に実質的にもう一種類の高校を作り出し、「4年制定時制」を差別化するからである。また、同じ入学試験を行っておきながら入学してみると、正規に働いている生徒は3年で卒業することは出来ず、働いていない生徒だけが3年卒業制の恩恵を受ける制度は、ある意味で「働く権利」という人権に対する差別といってよい。さらに、同じクラス内に3年で卒業可能な生徒と不可能な生徒が混在することは、教育上きわめて問題が多い。そのため、文部省も教職員組合との間で、「『3卒生」と『4卒生』は、別建て学級が基本である」(92年7月、日高教との交渉)という確認をしている。

    「3修制」の問題点 ― 全国的には実証済み

 以下、各県で実証されてきた「3修制」の問題点をタイプ別にまとめて示しておこう。

(1)時数拡大・・・・0時限等を開設する方式。和歌山や川崎市立橘校などで行っている。
@0時限には、定職者は間に合わず、単位を修得できない。
A3卒にチャレンジする生徒のほとんどが挫折し、退学していく。「3修制」の導入は退学者を増加させる。
B「3修制」のため、本来の教育課程が継続性を失ってしまう。
C「3修制」を全うしたものは、ほとんど全日制からの転編入生である。「3卒生」は、学校行事をはじめ特別活動に消極的であり、行事が成り立たない。
D3卒生と4卒生との間に溝が生じ、生徒集団が不安定となった。
E3卒生と全日制生徒との間でトラブルが絶えない。

(2)通学方式定通併修・・・・他の通信制高校にも通学する方式。愛知などで実施
@併修で行き詰まり、学習意欲をなくし、結局本校を留年・退学する。
A併修する生徒が通信制に殺到し、通信制の教育を圧迫している。

(3)協力校方式定通併修・・・・増加単位分は定時制の教員が、通信制の添削・面接業務・試験を行う方式。大阪・青森・福島などで実施。
@ 制度導入でクラス減分の教職員定数が減らされた。
A土曜日のわずかな面接指導で増加単位分を生み出すため、教育水準の大幅な切り下げになる。
B生徒の実態に合わせ、通常授業の時にレポート指導を行うなど、本来の授業に影響が出ている。
C学習の過密化・負担増で精神的・体力的に行き詰まり、結局本校を退学する。
D単位かせぎという意識が強くなり、本校の授業にも悪影響が生ずる。
E教職員の負担がきわめて大きくなり、ゆとりがなくなり、生徒指導にも影響する。

    夜間、いろいろな人がゆっくり学ぶ ― 定時制の原点を充実・発展させよう

  映画『学校』の監督である山田洋次さんは、夜間中学の魅力を「学びたいという気持ちがあれば誰でも入れる学校であり、疲れた体をひきずって登校してきても、教室に入るとバーッと気持ちが開放される学校」と語る(『寅さんの学校論』)。定時制の魅力も、夜間中学のこうした魅力と基本時には変わらない。「3修制」や「単位制」は、こうした魅力を定時制から失わせてしまうものである。

 いろいろな人が一つの教室のなかで出会い、お互いにそれぞれの多様性を認め合い、4年間ゆっくり、ゆったり、夜間(夜間であるからこそ、昼間仕事や家事手伝いなど、いろいろなことが出来る)に学ぶ。ここにこそ、定時制の原点があることに確信を持ち、一方的・機械的な統廃合を許さず、定時制教育の充実・発展をめざしていくことが重要である。

                                    
                「主要記事」目次に戻る          トップ