1996年6月18日


県民が望む定時制とは

新総合計画一次素案で、定時制教育が取り上げられる  

『連合路線の見直しを ニュース』25号・26号(1996年5月・6月)より



 3月末(1996年)、県は新総合計画第一次計画素案を公表しました。計画素案は、臨海再開発や首都圏第3空港など、巨大プロジェクトを推進するために、「スリムで効果的な行政運営」を掲げ、県政の大リストラを行うことを一つの特徴としています。

 

魅力ある定時制への再編を掲げる

 素案が、「多様な柔軟な高等学校教育の推進」という項目で定時制教育にについてつぎのように取り上げています。

 また、科学技術の進展など柔軟に対応できる人材を育成するため、職業教育の充実を図るとともに、生徒の多様化や生徒数の減少が進む定時制高校については、社会人の学習ニースへの対応など新しい視点も踏まえながら魅力ある定時制教育への再編を図ります。
  

 魅力ある定時制ということで、3年卒業制や定通併修を県教委は考えているようですが、これが魅力にならないことが全国的な状況からすでに明らかになってきています。それだからこそ、この間の研究指定校の検討で多くの学校が、3年卒業制や定通併修制は現在の定時制には合わないという報告を提出しています。

定時制の本当の魅力とは

 夜間定時制の魅力とは、何でしょうか。映画『学校』の監督である山田洋次さんが夜間中学の魅力ということで語っていることがヒントになります。

 学びたいという気持ちがあればだれでも入れる学校であり、疲れた体を引きずって登校してきても、教室にはいるバーッと気持ちが開放できる学校
山田洋次・田中孝彦『寅さんの学校論』
 

 夜間定時制の魅力も、夜間中学のこうした魅力と基本的には変わらないと思います。そして、県民もこうした定時制を望んでいるのではないでしょうか。

 この点から見て、今年もまた厚木地区・相模原・県北地区、藤沢地区で応募者が入学定員を超え、不合格者が出たことはきわめて大きな問題です。だれでも入れる学校という定時制高校の魅力の一つが危機に直面しているといってもよいと思います。

 県は「魅力ある定時制への再編」を掲げるのなら、こうしたことが絶対起こらないよう全日制の学級減の見直し、定時制の柔軟な学級編成と一時的な学校増を行うべきです。

「社会人の学習ニーズへの対応」と言うが

 社会人の学習ニーズに関しては、同じ素案のなかの「生涯にわたる学習環境づくり」において、「教養アップや職能アップなど社会人の多様な学習ニーズに対応し、学習活動の振興を図るため、県立の学校や様々な県立機関が有する学習支援機能を生かした講座の開設や施設の開放を促進します」と記されています。

県民が定時制において望む生涯学習とは

 社会人の学習ニーズに関しては、定時制教育が担っていくのは基本的には後期中等教育です。この何年来、高校に入学できなかった人、入学したもののいろいろな事情で退学してしまった人は毎年、5千名から8千名ほどいます。こうした人の学習ニーズ、高校で学習してみようかという気持ちに定時制が応えることが「社会人の学習ニーズへの対応」の基本です。

 そのうえで、すでに高校を卒業した人が、もう一度3年生に編入し、専門教科を学習する制度(東京では、すでに社会人編入制度として実施されている)や高卒者が安価な費用でさらに高度な専門教育を受けることができるようにするために、定時制高校に夜間専攻科を併設することなども検討されるべきです。
 

「社会人の学習ニーズへの対応」と統廃合は両立しない

 このような社会人の学習ニーズに対応していくためには、職場や家庭のすぐ近くに夜間定時制高校が存在している必要があります。つまり、地域に根ざした定時制が残っていてこそ、「社会人の学習ニーズへの対応」が検討できるのであり、定時制生徒数の減少を声高に叫び、統廃合を促進していくことと「社会人の学習ニーズへの対応」とは両立できません。

 県が、定時制教育に「社会人の学習ニーズへの対応など新しい視点」ということを求めるならば、まず川崎工業定時制の募集停止の強行に現れたような県行政の姿勢、つまり入学者数が何年間、何人以下であったので即募集停止というような姿勢を改め、県民の学習ニーズに応えている定時制の存在を広く宣伝していくことが必要です。

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