2002年5月2日
「15の春」を泣かせ、学習権を侵害した県教委と横浜市教委は失政を謝罪し、
「再編計画」・入学定員策定を見直し、港高校や横浜商業定時制の募集再開を
2002年度の定時制入試は、横浜市教委が市立3校を募集停止とし、県内で初めて3部制の横浜総合高校を新設したことによって、これまでの県教委の誤った入学定員策定の矛盾が一気に肥大化し、定時制において大量の不合格者を出し、定時制でしか学べない子を閉め出し学習権を侵害することになるという事態が生じた。
定員枠や合格枠を拡大しても、学習権を侵害したことは事実
全日制入試と同時に行われた横浜総合高校の第1回選抜試験は、全日制以上の高倍率となり、約600名の人が不合格とされた。さらに、定時制の1次入試では1,994名の募集に対し2,523人が志願し、平均競争率が1.27倍とかつてない倍率となった。県内各地の普通科は軒並み1倍以上、なかでも横浜地区は希望ヶ丘の1.74倍、翠嵐1.61倍などの競争率となった。このままでは定時制の入試で、500名以上の人が不合格になるという異常な事態に対し、県教委や横浜市教委の反応は極めて鈍く遅かった。
「よこはま定時制父母の会」や「横浜市立定時制高校の灯を消さない会」など市民団体、県内教育団体、女性団体が横浜市教委や県教委に強力に働きかけた結果、県立と川崎市立の定時制において、1クラスの定員枠35人が40人に引き上げられ、全県で計225人の定員を拡大するという、全国的にも異例の緊急措置が決定された。定員枠が拡大されたこと自体は受検生にとっては良かったが、なぜ志願変更前にこうした緊急措置がとれなかったのか。県教委の決断が遅れたため、すでに最初の定員枠をもとに志願変更した受検生に対し大きな不利益と学習権の侵害をもたらした。
一方、横浜市教委は「父母の会」などの定員枠拡大要請を拒否し、前代未聞の教育長通知を出し、夜間の定時制についてだけ受検者全員を合格させるように強要した。総合高校のV部(夜間部)から他の県立定時制などに志願変更した人の不利益や不公平を考慮せず、市教委が全員の合格を打ち出したのは、「父母の会」など市民団体の働きかけに一定譲歩せざるを得なくなったからである。しかし、クラス増などの定員枠拡大をあくまで認めなかったのは、定時制3校を募集停止とした責任が問われ、自ら策定した「市立高校再編整備計画」の見直しが迫られることを回避しようとしたためと思われる。
結果的に、総合高校のV部は受検者全員を合格させたものの、T部・U部は約120名の不合格者(辞退者を含む)を出した。一方、戸塚高校は受検生の公平を確保するため、募集定員通り142人を合格とし、父母や市民団体の要請を踏まえ、特例措置で別途新たに70人を2次募集とした。
こうした措置により、入学枠が初めの募集定員より354名分増えたが、全県で普通科を中心に約390名(辞退者を含む)の不合格者が出た。その後、戸塚高校を含め全県15校で2次募集が行われたが、2次入試でも13名の不合格者を出すことになった。
県教委の入学定員策定(全日制)と、横浜市教委の定時制3校募集停止こそ元凶
こうした事態をもたらした要因は、県教委の入学定員策定の誤りと横浜市教委の定時制3校の募集停止である。県教委は、全日制の計画進学率を94%に据え置いた上で、前年度入学定員枠を約2000名も下回った県内私学に対し、実績(入学者数15.060人)に基づかず、前年より100名減じただけの17,300人の枠を保障し、その分公立高校入学者数の枠を大幅に減じた。中学卒業者数が2,758人減少するからといって、全日制高校の定員をほぼそれと同じ数の2,723人も減らし、その大半を公立校、特に「県立高校再編前期計画」における統廃合の対象校を中心にまかなったのである。
こうしたことに加え、横浜市教委が3校の募集停止を強行し、定時制定員枠を140名も減少させたことが、今回の異例な事態を生み出した主たる原因である。横浜地区の定時制においては、3、4年前から翠嵐や希望ヶ丘高校で志願者が定員をオーバーし、不合格者を出さざるを得ない状況にあり、140名の定員を減らすことは明らかに誤りであった。
さらに、募集停止とされた3校に替わって新設された横浜総合高校のT部とU部が昼間定時制であったことも、矛盾をより増幅させることとなった。定時制であっても昼間の高校であり、3年間で卒業できるということから、これまで定時制を希望していなかった人が、総合高校を志願することとなった。そのため、第1回選抜試験の競争率がT部で7.87倍、U部で4.91倍となり、夜間部のV部でも3.03倍であった。本来は全日制で学ぶはずの子までが定時制に入学することになり、経済的理由や不登校により定時制でなければ高校教育を受けられない子が、定時制から閉め出される事態が生じた。これにより、定時制でなければ学べない子の学習権が侵害されたのである。
突然の定員増によって教育条件は悪化
「再編計画」と入学定員策定の見直しや、
港高校などの募集再開がなければ、来年もまた同じことが生ずる
「定時制父母の会」や「灯を消さない会」などの市民、県民の「15の春を泣かしてはいけない」という必死の運動によって、まさに全国的にきわめて異例な措置がとられ、354名分の入学枠が拡大した。それによって、定時制を志願したかなりの子どもたちを不合格にしないですんだことは、とりあえず良かったと言える。しかし、横浜から平塚や小田原地区の定時制に通う生徒が生まれたことは見過ごせない問題である。また、今回入学した生徒は全日制並の40人学級となり、少人数クラスで教職員のきめ細かな指導が受けられるという定時制教育の良さを享受できないおそれがある。こうした点においても、今回の入試は多くの痛みを子どもたちに負わせたと言える。県教委と市教委は、こうした痛みを深刻に受けとめ、両教委の失政のツケを押しつけられた各教育現場に対して、できる限りの人的・物的支援を行わなければならない。
さらに、定員枠や合格枠の拡大によっても、救済することができなかった人が出たことを、はっきりと指摘しておかなければならない。特に、2次入試で不合格とされた13名、そして何度も落とされついには高校進学をあきらめた人、定時制でなければ学ぶことができなかったのにそこから閉め出された人、これらの人の学習権を県教委と横浜市教委は侵害したのであり、両教育委員会はこれらの人と保護者に謝罪すべきである。
最後に、こうした異例な事態を招いた原因の根本に、県教委については「県立高校再編計画」とそれを踏まえた全日制の入学定員策定があり、横浜市教委については「市立高校再編整備計画」があることは明らかである。この二つの「再編計画」はともに中卒者の減少を口実に、根拠のない学校適正規模を持ち出し、公立高校を統廃合していくことを基調にしている。港高校や横浜商業高校などの募集停止もこの「再編計画」による高校リストラの一環である。また、県教委の入学定員策定は、私学経営の保障を第一義的に重視し、はじめから枠通りの人数が集まることが困難である私学定員枠を定め、その分公立枠を減少させている。こうした「再編計画」と全日制の入学定員策定を変えることなく、さらに港高校などの募集再開を行わないのならば、来年もまた同じことが生ずるのは明かである。
したがって今後、県教委と市教委に求められているのは、ともに「再編計画」を根本的に見直し、希望者全入を見据えた入学定員を策定し、さらに港高校と横浜商業定時制の募集を再開させることである。
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