2004年4月24日
公立全日制定員減による「15の春に泣かせる入試」は、今年限りでやめさせよう
今年度の定時制入試は全日制定員減による矛盾を、受検生と定時制に押し付けるもの
この春の本県公立高校入試は夜間定時制で大量の不合格者を出し、同じ事態で緊急避難的に未曾有の募集枠拡大で対応した02年度入試状況を上回る“悪夢”の再現となってしまった。
02年6月の県議会でこの事態について質された曽根教育長は、「(緊急対応したことにふれた後)こうした状況を踏まえ、平成15年度以降の定員計画につきましては、本年度と同じような事態を招くことのないよう、公私協調のもとで十分な協議を行いまして、適切な定員計画の策定に努めてまいりたいと考えております」と答弁していた。しかし、又もや大量の不合格者を出した上に一方的に臨時学級増を行い、新年度に入った4月2日になり、通算4度目の第3次募集の事態になったのである。
なぜ、本県の公立高校入試が受検生を傷つけてしまうような形で行われているのか、みてみたい。
今年から公立高校の入試は、はじめて全日制、定時制同時実施となるとともに、従来の校長推薦はなくなり、自己推薦を主とした前期選抜と、学力試験を主とした後期選抜の二段階選抜という制度となった。
前期選抜 後期選抜 2次募集 累 計 全日制 定時制 全日制 定時制 全日制 定時制 全日制 定時制 募集定数 17953 970 23526 1408 112 663 41666 2395 受検者数 49089 1589 31207 980 402 703 80698 3272 競争率 2.73 1.64 1.33 0.70 3.59 1.11 合格者数 18002 875 23674 865 119 602 41795 2342 不合格者数 31087 714 7533 115 283 101 38903 930
このため前期選抜の全日制では、平均で昨年の推薦入試の約1.6倍の生徒、公立全日制制高校進学希望者、55,514人の約88%が受検、高倍率で3万人を越す不合格者が出た。続く後期では、同じく希望者の約56%が受検、その25%が不合格者になった。さらに、欠員の出た全日制12校での2次募集でも300名近い不合格者を出した。
こうした苛酷な競争率と、延べ4万人近い不合格者を出した公立全日制入試は、定時制にどんな影響を与えただろうか。
同時入試となった定時制では、前期の競争率が1.64倍、横浜総合では平均4.05倍の高率となり、とても高校教育の“最後の拠り所”いわれる競争率ではなく、受検者の約半数が不合格となってしまった。これは全日制の募集枠が狭められた結果、初めから定時制進学を指導されたり、長引く不況から私学でなく定時制を選択せざるを得なかった生徒が増えたと推測される。
私学の空枠をなくして、公立全日制の定員を増やせ
後期選抜では、特に横浜地区の競争率が高く1.25倍、横浜総合高校T〜V部は平均で1.52倍となり、98人の不合格者、定時制全体で115人もの不合格者を出した。これも全日制前期選抜緒果の影響と見られる。
この後の2次募集では当初、競争率が1.34倍となったため、県教委は急遽、「例年にない競争率になった」として、臨時学級増の押し付けを含む115名の募集増を志願後に発表した。それでも普通科では1.38倍を記録、101名の不合格者を出す事態となった。そこで県は4月2日、未曾有の3次募集、公立欠員校での103名募集に踏み切った。
こうして、神奈川県の公立高校入試は、3度の人試で延べ4万人の「15の春に泣かせる」受検状況を展開したのである。何度も不合格の憂き目を見る、ほとんどが15歳の子どもたちが「合格」を求め右往左往した…。なぜ、またも02年度の混乱を再現するような入試になってしまったのか。
