1991年6月8日


「単位制高校」の新設に反対する



 1991年2月、県教委は神奈川工業高校の敷地内に「単位制による新構想高校」を95年に開校したいと発表した。その発表は、神奈川工業高校の教職員の意見を聞くこともなく、またすでに昨秋までにまとまっていた基本構想を明らかにすることもなく、全く唐突に行われた。

「単位制高校」の宣伝  選挙対策にうまく利用

 それは、2月県会の予算案の発表に際し、「第二次新神奈川計画」の主な事業の一つとして、特に目前に迫った知事選における長洲再選のための目玉政策の一つとして、大々的に宣伝された。中退者を広く受け入れ、生涯学習にかなり重きをおくようなことを言う候補者も現れた。まさに、うまく選挙対策に利用されたと言ってよい。

 県教委はその後、昨秋までにまとめられた分を含めて基本構想を発表した。神奈川工業高校分会も加えて、組合との交渉ももたれた。それらのなかで明らかになった「おいしい宣伝」とは異なる「単位制高校」の真の姿をここに示したい。


「中退者を積極的に受け入れるつもりはない」  制度と受け入れは全く別

 「単位制高校」創設のニュースをマスコミは「中退者救済に道」、「いったん高校を中退した人が再入学する場合もゼロからスタートする必要がなくなる」と中退者対策になるかのように報じた。
 しかし、3月に行われた対県交渉で、吉田専任主幹(当時)は「他県の単位制高校のように、中退者を積極的に受け入れるという点は強調していない。あらたに『低辺校』を作ってもしょうがない」とはっきり言明した。

 これは、基本構想でも明確であり、設置される二コースとも入学試験を実施する。それも、特別に全日制入学試験以前に行うとされている。つまり、2月末や3月に退学する生徒にとっては、この学校の入試はすでに終わってしまっているのである。
 この4月に開校した東京の新宿山吹高校(単位制高校)も、午前部と午前・午後部で11倍近い倍率になり、大量の不合格者を出した。
 つまり、マスコミで宣伝した「中退者に道」は、制度の面だけでそういえるのであって、実際には中退者を積極的に受け入れるつもりはないのである。

高校ではなく、単位修得速成機関   これが、真の姿

 「単位制による新構想高校」の基本構想を読んだ人なら誰でも感じる疑問は、はたしてこの学校では人格形成に必要なことが行われるのであろうかという点である。そうした心配は、すでに神奈川新聞が1988年7月の社説のなかで指摘している。「もう一つの心配は、クラスというしっかりした組織がないために、人格形成期に必要な人間関係づくりがむずかしい点である」。

 基本構想は、ホームルームを「ギター、テニスなどの趣味・スポーツ等の活動分野に分けて編成する」としている。対県交渉でも「前期はギターのホームであっても、後期はテニスのホームになってもよい。生徒にホームを選ばせる」という発言があった。これによるとホームルームは、仲良しグループの集まりとか、同好会と変わらないものとなる。これでは、ホームルームが学校における生徒の基礎的集団とはならない。また、そこにおけるホームルーム活動も同好会の行動とあまり変わらない、きわめて偏ったものになることが予想される。

 基本構想は、必修クラブについては全く触れていない。昼夜神奈川工業高校の授業と部活動が行われているもとで、必修クラブなどできる余地はない。これは、体育の授業においてさらに深刻で、「体育・スポーツは、必要に応じて一定期間に集中的に学習する」と初めから定期的にできないことを告白している。つまり、グランドはほとんど使えないので、体育の授業は日曜や夏休みなどにまとめて行うというわけである。

 また、特別活動の項目の中には学校行事についての記述はない。もちろん、生徒会活動についても触れられていない。
 このように、特別活動についてはほとんど行わず、ただ単位だけをきわめて「スムーズ」に安易に寄せ集めることができる学校、人格形成に関わる活動を全く軽視している学校、これが「単位制による新構想高校」の真の姿といえる。


単位制課程 定時制・通信制の特別な課程  これを利用して安易な単位認定

 単位制課程というのは、これまでの全日制、定時制、通信制とはまったく別の一課程というのではない。単位制高等学校規定はその1条で「学年による教育課程の区分を設けない定時制の課程および通信制の課程(以下「単位制の課程」という)」と記している。つまり、単位制課程は定時制・通信制の特別な課程なのである。これにより、基本的に定・通制である単位制課程は全日制より安易な単位認定が可能である。

 定時制、通信制はそもそも勤労青少年に全日制と同等の後期中等教育を保障するために設置されたものである。したがって、教育上、保健上の理由から就学年限は3年ではなく、4年以上とされてきた。しかし、「単位制高校」を提案した臨教審答申を受けて、学校教育法が改悪され、定・通制は3年で就学可能とされた。

 定・通制の教育を全日制より切り下げる措置は、これまでも指導要領上でいくつか設けられている。たとえば、定通併修(定時制【通信制】に籍をおきながら通信制【定時制】で単位を修得できる)、技能連携(職業訓練校や専修学校、企業内学校での授業を単位として認める)、実務代替(勤労や家事を単位として認める)、そして大検合格科目の単位認定などである(1991年当時こうしたことをおこなっている県立の定時制はなかった)。

 このように、定・通制は全日制より全く安易な単位認定が可能な制度になっている。これをうまく利用していこうというのが、基本的に定・通制である「単位制高校」なのである。

 全国的にみると、ほとんどの「単位制高校」は定通併修、技能連携、大検を導入しており、金沢中央高校では実務代替さえ認めている。神奈川の「単位制高校」も大検を単位として認めることを明らかにしている。また、社会奉仕活動を単位認定するということであるが、これは新たな実務代替の導入として問題である。されに、定通併習、技能連携も基本構想にはないものの否定しておらず、今後導入される可能性もある。

「単位制高校」ではなく、新指導要領を撤回し、一人ひとりにゆきとどいた教育を

 「端子制による新構想高校」の基本構想はいろいろ美しい言葉で全国的に初めての試みであることを自画自賛している。しかし、少し検討してみると上でみたように人格形成に関わる活動をほとんど捨て去り、切り売りされた単位を寄せ集め、安易な単位認定のもとに高卒の資格を与える学校という性格が浮かび上がる。これこそ臨教審答申がねらった高校教育の多様化、複線化に他ならない。

 したがって、基本構想を読む限り、「新構想高校」が県教委の言う臨教審版の「単位制高校」ではないという根拠はみあたらない(対県教委交渉でも、「文部省からは定時制・通信制の枠の中でやってもらわなくてはこまるという話もあった」と、臨教審答申に沿った線での指導があったことが語られた)(その後、5月下旬に文部省は全日制にも単位制高校の設置を認める方向で検討、来年度に実現したいとする方針を明らかにした)。

 今求められているのは、「単位制高校」の新設ではなく、一人ひとりにゆきとどいた教育をほどこすことである。そおためにも私たちは、新指導要領の撤回と学級定員の縮小、教職員定数の増加など教育条件の大幅改善を強く要求するものである。

会報『ニュース』第4号(1991年6月8日)

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