2021年9月3日


  シリーズ 定時制のたたかいから A

15年ルールを巡るたたかいから  (1987年1月〜1988年10月)

『連合路線の見直しを ニュース』第6号(1992年1月31日)より


ことの始まり

 1987年1月、神奈川高教組(以下、神高教)は「人事の民主化方針」を提案しました。内容は、「人事異動を円滑に行うため、同一校に一定期間在職したら、他へ異動する事を制度として導入する」というものです。

 この背景には、次のような事があったようです。
@全国的に同様の制度が入れられていたこと。
A「教育困難校」に異動を希望するものは少なく、その為そこからの転出が困難になっていたこと。
B逆に、受験校は転出を希望するものがすくなかった。
Cこうした情況の中で、「教育困難校」の組合員から希望に従って異動が出来るように要求が出されていた。

 神高教執行部は「人事の民主化方針」を提案するにあたり、「苦労の多い職場は、皆で担わないといけない。また、生徒急減期になったときに人事異動が円滑に進むルールをつくっておこないと、当局が勝手に人を動かすことになる」という説明をしました。

 定時制では、「同一職場に在職する期間が限定されると、積み上げてきた教育実践を引き継いでいくことが極めて困難になり、定時制教育を衰退させることになりかねない」との強い懸念が出されました。

 しかし、この時点で本部執行部は、「定時制という小さな職場では、職員一人ひとり果たしている役割は、大きな職場とは自ずから異なっており、定時制に機械的に人事異動ルールを導入するのは適切でない」との見解を持って各職場に説明していました。
 従って7月に開かれた「神高教第46回定期大会」では、全日制の問題として定時制は考えていました。

定時制にも15年ルールを入れる検討

 ところが、定期大会後執行部が県当局と取り交わした文書には、「定通については、89年4月1日を目途に検討」という文が入っていたのです。

 大会前の対応を曖昧にしたまま、神高教執行部は、「定時制の実状にあった内容にしよう」と試案を持って組合の定時制対策会議に提案してきました。定時制の各職場では、驚きとともに執行部のいい加減な態度に怒りが起こりました。

 しかし、「定時制だけ特別扱いするのは不公平だ」、「定通手当が欲しいから定時制に長く居ようとするのは自分勝手な考えだ、定通手当は皆で回した方がいい」等の話が流される一方、「該当する人の異動希望がいかせるには、どういう条件がいいのか」という、対象になる人が孤立する内容も本部から提起されました。
 こうしたことで、定時制の中は大変重苦しい雰囲気になってきたのでした。

状況を変えた定時制対策会議

 年が明けた1988年2月27日、対象者やこの問題に関心をもつ人たちが神高教本部に集まり、執行部の委員長、書記次長との話し合いを持ちました。
 30名を越える人たちは、この人事異動方針に反対の意見を様々な側面から取り上げ、また執行部のこれまでのずさんな対応を批判しました。

 ここで、状況が大きく転換していきました。今まで孤立していた人や職場が、これを機会に結びつき互いに勇気づけることになったのです。

 様々な攻撃に反撃し、定時制で働く人を勇気づけるパンフレット『この事実に誇りを持っている』(15年ルール導入の経緯。定時制が小規模であり、教職員が支えてきたこと。定時制の教職員を年限を切って異動させる理由がないこと。これらを詳しく整理したもの)も会場で配布されました。

13職場(分会定時制)・1名の共同修正案

 本部は各職場が勇気づけられ、動き始める中でこれまでより踏み込んだ提案をしてきました。しかし、各職場は人事異動ルールそのものを撤回させる方向に確実に進んでいましたから、本部の提案を受け入れるわけにはいきませんでした。

 第47回定期大会を前に頻繁に定時制対策会議が開かれましたが、本部提案に対する反対は増える一方で、逆に執行部案に対して修正案を提出する方向で話が進み、定時制22職場中13職場と1名の共同修正案が完成しました。6月29日のことでした。

 翌日の午前中に修正案を本部に提出に行くと、委員長と書記次長から、原案を書きかえるから修正案を出さないようにという説得が突然行われ大変驚きました。

 その後、「原案修正するので話を詰めたい」との執行部からの提起を検討し、文章確認をしたうえで原案修正を受け入れることとしました。もちろん、原案修正は「組織内の十分な合意が得られるまで検討をすすめる」の文が入った、それまで執行部が提案しなかった内容のものでした。
 こうして、第47回定期大会では定時制の意向を盛り込んだ方針が決定されたのです。

88.9.13集団交渉

 しかし、事態の急変は2学期が始まって直ぐに表面化しました。執行部は「当局が強い姿勢を示しており、話し合いが平行線になっている。1989年導入を崩していない」という報告をしました。こうして、9月13日県教委教職員課課長をはじめとする人事スタッフと組合との集団交渉が開かれることになったのです。

 私たちは交渉の前に「定時制の実情をしっかり訴えること」、「全員ができるだけ発言すること」等を打ち合わせ、交渉に臨みました。これまでの執行部と当局との交渉とは違ったものとなったのでしょう。確かに手応えがあり、当局の主張は交渉の初めと終わりで、明らかに変化しました。定時制の状況を十分に理解したうえで異動について方針を出していなかったことを当局は認めざるをえませんでした。

確認事項と留意事項

 この後、当局は9月13日の交渉を踏まえて「定時制の特殊性・教育問題、さらにこれまで冷遇してきたことを文章として表すこと」を条件に「人事異動方針」導入を執行部に提案してきました。

 本部執行部は「当局は大きく譲歩した、これ以上頑張ると取れるものもとれなくなり、当局が強権を振るう可能性もある」との情況説明をしました。
 当局が準備した「確認事項」と「定時制人事に関する留意事項」は、これまでになかったものです。

 本部は、ここで「本部の執行権でこれを収める」という態度を示しました。本部の姿勢を踏まえ、それぞれの職場での分析もし、定時制の全ての分会は統一して対応できるぎりぎりまで頑張ったといえます。

 10月1日の組合中央委員会で執行部は当局と妥結することを提案し、承認されました。このような闘いで獲得した2つの文書を紹介し、この文章を閉じたいと思います。


確認事項(一部抜粋)
2 ・・・・・学校長及び内示を受けた者は、その内示に従うものとする。だだし、希望地域・通勤時間等本人の意向と異なる場合は、あらかじめ意向打診を行うものとする。

7 要綱1の3(ア)の適用に当たっては次の特例措置を設ける。
 (3)定時制課程の対象者で同一課程を希望するものにあっては、合理的理由がある場合は、当面経過措置期間において再内示の申し出を認めるものとする。
以下、略

定時制人事に関する留意事項
 教育委員会と神高教は従来定時制人事に関して存在していた諸問題を認識し、「異動要綱」の定時制への適用に当たっては、その問題点を解消し、定時制教育の一層の振興を図る立場から行うものとするとともに、定数配置等今後の人事行政にあたるものとする。

 とりわけ、異動促進措置については、定時制が小規模であることに鑑み、各学校の教職員の年齢・経験年数構成など、実情及び要望を十分勘案し、対象者の機械的異動にならぬよう配置するものとする。

 また、異動後の後任者の発令に当たっては、在職者異動を促進し、上記の視点に立って、各学校の要望を十分尊重することとする。
 なお、急減期にともなって予想される諸問題については引き続き協議することとする。
 

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