2007年7月7日



07年度高校入試は、02、04、05、06年度の教訓を生かさず、5度目の非常事態
「4月はほとんど授業ができなかった」 「5月になってやっと講師が決まった」


 教育長が自分の言葉に責任を持つなら

来年度の公立全日制枠は、少なくとも62.5%(対中卒者比)


 07年度の高校入試は、02、04、05、06年度に引き続き5度目の非常事態となった。定時制への多大な犠牲の押し付け(当初からの臨時学級増、後期募集後の新たな臨時学級増(6学級210人)、その上に220人もの合格枠拡大)にもかかわらず、定時制後期入試で昨年の二次と同水準の62人(昨年の二次は66人)もの不合格者という、受検生の進学 保障をふみにじる結果となった。また、泣く泣く志願変更した受検生と合格枠拡大で合格した受検生との間の不公平はどう考えても正当化できない。

 加えて、今年度は、合格枠拡大に対する当然の教育条件整備が不十分でありかつ極めて遅れたため、5月になってやっと非常勤講師が決まったところ、4月中はほとんど授業ができなかったところなどが続出し、入学した生徒の学習にも多大な影響が出た。そして、ふくれあがった生徒数の中で生徒指導によりいっそう苦闘している定時制が少なくない。

 また、教育長から各校長への合格枠拡大要請に閲し、実際の要請内容と教育長の記者発表の内容との間に乖離があり、教育長に対する現場の不信感が募った。

 以上、@5度にわたる同じ大失態A生徒の学習への直接の被害等に対し、知事・県教委が、謝罪もせず責任もとっていないことが、不思議でならない。

 

焦眉の、来年度の募集計画に関する提案

 教育長は、今年度の定時制後期入試の各校での選抜会議の前に、各校長を集め、「意欲のある受検生(=正規に受検した受検生)は全員合格させよ」と「指令」した。その結果、計220名の合格枠拡大が行われた。

 一方、4月に県教委が各中学校に依頼して行った定時制受検者に関する調査によると、定時制受検者2,283名中、定時制希望者は1,068名(46.8%)に過ぎず、1,215名は不本意受検(その大部分は全日制希望)であることがわかった。この不本意受検者は全中卒者の約1.9%にものぼる。

 この不本意受検者たちは、教育長の判断によると、「意欲のある」=「合格とすべき」受検生である。今年度は結果的に定時制で受け入れたが、全日制希望であるので本来全日制で受け入れるべきであった受検者である。

 また、彼らの大部分には、私学を受検する余裕はない。定時制受検者のうち私学を受検した人は、3%に過ぎない(同調査より)ことから推定される。

 以上より、来年度の定員策定にあたって、定時制の「溢れ」を解消しようとするなら、当然この不本意受検者の分は、公立全日制の定員とすべきである。即ち、来年度の公立全日制の定員は少なくとも、68.6%(今年度の枠+1.9%(定時制への不本意受検者の割合) =62.5%としなければならない。

 

公立全日制希望8割は、県民の重い選択

 この2年間の事態は、現行の私学学費補助金では、私立高校進学者が大幅に増えることにはならないことを示した。公立全日制希望8割は県民の重い選択なのである。

 進学希望の内実は、単なる受検生自身の願望の合算ではない。本人と保護者がくり返し、本人の希望、保護者の教育希望、そして家庭事情の様々な側面を勘案しながら、決断したものである。

 初年度経費が公立の5〜7倍と言われる私立高校に進路変更できる経済事情にある家庭は現実には極めて少ない。現行程度の補助金が出たとしてもである。

 こうした中で、多くの受検生が、公立全日制60.6%の壁に阻まれ、私立高校へも進学できず、定時制を不本意受検しているのだ。マスコミや教育長の、「定時制に人気が出た」とか、「受検生の志向が変わった」などの言は、全く本質をとらえない発言であり、実情を知る人々の憤激をかっている。

 この2年間についていえは非常事態の最大の責任は、「公私立高等学校設置者会議」を主宰して公立全日制枠を最終決定した松沢知事にある。おいそれとは私立高校に進学させられない県民実態が示されたのだから、公立全日制希望8割という県民の重い選択を真剣に受け止めて公立全日制枠をふやすべきである。私学の存立の問題は、それ自体の問題として、全国最低レベルにある私学助成の改善など、別途打開していくべきものと考える。



