1998年4月15日・5月13日
夜間定時制への
3年卒業制導入はなぜよくないのか
「教育改善重点校」の指定に伴い、夜間定時制にも3年で卒業可能な制度を導入せよという県教委の圧力が強められている。しかし、この制度はすでに導入された他県および県内の定時制からさまざまな問題点が指摘され、他県では今後、3卒制を積極的に広げていこうという動きはない。神奈川県でも、一昨年度末(1997年3月)に、まとめられた研究指定校(県立定時制10校)の「報告書」には、3卒制導入に慎重・反対の姿勢が示されている。
「全日制に入りたい」という希望を阻害、妨害してはいけない
「重点校」と「非重点校」とを差別化し、厳しい統廃合基準で「定時制つぶし」をすすめている県教委の動きを前にして、「非重点校」のなかに3卒制を導入し、生き残りを計ろうという声も聞かれる。
しかし、これは「生徒のため」という美名のもとに、夜間定時制に3年卒という、きわめて問題の多い制度を導入し、県民、生徒の「全日制に入りたい」という希望を阻害し、「全日制より3年卒の定時制へどうぞ」と全日制と生徒を奪い合うこととなる。結果的に、夜間定時制への3卒制導入は、この間すすめられてきた「昼間学べる生徒はすべて昼間の全日制へ」という運動に水を差し、妨害するものである。
3卒制は、ゆっくり学べる定時制の良さを失わせる
3卒制導入の最大の問題点は、3卒の条件がある「強い生徒」が優先され、条件のない「弱い」生徒が結果的に切り捨てられていくことである。同じ定時制、同じクラスのなかに3年卒の生徒と4年卒の生徒が混在すると、働きながら学ばなければならない生徒や健康に自信のない生徒、心身にハンディのある生徒などがあせりを感じたり、居心地が悪くなり、差別されているという感じをもつということが報告されている。
そのため、文部省も日高教(日本高等学校教職員組合)との交渉で、「3年卒と4年卒は、別建て(コース分けなどのこと)が基本である」と答えている(1992年)。3年卒導入は、「4年間、みんなでゆっくり学ぶ」という定時制の良さを根底からくつがえしてしまうといえる。
「3年卒業制」の多くの問題点
実際、3卒制(1日5時限以上の授業を行う時数拡大方式と通信制で何単位かを取得する定通併修方式などがある)は、導入された他県および県内の定時制から、次のように無数の問題点が報告されている。
「働く生徒に不利益」「4卒生に劣等意識」「退学者増加」「教員が減らされた」
「クラス減分(3卒制を導入すると、その分学級減となる)の教員定数が減らされた」「定着するのは働いている生徒だが、3卒制は働くことを保障しない」(多くの県)
「優秀な生徒でも定通併修の勉強に精神的・体力的にゆきづまり、結局退学することとなる。学力不足の生徒は言わずもがな」「4卒生が『カス』と侮辱されている」(愛知)
「教職員の負担が増えている」「入学してから働き始める生徒がいる以上、ゼロ校時は働く生徒に不利益」(石川)
「レポート、スクーリングが形式化し、学力低下を招いている」「3卒生に合わせるために、4卒生の教育課程が継続性を失っている」「3卒にチャレンジする生徒のほとんどが挫折。学校に残るのならいいが、挫折して退学していく生徒が多い」「定通併修する生徒は、通学・学習の過密化で負担増」「3卒生と4卒生が混在することによって、生徒間に溝が生じ、生徒集団が不安定となっている」(大阪)
「3卒に挑戦した生徒の多くが達成できない。しかも、3卒が達成できないとわかった時点で退学する」「4卒生に劣等意識がある」「単位かせぎという意識が強くなる」「ゆとりがなくなる」「転編入生が増え、初めからいる生徒とのトラブルが絶えない」「ほぼ全県に3卒制が導入された94年以降退学者が増えた(退学率93年度8.6%から95年度は13.4%に増加)」(和歌山)
「初年度の3卒コース生35人のうち、卒業できたのは11人。3卒生が、早く(午後4時前)登校するので、全日制生徒との暴力事件が起こるなど、全日制とのトラブルが頻発、生徒指導上定時制、全日制とも難しい問題を抱えることとなった」(川崎市立)
4年間でゆっくり学べる定時制の良さ ー マスコミも取り上げる
昨年、NHKテレビ(地方)は、長崎市立長崎高校定時制を「不登校であった子が4年間で生き生きとよみがえる学校」として紹介、反響を呼んだ。また、三重県の松坂実業定時制は、「ゆっくり生きよう!高校4年間」をスローガンに、ゆっくり学ぶ良さにこだわる。これを広く市民に宣伝し、1993年に72人だった生徒数が、97年に157人に増えた。
生徒にとって無理を強いる3卒制を夜間定時制に導入するのではなく、4年間でゆっくり学ぶ良さを、これから多くの人に訴えていくことが重要である。
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