2022年12月21日

  定時制6校の募集停止発表は極めて唐突 

1ヶ月弱後の教育委員会決定は極めて拙速

翠嵐定時制を募集停止にすると、
外国につながる生徒の支援教育が断絶する


 9月29日、県議会文教常任委員会で突然に発表された夜間定時制6校の募集停止は、1ヶ月も経たない10月25日の県教育委員会臨時会において、教育委員から「定時制の募集停止については、唐突という印象の声もあるが」という質問が出されたものの、2026年度からの実施が決まりました。

 臨時会には、「県民の意見を十分に反映するため余裕ある検討期間と議論の保障をもとめる申し入れ」(日本共産党県議団)、
 「県立高校実施計画(Ⅲ期)を拙速に承認・決定しないでください」という要望書(翆嵐定時制の存続を求める会(仮称)準備委員会)、
 さらに「横浜翠嵐高校定時制及び県立他5校定時制の募集停止を見直すことを求める」請願(かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会)が出されていましたが、結果的にこれらが充分に考慮されずに決められたのは、極めて拙速で問題のある決定と言えます。

募集停止発表は「改革計画」全体)」に従っていない、1学年1学級規模を検討すべき

 29日の文教常任委員会では、「県立高校改革実施計画(全体)の一部改定」と「実施計画(Ⅲ期)」が報告され、このⅢ期計画のなかで、全日制10校の統廃合(5校の削減)、定時制6校の募集停止などが発表されました。

 夜間定時制の募集停止(2026年度より)
 横浜翠嵐 向の岡工業 磯子工業 茅ヶ崎 伊勢原 秦野総合
 

 「一部改定」の素案については、7月13日から8月12日の間にパブリックコメントが募集されました。しかし、「一部改定」には定時制の募集停止や適正配置については触れられていません。

  「改革計画(全体)」には、定時制の配置の考え方について「全日制の今後の再編・統合の状況と全日制進学率の動向を踏まえ、適正な配置に取り組みます」と記述されているだけです。

 また、Ⅰ期計画についての「成果と課題」(2020年)のなかで、「定時制志願者の傾向やニーズなどをもとに、定時制の適正配置についてさらに検討を進めていく」とされているものの、Ⅱ期計画、及びその「進捗状況」の中では、定時制の適正配置については触れられていません

 これらを考えると、定時制の募集停止を発表するには、まず全日制の再編・統合状況、進学率の動向が分析され、定時制志願者の傾向やニーズが指摘されなければなりません。また、適正配置にあたっての地域性、自宅や職場からの通学時間など、その一定の基準などが示され、その上でそれらについて県民の意見を聞くパブリックコメントが実施される必要があります。

 今回それらを全く欠いたうえで直ちに募集停止校を示すという極めて乱暴、唐突な発表となりました。伊勢原定時制と秦野総合定時制が募集停止になると、厚木より西の小田急沿線には城北工業以外、夜間定時制はなくなり、普通科定時制を希望する子の行き場がなくなります。

 そもそも「改革計画(全体)」には、定時制の学校規模について「夜間定時制は、1学年2学級以下の規模を標準として」と記されており、1学年1学級規模も標準といえます。全国各地に存在している1学年1学級規模の定時制として残すということが検討されるべきです。

2学級規模の入学志願者がいる翠嵐定時制を、募集停止にする理由はない

 翠嵐定時制は、今回同様に募集停止とされた5校とは異なり、現在でも3学級募集規模で今年度の入学志願者が43名、5月段階の1学年在籍数は38名と2学級規模を確保しており、入学者が極めて少ないから募集停止にするという理由は成り立ちません。

 文教常任委員会で総務室改革担当課長自身が、翠嵐を募集停止にあたって、この地区の普通科希望者の進学先を確保するため、交通の利便性がある神奈川工業定時制(以下神工)に普通科を新設すると述べており、翠嵐定時制の募集停止そのものが目的になっています。

 この利便性についても、最寄り駅からの徒歩時間しか考慮されていません。翠嵐は地下鉄三沢下町駅から徒歩12分、横浜駅から徒歩20分(バス10分)かかりますが、横浜駅はターミナル駅ですべての路線、車両が停出発し、巨大なバスターミナルもあります。翠嵐定時制に在籍する生徒の実状や声を聞くことが必要です。

翠嵐定時制で行われてきた外国につながる生徒への支援教育
神工定時制に普通科を新設することで継続できるものではない

 1964年に開設された翆嵐定時制は20年ほどまえから外国につながる生徒が増えてきて、現在では在籍生徒の約6割を占めています。増加に応じて、該当生徒への生活支援、日本語教育、多文化共生教育など、外国につながる生徒への支援教育が積み重ねられてきました。

 この支援教育に関するノウハウや経験豊かな人材は現場の教職員が、時間をかけ独自のネットワークを構築して形成・蓄積してきたものです。これを全く別の学校である神工に移し替え、継続していくことは難しく断絶してしまいます。

 特に、県教委が計画している年次進行での移行では様々な問題が生じます。第一に26年度以降3年ほど、翠嵐と神工の二校で同時に外国につながる生徒の教育を行っていかなければなりません。今の二倍ほどの経験を積んだスタッフ(人材)を配置することができる保障はありません。第二に、外国につながる生徒は、兄弟・姉妹、友達、知り合いのつながりで入学してくる例が多く、それが26年度以降二校に分離されてしまうことになります。

 翠嵐定時制を募集停止にしなければ、このような分断や苦しみを生徒に与えなくてもよいのです。

翠嵐定時制の募集停止を見直し、今後については時間をかけて検討すべき

 「改革計画(全体)」では、「外国につながりのある生徒への教育機会の提供と学習支援」という見出しを掲げ、「日本語指導をはじめとする学習面や、学校への適応に向けた生活面等への必要な支援を実施」と記しています。翠嵐定時制は、まさにこうした支援教育を先進的に行ってきた学校であり、県内外から高い評価を得てきました。

 県教委教育長は25日の審議で、「翠嵐の取り組みを高く評価している。敬意を表する」と述べつつも、募集停止を見直すことを退けました。

 神奈川新聞は、次のような訴えの記事を26日付社会面に掲載しました。

  「敬意が本当であれば、関係者の納得が得られないまま募集停止に踏み切ることはしないはずだ」

 「翠嵐のように生徒に合わせた取り組みは、多様性を前提としたインクルーシブな学校づくりといえる。多文化共生社会に向けてより一層、重要性が増す学校であり、県教委は関係者の意見を真摯に受けとめ対応を見直すべきだ」

 県教委は、「決めたのだから何が何でも2026年度に翠嵐定時制は募集停止にする」という姿勢で強行実施するのではなく、ここは一度立ち止まり、教職員だけではなく、広く識者、県民からの声を聞き、一旦募集停止を見直し、今後については時間をかけて検討すべきです。
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