定時制に犠牲をおしつけるならば、せめて当然の条件整備を

何度もの大失態に、なぜだれも責任をとらないのか


07年度定時制後期選抜入試状況

@ A B C D
高校名 当初
定員
後期募集
+定員拡大
後期
受験者
後期合格者
(合格枠拡大)
後期
不合格者
 横浜翠嵐 105 54+35 91 89( 0)
 希望ヶ丘 140 72 103 98(26
 横須賀 70 35 46 44( 
 追浜 70 35+35 72 72( 
 湘南 140 72 81 78( 
 茅ヶ崎 105 60 55 55( 0)
 大秦野  35 18 24 24( 
 伊勢原 35 18 33 32(14
 津久井 70 57 33 33( 0)
 県立川崎 105 53 90 87(34
 小田原 70 42 38 36( 0)
 厚木清南 105 53+70 155 154(31
 横浜市立戸塚 140 85 93 90( 
 川崎市立川崎 70 35 56 40(  16
 川崎市立橘(3年制) 35 20 20 20( 0)
 川崎市立橘(4年制) 35 18 21 18( 0)
 川崎市立高津 105 55 68 60( 
 川崎市立川崎商(普通科) 35 19 28 24( 
 神工(機械科) 70 36 46 45( 
 神工(建設科) 35 18 24 23( 
 神工(電気科) 35 18 22 22( 
 城北工 35 20 20 20( 0)
 川崎市立総合科学(電) 35 19 24 20( 
 総合科学(機) 35 19 21 19( 0)
 川崎川崎商(商業科) 35 18 22 20( 
 磯子工(総合学科) 70 35+35 72 72( 
向の岡工(総合学科) 70 35 36 36( 
 平塚商(総合学科) 70 35 56 56(21
 総合産業(総合学科) 70 35+35 88 88(18
 横須賀市立横須賀総合 70 35 56 45(10 11
総 計 定員拡大 210 合格枠拡大 220 62

(C+DがBに等しくないところは、受検後取り消しがあったところ)


 今年度の非常事態にもどろう。
 具体的には、厚木清南では、当初3学級105人の定員に対し、5学級175人定員をおしつけられた上、31人の合格枠拡大を事実上強制され、計210人と定員の2倍の入学者となった。校内運用で1年生を8学級としたため全学年の学級数は19となり、専任教諭数と同数となった。結果として3名の臨時任用の方に担任を持ってもらわざるをえなかった。

 希望ケ丘では、本来3学級105人の定員に対し、1学級の臨時学級増に加え、26人もの合格枠拡大を強制され全学年の学級数は17となり、限界を超えた大規模化となっている。

 翠嵐では、本来の2学級70人の定員に対し、当初の1学級の臨時学級増に加え、後期募集後にさらに1学級の臨時学級増を強制され ここでも本来の2倍の入学者となり、生徒指導も大変になっている。

 県川崎では、当初3学級105人の定員に対し、34人という最大の合格枠拡大を強制され苦闘している。類似の非常事態が各定時制で起こっている。
 
 こうして定時制にすべての犠牲を押し付けた上、当然の条件整備が極めて不十分かつ遅れたため、4月中はほとんど授業ができなかったところ、5月になってやっと非常勤講師が決まったところなどが続出した。

 定時制に犠牲をおしつけるならせめて当然の条件整備くらいはしろよ、というのが定時制関係者の切実な願いだ。6たび非常事態となっては困るが、今後、万一合格枠拡大を要請する場合は、それに伴う当然の人的・物的条件整備をセットで提示することが、教育行政の最低限の責務だ。
 

非常事態の原因は公立全日制枠60.6%

 今年度の5度目の同じ過ちの原因は、マスコミや教育長が無責任に言った、「定時制に人気が出た」からでも「受検生の志向が変わった」からでもない。、過去の4度と同じく、公立全日制の募集定員が少なすぎたからにほかならない。松沢知事が主宰する「公私立高等学校設置者会議」は、昨年9月、今年度の県内公立高校全日制の入学定員を39,300人と決定した。これが今回の事態の元凶である。

 この数は、中卒予定者の60.6%にすぎず、過去の非常事態の年と同水準でしかなかった(下表参照)県教委は前年には定時制解決には61.2%(03年度の比率)が必要と主張し、校長会代表は62%(01年度の比率)を主張したにもかかわらずである。まさに、私たちがこの間、ニュース各号で警告した通りの事態が、起こるべくして起こったのである。

 

公立全日制の定員を増やすしかない

 下表にあるように、この間の非常事態は、中卒者の希望より私学の経営を優先して、公立全日制の枠を減らし私学枠を維持しようとしたが、不況・格差拡大等により私学枠を維持することができず、公立枠を減らした分だけ全日制進学率が下がり(ついに89.6%に)、定時制に不本意受検者があふれた。さらに、02年度からの横浜市教委の夜間定時制5校中4校募集停止の暴挙が加わって、招来したものである。

 また、この2年間の事態は、私学への入学者増を期待して問題を解決しようとする政策が、完全に破綻したことを示している。事態の解決には、公立全日制希望約8割という県民・中卒者の重い選択を尊重し、「公立全日制6割」を見直し、公立全日制の定員を増やすしかない。
 横浜市教委の責任も大きい。直ちに、募集停止校の募集再開をすべきである。


定時制の良さが生かされる教育環境を

 こうした事態の中で、これまで評価されてきた、少人数で面倒見がよいなどの定時制の良さが失われかけている。

 私たちは、公立全日制の定員を増やし中卒者の希望に近づけていくことによって、定時制の良さが十分に発揮される環境が整えられ不登校の子をはじめとして様々なハンディを抱えた生徒たちが、定時制で生き生きと学ぶことができるようになることを強く求める。
 

前期募集率の上限50%の引き上げを

 校長を含め定時制関係者の多くが前期選抜の募集率の上限の引き上げを強く要望する中、5月に開かれた「公私立高等学校設置者会議」は、早々に、来年度の前期募集率をこれまでと同じ20〜50%と決定した。今年度は、多くの定時制で前期選抜の志願者が58%を越え、不合格者が出た。どういう議論がされて決められたのだろうか。受検生の立場に立っているとは思えない。この決定の再検討を求める。

以上

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