2001年12月1日


シリーズ 「教職員人事制度研究会報告」を斬る @

民間でも問題が噴出している
成績主義評価の導入は、教育問題をいっそう深刻にする



  県教育長から「教職員の人事評価制度」の検討を依頼されていた教職員人事制度研究会は、昨年12月の『意見聴取のための検討資料』(以下『検討資料』)に続いて、この10月に『教職員の人事評価のあり方について』(以下『報告』)と題した最終報告を公表した。本紙(『連合路線の見直しを ニュース』)では『検討資料』について今年2月から4回にわたり批判的検討を行ったが、今回はこれを踏まえ、さらに『報告』について批判的検討を加え、真の教育問題解決の一助としたい。


目立つ、初めに成績主義評価制度ありきの姿勢

  まず特徴の第一点は、「第1章 教職員人事評価制度をめぐる現状と課題」が『検討資料』と全く同じであることである。これは、以下の「評価制度の体系」を展開する大前提であるから、少しの改変もできないということか。つまり、教育問題の原因についての分析や指摘なしに、原因を現場教職員の「実態」に収斂させ「評価の必要性」を説く強引さに、少しの変化もないのである。そのせいか、不自然さが目立つ。

  たとえば、「まえがき」でこの5月の「池田小事件」までも「これに適切に対応して開かれた学校づくりを進め・・・そのために『評価制度』が必要」と連動させている点である。

  また、『報告』が研究会独自の報告であるべきなのに、諮問側(教育委員会)の立場に立った内容が散見される。たとえば「新勤評」が2度しか実施されていない時点で、研究会がその実状に批判的なコメントを加えて「評価制度導入」の論拠にしていたり、導入の必要性を文部科学省の「21世紀教育新生プラン」に求めている点などである。また評価対象者を「退職者の再任用者まで視野に入れよ」などとしている。この姿勢は本来、諮問側のものであるはずである。これらは、県教委の教職員人事制度検討会(5月に庁内に設置)と人事制度研究会との間で、『報告』について「摺り合わせ」があったことを伺わせるものである。これでは、公正な『報告』とはいえない。

  さらに、この春に民間では「成績主義評価制度」の見直しが盛んに報じられたが、これに対応した検討が『報告』には全く見られないことである。この制度の見直しにいち早く対応した富士通の幹部が、研究会の委員として加わっているのにである。また、昨年の4月に人事考課制度という成績主義評価を導入した東京都において、現在生じている問題点も全く言及していない。


民間とまったく同じ成績主義評価の導入は、誤り

  特徴の第二点は、第1章とは反対に「第3章人事評価のあり方」が大幅に書き加えられ、即実行に移せる内容になっている点であり、しかもその内容が、競争原理をテコとして教職員と教育の政治的統制を露骨に示している点である。教育の集団性や主体性など教育条理は散見されるが、すぐそれは姿を消すか、評価制度に強引に結びつけられ、叙述自体が「教職員個人の評価の不可能」を帰結しているにもかかわらず、内容は以下の脈絡で貫徹している。

  @「教育改革」(特色ある学校・開かれた学校づくり)の断行 → A体制づくり(勤務実態の把握者=管理職・主任・分掌や委員会の責任者) → B「評価対象」づくり(学習指導・生徒指導など5項目) → C評価方法(段階的評価つまり数値評価と絶対評価)→ D評価者(管理職と生徒・父母・指導主事の意見反映) → E人事評価の活用(管理職選考・給与査定・人事異動) → F「より良い学校教育の推進」

  これは、富士通など民間会社で見直しが始まっている「成績主義評価」あるいは「成果主義評価」による管理の教育版そのものである。以下、それを対比してみよう。 

民間の成績主義評価制度 人事制度研究会の『報告』
  年功序列的部分をなくし、成果に表れない「努力」や「能力」は評価外とし、職務や業務の成果(業績)によって賃金や昇格を決める制度   モラールアップにつながらないから、在校年数・経験年数による年功・過去の評価・人柄・性格など職務遂行に直接関わらない要素は除かれるべきである
  仕事の目標を決め、その達成度に応じて評価する制度   学校、グループ、個人の目標設定。項目、方向、実施者など評価体制の確立
  労働者間の競争を激化させ、人件費抑制がねらい   人事評価システムと給与上の処遇が連動することが必要

  民間でも見直しが進む成績主義評価を、教育界に押しつける今回の『報告』は、真の教育改革にほど遠いものである。


成績主義評価の導入の不当性を父母・県民に大いに訴えていこう

  特徴の第三点は、『報告』が「人事評価」断行の姿勢から強引さが目立つ点である。「段階的評価」や「絶対的評価」の概念説明など、あいまいで未整理のまま使用されていたり、また「公務員の給与上の処遇は勤務成績に基づき運用するのが法の趣旨」などと断言していることである。地方公務員法では、公務員と教員の賃金決定は「平等扱い」「情勢適応」「職務給」「均衡」の4原則が考慮されるべきとされ、上記のような趣旨はない。あるとすれば、「職務給」の曲解か、恣意的強弁かであろう。さらに、諮問外の「指導力不足等教員の人事管理の取組」について、一項目設けて報告しているのも理解しがたいものである。

  また最後に、「国の施策や公務員制度改革による人事・給与制度の見直しも予想されるから、この人事評価システムは柔軟な制度としてスタートすべきである」としているのが注目される。つまり、この「評価制度」は教育問題の解決や真の教育改革推進のためなどではなく、政府が進める「構造改革」=リストラ政策に連動したニセ「教育改革」推進の一環であるということを自ら明らかにしたもので、この『報告』の成果と役割とを明確に理解する上で貴重である。

  『報告』は、今日の教育問題の本当の解決を図るものではなく、新たに誤った教育行政によって、教育問題をいっそう深刻化させることを十分に予想させるものである。教職員はもとより、父母県民はそのようなことを求めてはいない。求めているのは、児童・生徒の立場に立った、本当の問題解決であり、この点に確信を持ち、制度導入の不当性を大いに保護者、県民に訴えていくことが必要である。

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