2004年4月30日


シリーズ 教育基本法を守り、生かしていこう B

第10条(不当な支配の排除・必要な諸条件の整備)を換骨奪胎した
「教育振興基本計画」による国家統制を止めよう

 
 1月9日、自民・公明の両党は、与党教育基本法協議会を「教育基本法改正協議会」と改称、「愛国心」を盛り込むかどうかを課題にして、19日開会の通常国会への「改正」案提出を見送った。しかし、自衛隊のイラク派兵が強行された下で、憲法改悪の前段である教育基本法「改正」の動きは、いささかも予断を許さない段階に入っている。


第10条(不当な支配の排除・必要な諸条件の整情〉の排除を意図した答申

 このシリーズで基本法第6条にいう「学校教育の『公』の性質」と「教員の身分の特性」について書いてきたが、今回は第10条「教育行政」について考察してみよう。
  
 教育基本法 第10条
 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を持って行われるべきものである。
 2 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。

 この条項の眼目は太字部1こあり、国家が教育を戦争の道具とした戦前の国家主義的教育制度についての反省から、明文化されているものである。

 しかし昨年3月の中教審答申(以下、答申)は、「教育基本法をふまえた教育改革の推進」の名目で、この第10条に「教育振興基本計画」制度(以下、「基本計画」)設置の根拠を入れることを打ち出している。この制度は5か年計画の反復で、国家主義的教育政策の策定・実施・評価を積み上げながら、国民の意識統制を図る危険性を持ったものであり、実質的に現行の第10条を排除、もしくはそれに優先させようとする制度と考えられる。


ホンネは、国民の意識統制は国で、教育財政は各自治体で

 答申は、「不当な支記に服することなく」は存続させるが、「必要な諸条件の整情」の方は削除するとの方向をにおわせている。と同時に「判例により『教育条件整備』には教育内容も含まれる」とし、行政が教育内容に公然と介入できるお墨付きを与えようとしている。

 つまり条件整備の財政面は地方分権で、教育介入による意識統制は国の専権事項というわけである。答申は、「国家貢献」を前提とした八つの理念を基本法に規定するとし、戦前教育1こ回帰したい復古派と新自由主義との意図をない混ぜて、「伝統・愛国心」「奉仕の精神」「たくましい日本人の育成」を「改正」の基本に据えようとしている。その実現に「基本計両」制度が格好の「装置」になることは容易に推察できる。


第10条を守り、教育の「不当な支配」の排除と、教育間題の解決をめざそう

 こうしてみると、あらためて第10条が、基本法前文の理念を現実のものにする大前提条件であるとともに、第1条から第9条までの「要」になっていることがわかってくる。

 因みに答申直後、教育学関連25学会の会長が共同で提出した「基本法見直しに対する要望書」で、「改正」による教育上の諸問題解決の実効性に疑間を呈したうえで、「むしろ、第10条が禁止する教育の「『不当な支配』が強まるなど、教育のいっそうの危機や困難が懸念されます。」と指摘しているのは、「改正」の本質の正鵠を射たものだろう。

 グローバリズムと有事国家に相応しい意識改革を担ったこの基本法「改正」。その時代錯誤的意図を見抜き、全国各地で信条や立場を超えた反対運動が急速に広がっている。

 「改正」ではなく、現行の基本法を守り、生かしきること。そうしてこそ、今日の深刻な教育的諸間題解決の光明が見出せることを第10条は示唆している。




シリーズ 教育基本法を守り、生かしていこう C

「改定」を唱えながら、実は教育を国家の「道具」の一つに

「教育基本法改正促進委員会」で、民主党・西村慎吾衆院議員がホンネ


 2月25日に開かれた、超党派の国会議員でつくる「教育基本法改正促進委員会」の設立総会で民主党・西村衆院議員があいさつ。昨年3月の中教審答申(以下、答申)で強調されている、基本法への「『愛国心』の盛り込み」と符節を合わせるかのように、「(今後の教育のあり方は)お国のために命を捧げた人があって、今ここに祖国があるということを教える。これに尽きる」とのべ、さらに「お国のために命を投げ出しても構わない日本人を生み出す…この中で国民教育が復活する」とも述べたのである。

 答申は「現在直面する危機的状況を打破し、新しい時代にふさわしい教育を実現するために、今後重視すべき理念を明確にし…『個人の尊厳』『人格の完成』『平和的な国家及び社会の形成者』などの理念は大切にするとともに、21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から」として、教育基本法の「前文」「目的」「方針」に八つの理念(@〜G)を規定すると述べている。


八つの理念の多くは、「改定」の口実?