まず、この入試の問題点は、私立高校の募集枠(16,700人)が続く不況のせいもあって、約2,000人が欠員(空枠)のままだという実態をそのままにして、公立高校の募集枠(41,666人)を設定したことにある。しかも卒業予定者数の対前年比減969人分を公立募集枠縮小にまわしたうえ、計画進学率そのものをO.2%(135人に相当)下げて公立募集枠の縮減を図ったことである。つまり、この私学の空枠分をなくして、その分公立枠を増やせば、この入試混乱の事態は回避されたはずなのに、それに全く逆行する募集枠設定を行ったのである。
では、なぜこの転換が図られなかったのか。それは「100校計画」時に、県当局が私学に高校生受け入れ態勢の協力を要請した際の「約束枠」があるからだと言われる。もしそれが事実だとしても、30数年前の行政の約束事のツケを、15歳の子どもたちが払わねばならないという道理はない。因に私学希望者は卒業予定者の7.1%、4,800人程度(進路希望調査03年10月〉である。この数値が示唆する不況下の保護者の事情を、募集枠設定者はどう認識したのだろうか。
次に、なぜ二段階選抜の方式をとったのか、しかも自己推薦で進学希望者の90%近くが殺到することは、「希望する誰もが志願できる」「チャンスが2回となる」(教育委員会『公立高校をめざすみなさんへ』Q&A)と宣伝されているうえ、受検生の諸般の状況からも容易に予測できたことである。特に定時制に関しては、全定同時入試のメリットー定時制で学ぴたい受検生にいち早く進路を約束するという趣旨を生かすには、一段階の総合的判定で十分であったはずである。
つまり二段階という不要な「試練」を受検生に課して「15の春に泣かせた」のである。進学意欲を喪失させ、さらに内申書の絶対評価や特性記述などで受検関係者に不公平感や不信感を与えた教育的にも取り返しのつかない失策の責任は、誰がとるのか。県教委はこの方式の検証とともに、こうした責任の所在を明らかにすべきである。
第三には、これまで独自措置とは言え教育的配慮からクラス定数が35人であったのに、昨年の入試で臨時的に40人としたものを、募集定数の算定基礎としたことである。さらに2次で募集定員増をした際、市立もすぺてこの40人定数としたが、定時制の評価された教育条件を乱暴にも低下させるものであった。
例えば、1クラス40名となった定時制では、少なくない留年生を加えると45人近くにもなる。そのうえ、臨時増員やクラス増をした学校に、教員の増員や履き物入れ(ロッカー等)の補充さえもほとんどされていない現実がある。きちんと条件整備を図るべきである。
第四に、第3次募集が欠員校に限っておこなわれたことである。応募者の二一ズに応えたものとは思われない。競争率が激化した横浜地区や県央地区で、それを緩和するよう募集計画を立てるぺきではなかったか。
就学保障こそ教育行政の原点
以上挙げてきた問題点には根本的背景が二点ある。一つは県が進める「県立高校改革推進計画」である。02年に行った28校の再編統合、全日制募集定員2,714名大幅削減が手初めだったというのは、この計画の本質を示唆している。つまり、県議会での98年12月の「(高校規模について)県と市の緊密な連携を取って行く」との教育長答弁や、99年10月の「(改革推進計画は)『行革』の視点で進めたい」との総務部長答弁などから、この計画は高校リストラであり、公立高校全体の募集枠縮小は、その一環だということは明らかである。
もう一つは、募集定数が「公私協調のもとで協議されて」策定されている点である。県民がこの審義を傍聴でき、その経過と内容を公開するようにすぺきである。そして、進路希望調査や計画進学率に対応した公立高校募集枠を設定すぺく、生徒、保護者の要望を反映するシステムを作る必要がある。
そもそも、なぜ公立高校の募集枠を広げる要求が重要なことなのか。それは、子どもたちが学習を通して人間的に成長する権利を有した存在であり、この保障のためにこそ、行政は教育の機会均等と条件整備を図る義務があるからである。
神奈川県の高校入試がこの原点に立ち帰って行われるよう、私たちは県民とともに県当局に強く求めていくつもりである。