1999年9月7日
問題と矛盾に満ちた県立高校14校削減案を
白紙撤回し、県民参加のもとで全面的な再検討を
神奈川県教委は、8月16日県立高校の統廃合をふくむ「県立高校改革推進計画(案)」(以下、計画案と表記)を発表した。それによると、2004年度までの前期計画では、14組28校について2校を1校に統合、実質的に14校を「廃校」、削減する案となっている。
「改革推進計画案」は、「県立高校つぶし」を最優先
計画案の第一の特徴は、県立高校を削減することを最優先していることである。計画案は、公立中学校の卒業者数が今後も減少していくことを強調し、学校の「適正規模」を確保することを県立高校削減の理由としている。「適正規模」とは、40人学級をあくまで前提としたうえで、「学校全体で18学級から24学級(1学年6〜8学級)、生徒数では720名から960名」であるとされている。
しかし、現在でも神奈川県には1学年5学級以下の学校が9校あり、そこでは計画案が指摘するような「学校運営上の、さまざまな課題が生ずる」ということはなく、県教委主催のフォーラムでも在校生自らが「活気ある学校生活をおくっている」ということを報告している。さらに、神奈川県では在籍する生徒が、720人未満の全日制県立高校は現状で66校、全体の4割に達している。そもそも全国的には、1学年5学級規模程度の公立高校が普通であり、720名以上の生徒数でないと「適正規模の学校」といえないという計画案の立場に対しては、多くの優れた教育実践に裏付けられた反論が出されるのは明らかである。
こうしたことを総合すると、県立高校を削減するために持ち出された「適正規模の確保」という理由は、多くの県民を納得させるものではなく、初めに削減を前提として、後から考え出された理由といえる。
県立高校大削減は、高校へ通えなくなる子をさらに増やす
それでは、なぜこんなにも多くの県立高校を削減するのか。その背景には、「県財政危機打開」を錦の御旗にして岡崎知事が強引に進めている県政リストラがあると考えられる。つまり、県民の財産ともいえる県立高校をつぶし、その跡地を民間に払い下げる、等々のことが意図されているのである。しかし、「県財政危機」を乗り切るために県立高校をつぶすことを県民は認めていない。
計画案は、全日制の「計画進学率は、・・・今後も段階的に引き上げていきます」と記す。計画進学率を上げるのだから、県立高校を削減しても全日制高校への進学機会が狭まることはないというわけである。しかし、計画進学率を上げるだけでは必ずしも実績の進学率を上げることにつながらない。
99年度入試では、計画進学率を93.5%と前年より0.5%上げたものの、実績進学率は91.9%(前年比0.1%増)にとどまった。計画進学率が91.0%であった93年度の実績進学率は、91.7%であり、この6年間で計画進学率を2.5%あげても、実績の進学率はこの間0.2%しか伸びていないのである。
98年度の公立中学校卒業者の進路調査では、県内の公立全日制高校への進学希望者(全体の82.9%)の22.3%(14,308名)の子どもたちが公立高校に入学できなかった。また、公立、私立に関わらず全日制高校への進学希望者(全体の94.3%)うち、1780名の子どもたちが全日制高校に入れなかった。その結果、99年度の定時制入学者が前年度より155名も増え、県央、相模原地区を中心に全県で80〜100名もの不合格者を出さざる得ない事態となっている。
高校へ行けなかった子どもたちは、高校進学をあきらめ就職をしたり(就職希望者は565名であったが、実際に進学せず就職したのは671名)、中学浪人をしたり(122名)、専修学校やフリースクールに通ったりしている(専修学校等進学者883名)。
こうした現実があるのに、なぜ今、県立高校を14校も削減する計画を発表するのか。不況、不景気が長びくことにより、私学をはじめとして授業料を払えず、退学せざる得ない子どもも現れているもとで、県立高校を削減することは「計画進学率を段階的に上げる」と言おうとも、高校へ行けない子どもを今以上に増加させることになることは明らかである。計画案は、「15の春を泣かせる」案といえる。
フレキシブルスクールは、新たな学校間格差をつくり出す
計画案の第二の特徴は、「単位制による高校」を無批判に手放しで賛美し、全県に拡大していることである。前期計画で設置される「単位制による高校」は、単位制普通科高校が4校、フレキシブルスクールが3校、総合学科高校が6校、計13校である。県内には、神奈川総合高校と大師高校という2校の「単位制による高校」があるが、これらの高校についての全面的な総括がまだまとめられておらず、県民には「単位制による高校」についての情報が十分伝えられていない。
一方、全国的には「単位制による高校」の問題点や弊害が少しずつ明らかになってきている。ホームルームなど基礎的集団の形成が十分でないため、ともすれば高卒の資格取得だけが目的化し、単位取得しやすい科目を中心とした安易な科目選択、受験だけに偏った科目選択や学習態度が顕著となり、ホームルーム活動や学校行事など、特別活動による人間形成が十分できないという問題点が指摘されている。そのため、埼玉の高校や東京の国分寺高校では生徒や保護者による反対運動が起きている。
また、特にフレキシブルスクールについては、県内の高校ではこの間まったく検討したことはなく、計画案で突然提起されてきた高校である。フレキシブルスクールは単位制であり、普通科であるという点では、単位制普通科高校と同じだが、中退者、社会人を受け入れ、昼間定時制にきわめて近い形態の高校とされている。一方、単位制普通科高校は中退者をほとんど受け入れず、大学受験を重視する高校という意図が計画案から読みとれる。フレキシブルスクールは、「単位制による高校」に格差をもたらし、全日制と定時制の間にもう一つの高校をつくり出すことにより、新たな学校間格差を導入する。われわれはこうした高校の設置に強く反対するものである。
30人以下学級と希望者全入を柱に、計画案の全面的な再検討を
この他、計画案には専門学科高校の3校削減など専門学科軽視、普通科高校の大幅削減をはじめ、校長の権限強化、職員会議の位置づけや管理運営規則の改悪検討など、問題点が目白押しである。また、定時制に関わってもフレキシブルスクールだけではなく、相模台工業高校の再編(工業科の廃止)、再編される定時制への3年制や単位制の押しつけなど、定時制の学校現場から慎重な意見や批判が相次いだ内容を強制する計画案となっている。
さらに、2年前の「定時制再編通知」と整合性を欠いたり、矛盾する内容も見られる。 わたしたちは、このような問題と矛盾に満ちた「県立高校改革推進計画案」の白紙撤回を強く要求する。そのうえで、30人以下学級と希望者全入を柱に、幅広い県民が参加したもとで、県立高校のより良い改革についての全面的な再検討を行うべきである。
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