 しかし、@「個人の自己実現…」もF「職業生活との関連の明確化」も、現行の「目的」にあり、D「生涯学習の理念」とG「男女共同参画杜会への寄与」は、ともに法制定ずみである。E「時代や社会の変化への対応」は当然であり、書くまでもない。

 「改定」の口実なのでは、と思われるほどである。むしろ基本法改定」の核心は、A「感性、自然や環境とのかかわりの重視」、B「社会の形成に主体的に参画する公共の精神、道徳心、自立心の涵養」、そしてC「日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養」あたり、つまり、個人の心の問題なのに、国家的な徳目として立ち入ってくると考えられる「心に属する」項目にあるだろう。


なぜ「心に属する」理念が核心になっているか


 なぜ、「心に属する」項目が核心となるのか。それは、地球規模での経済的大競争(グローバリズム)に打ち勝つことと、その緒果得た権益を守るために必要なものが、国家的統一性と国家への帰属性だからである。

 「日の丸・君が代」「心のノート」などが、それを代表するのは言うまでもない。冒頭の西村議員の発言は、この核心の本質を性急かつ正直に口にしたものとみられる。


国家戦略「改定」のお先棒をかつぐ新自由主義


 もう一つ、見過ごしてならないことは、民主主義的制度や理念、規制を直接攻撃し「規制綬和」の名をもって、これまで培われてきた基本法に基づく学校制度を解体し、教育をグローバリズム戦略の一環として推進する「新自由主義」がこの答申の思想的背景にあることである。答申にいう「経済活性化の原動力・基盤となる初等・中等教育の充実」「活力に富み国際競争力のある大学づくり」が、現実に何を生みつつあるかをみれぱ、この思想的潮流が、どんな本質をもっているかが見えてくる。

 義務教育費国庫負担金の大幅削減。中高一貫教育の設置の推進。学区全廃の高校入試制度、「特色づくり」、飛び入学…。国が条件整備から「解放」される国公立大学の独立行政法人化(民営化)、トップダウンによる解体と創設・…。

 つまり、この答申は「改定」を唱えながら、その一方でグローバリズムに勝利する一握りのエリートの確保と大多数に対する差別・選別・階層化を図り、「命を投げ出す日本人」さえも育成しかねないものであることを、私たちは刮目しておく必要がある。




シリーズ 教育基本法を守り、生かしていこう D

子どもは「お国」のためにあるんじゃない!

「教育基本法改悪反対!」を燎原の火のように広げよう


 このシリーズで4回にわたり教育基本法の改悪の意図やポイントを指摘してきた。最終回では、この改悪に反対する運動が中央や各地でどのように取り組まれているか、新たな運動の展開を期待して、咋年暮れから最近までの主な集会状況を報告したい。

考えや立場の違いを越えた連帯の集会

 昨年暮れの23日、日比谷公会堂で、[子どもは『お国』のためにあるんじゃない!教育基本法改悪反対!全国集会」が4000人の参加をもって開かれた。この集会は8月の「夏の全国合宿in名古屋」に参加した人々の発案で実行委員会がもたれ、集会賛同者を広く募り、成功させた集会であった。集会アピールで「改悪反対の一致点での『共同』と力を合わせる『協同』、小さな音を振幅させる共鳴楽器のように基本法、憲法改悪の反対を大きくする『響胴』(sound body)、この三つの`キョウドウ'を全国に広げよう」と訴え、銀座パレードに繰り出すという集会となった。

秦野市では市民と教職員の連帯を願つて

 今年に入り、神奈川県秦野市では市民実行委員会を結成、3月6日に「教育基本法改悪に反対する市民集会」を開催した。この集会は、「新たな人事評価制度」の導入など、統制的色彩の強まる教育現場を一般市民にも知ってもらい、市民と教職員の連帯の力で改悪反対の波を大きく立てようと開かれたものだった。当日参加考は約80名、教育法学者・永井憲一氏の講演と活発な参加暑の発言で、熱気ある集会であった。17万人ほどの小都市で市民が立ち上がって取り組んだ集会として、画期的な意味をもつものであった。

多彩な内容で、教組は集会や情報・宣伝活動

 教職員組合関係でも、4月24日に日教組主催の「教育基本法改悪ストップ!中央集会」が有楽町のよみうりホールで開催され、約2000人が参加。5月22目には、全教(全日本教職員組合)が東京・千代田区公会堂で700人参加の「憲法・教育基本法の改悪を許すな/平和な世界を!5,22みんなのつどい」を開催した。全教では、早くに教育基本法闘争本部を設置、6月7日現在で188号を数える「教育基本法改悪反対ニュース」を発行、改悪問題だけでなく、広く今日の教育問題を伝える活動を闊達に展開している。最新の187号では、愛知高教組主催の「5.30あいち大集会」が予想を越える300人の参加をみたことを生き生きと報じている。

 6月1日、日高教(l日本高等学校教職員組合〉も参加する全国高校組織懇談会は、全国36の高校組織から150人が参加して「年金法案と有事関連法案の廃案」とともに「教育基本法の改悪反対、ゆきとどいた教育の実現」を掲げ、意思統一集会、さらに文部科学省や人事院との交渉を含む中央行動を行った.

期待される「6.19神奈川集会」

 この6月19日(土)には、本県のかながわ労働ブラザ(JR石川町下車〉で、午後2時より「子どもはrお国』のためにあるんじゃない!教育基本法改悪反対!6.19神奈川集会」が予定されている。すでにこの集会への賛同者が個人、団体ともに多数応募しており、日比谷公会堂集会のような性格と規模をもった集会になってほしいものである。


 このように、より広く、より多彩に、より波及的にと、「教育基本法を現実に活かせ、教育基本法の改悪に反対」の運動が、いま全国的に広がりつつある。一人一人が立ち上がり、この流れを「草の根」から、「燎原の火」のように広げていきましょう。

シリーズ 教育基本法を守り、生かしていこう @学校教育にいう『公の性質』(教育基本法第6条)は、国民の側のものである
シリーズ 教育基本法を守り、生かしていこう A「答申の前提は、生徒も教員も国家に帰属するものとしている」

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