2002年12月13日
横浜弁護士会 横浜定時制の募集停止は人権侵害と認定
横浜市に対し、定時制統廃合を再検討するように勧告
11月23日付けの『神奈川新聞』は、「横浜弁護士会が横浜市長に対し、この春の港高校など市立定時制高校の募集停止が人権侵害に当たるとして、定時制の統廃合を再検討するように勧告した」と伝えた。昨年「横浜市立定時制高校の灯を消さない会」が、「募集停止は、定時制入学希望者の学習権の侵害に当たる」として、人権救済を求めていた問題に、神奈川県の弁護士全員を組織する横浜弁護士会が、画期的な判断を下した。
横浜市の定時制統廃合の理由に対し、事実を持って反論し、しりぞける
横浜市教委によれば、今回の定時制統廃合などの制度変更の主な理由は、定時制高校への入学希望者が少なく、入学しても1年以内に退学していく者が多く、現在の定時制高校は、生徒の二一ズに対応できていない点にあるという。
これに対し勧告は、当初からの入学希望者は少ないけれど、入試の段階になると県下定時制普通科の競争率が1.0倍以上になること、特に港高校の01年度入試は1.09倍であったこと、93年度から01年度まで募集定員140名の港高校には、毎年150名を超える入学者があったことなどをあげて、市教委側の言い分が正確ではないと言う。
また、定時制は全県一学区なので市立定時制がなくなっても、県立の定時制で対応できるという市教委の言い分に対しては、横浜市内の県立定時制普通科の2校(横浜翠嵐、希望ヶ丘)の01年度の競争率が1.44倍、1.39倍という事実を示し、市教委の話が到底、実現不可能であると言明している。
さらに、定時制では中途退学者が多いとしても、それは定時制高校で教育を受けたい者が少ないことを意味するのではなく、定時制高校の定員数を減少させる理由とされてはならないと続ける。
このように、勧告は市教委の定時制統廃合の理由を、ひとつ一つ詳細な事実でもって反論し、しりぞける。
不登校の人にとって、定時制は代替不能の役割、横浜総合高校はこの役割カバーしていない
こうした分析に加えて勧告は、定時制高校の現在的意義について、「中学校、高等学校での不登校の生徒は年々増加しており、また、いじめや非行あるいは、画一的な教育制度になじめない等さまざまな理由により中途退学をする高校生も後を絶たず、深刻な杜会問題になっている。かかる諸事情からするならば、今日定時制高校の需要は、決して小さくなく、とりわけ、不登校経験者や中途退学者の教育を受ける場として極めて重要な役割を担っていると判断される」と述べる。
さらに、今年度新設された横浜総合高校は、第一回入試で595名、第二回入試で122名の不合格者を出すなど、入学することは決して容易ではない学校であり、「これほどの人気校になってしまえば、もはや横浜総合高校は、これまで、定時制高校が果たしてきた役割をカバーすることは不可能であると思料せざるをえない」と認定する。
憲法に定めた教育を受ける権利の侵害だけでなく、教育基本法にも違反
このような詳細な分析を踏まえて、勧告は次のような結論を下す。
「第1に、今回の制度変更は、憲法26条1項の保障する教育を受ける権利の侵害に当たるばかりか、能力に応じた教育の機会均等を保障した教育基本法3条1項にも違反する」
つづけて、「第2に、・・・・・国や地方公共団体は、現行の教育制度からドロップアウトして教育を受ける機会を享受できなかった生徒たちにはできる限りの代替手段を用意することで就学の機会を保障し、教育条件を整備する責務がある。この点、子どもの権利条約28条1項では、中等教育に関し、すべての子どもが利用可能でありかつアクセスできるようにするよう、そして、 学校への定期的な出席および中途退学率の減少を奨励するための措置をとるよう定めているが、不登校の子どもや中途退学の子どもたちに教育の場を与えないことは、同条約に反することになる」
このように、今回の制度変更が、憲法、教育基本法に違反していることに加え、子どもの権利条約にも反していると認定した。
さらに、「第3に、教育基本法3条2項は、・・・経済的理由によって修学困難なものに対して奨学方法を講ずべきことを定め、同法10条2項も、教育行政について、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行わなければならない旨を定めているが、これらの法律にも違反している」と締めくくる。
最後に、勧告は次のように強く横浜市に求める。「生徒、保護者、教職員等関係者全般から広く意見を聴取したうえで、募集の再開や募集停止の陳情等も視野に入れ、本件措置を再検討すべきである。」
横浜市・川崎市は、定時制統廃合案を見直すこと!
県教委は、「再編計画」で定時制をもちろん、県立高校を統廃合しないこと
今回の勧告は、人権教育の重要性を強調してきた横浜市教育委員会が、自ら重大な人権侵害を行ったということを明らかにした。、横浜市教委は、この勧告を真摯に受け止め、生徒、保護者などから広く意見を聞き、港高校や横浜商業定時制などの募集を再開すべきである。
横浜がこのような事態であるにもかかわらず、川崎市教委は3月に「川崎市立高校振興計画(案)」を発表し、その中で市立の夜間定時制5校を2校にし、そのうち1校を3部制の定時制にすることを明らかにした。この計画は、3部制の横浜総合高校をつくり、これまでの夜間定時制を募集停止していく横浜の定時制統廃合案と瓜二つである。
また、県教委は来年度にも「県立高校改革推進計画」(再編計画)の「後期計画」を発表するという。「前期計画」では、14校の県立高校が統合の名の下に、削減される方向にある。この再編計画に基づく、少なめに押さえられた全日制の入学定員策定が、「15の春を泣かせ」、全日制に入学できない子、定時制に入れない子をつくりだす要因の一つとなった。その意味で、県教委も横浜市教委と同様、重大な人権侵害を行ったといえる。
横浜の計画が、憲法、教育基本法、子どもの人権条約に違反し、人権侵害に当たることが明らかになった今、横浜市、および川崎市はそれぞれの「再編整備計画」や「振興計画案」をすみやかに再検討し、定時制の統廃合計画を撤回すべきである。さらに、県教委は「後期計画」で定時制の統廃合はもちろんのこと、県立高校をこれ以上絶対に削減すべきではない。