2025年12月12日
寄 稿
何より大切なことは、
不登校の子の「声を聴き取る」こと
こだまの会(横浜市港南区) 馬場千鶴
こだまの会は横浜市港南区で1998年から活動している不登校の親の会です。毎月定例会を開き、学習支援グループも運営しています。会員は当事者の親がほとんどで、区や市・県・全国の連絡会などと繋がっています。
およそ30年近くの活動の中で、条例等により文科省や各教育委員会主導で制度面の変化は出てきましたが、不登校者数は「災害級」と言われるほど、増加の一途をたどっています。
2023年度の神奈川県の小中学校の不登校者数は23629人、高校の不登校は3947人になっています。不登校者数にカウントされるのは、連続して30日以上欠席している場合で、長期療養などは含まれません。
また、何とか登校して校門にタッチしたとか、先生に挨拶できたら登校とみなされる場合もあり、実際は報告数の何倍もの教室に入れない子どもたちがいます。
制度が設定される中で、周囲や親の認識も多少変化しています。例えば、「登校強制はいけない」「学校に行けないならフリースクールやフリースペースに行けばよい」と、教員の方々からも(数は少ないですが)、ごく一般の方からも声が出るようになりました。
横浜市立中学校ではすでに「校内ハートフル」という校内の居場所が支援員付きで全校配置されています。
神戸大学名誉教授の広木克行氏の最新刊『不登校の「心の傷」が癒えるとは』(清風堂書店)で、広木氏は不登校理解のキーワードとして「子どもたちの心の傷」を挙げています。この心の傷がどういうものか、文科省が真剣に調査し分析して要因を解明していかない限り、命の問題として、不登校は減らないと述べています。
25年ほど前になりますが、こだまの会に何回か来られた方の娘さんが自死しました。その時の衝撃と、親の苦しみ、そして何も書き残さず突然旅立ってしまった彼女の無念の想いを、私達大人は決して忘れてはいけないと自戒を込めて活動を続けています。
しかし、実際の当事者や親たちの苦しみは変わっていないように見受けられ、こういう体制の中でも生きづらい我が子は、「発達障害ではないのか」とか、学校側の無理解、また、家庭環境の悪化などに原因を求めようとする傾向は変わらず続いています。
不登校状態になったときに親が一番心配するのが、学業の遅れと将来に対する不安です。命の問題だとの認識を最初にもつ親や教師はほとんどいません。
親自身の不安を子どもにぶつけてしまい、子どもが自分の苦しさを理解してもらえないと思うと、ひきこもったり、暴力行為として出てしまったり、また今一番多い相談がゲーム依存になってしまっているというものですが、自分を守るための行動であるということは決して忘れてはいけないのです。
何より大切なことは、子どもたちの声、気持ちを丁寧に聴き取ることだと思います。この「声を聴き取る」ということは、大人にとって難しいことです。大人の意図が見え見えの姿勢を、子どもたちや青年は鋭く見抜き、決して心を開いてくれません。
毎月の定例会は、親としての苦しみを吐き出しつつ、方向性が間違っていないか、お互い確認する場ともなっています。
またこだまの会は、学習支援グループを持っていますが、ここは年齢にかかわらず自分で学びたいと思った人が来ています。学齢期の子もいますが、ひらがなを書けなかった30代後半の青年も来ています。
ベテランの元教員が1対1で指導していますが、その青年が初めて役所で「自分の住所氏名を漢字で書けた!」と言った言葉に、本当の教育の原点があると思います。
私たちは彼らから実に多くのことを学ばせてもらっています。行政や民間による制度の充実や理解もぜひ拡がってほしいところではありますが、まず個人の意識を高めて、一人でも多くの方々に子どもや青年の現実を理解していただきたいと思います。
そして学校内のことでは、少人数学級と教員の方々の負担削減は必須、せめて困難を抱えた子どもや教員間の辛さの共有ができる、余裕のある学校であってほしいと願います。
・トップ(ホーム)ページにもどる