2022年6月29日

  夜間定時制2校でアンケート調査     7~9%の生徒がヤングケアラー

ひとり親家庭の生徒は、家事や家族の世話に追われている

― 神奈川県は早急にヤングケアラー実態調査と対策を ―


 4月、厚生労働省は「ヤングケアラー」について、小学6年生の実態調査を発表しました。ヤングケアラーは、法令上の定義はありませんが、「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話や介護などを行う18歳未満の子ども」とされています。

 厚労省の調査結果は、新聞、テレビなどで大きく取り上げられ注目されました。「かながわ定時制通信制教育を考える会」は3月(1部は4月に)、県内の夜間定時制2校において「ヤングケアラー」に関してアンケート調査を実施しました。

 その結果、ほとんどの生徒がヤングケアラーとは自覚していないものの、7~9%のケアラーがいることがわかりました。また、ひとり親家庭の割合が極めて高く、弟や妹などの世話など多くの家事を担っていることが明らかになりました。

小6の6.5%、中学生の5.7%、高校生の4.1%が「家族を世話」

 厚労省の調査では、小学6年生の15人に1人にあたる6.5%が「世話する家族がいる」と回答しました。昨年発表された中高生についての調査では、中学2年生の5.7%、全日制高校2年生の4.1%がヤングケアラーとして確認されています。

 小6調査では、1日に世話に費やす時間は7時間以上が7.1%、3時間未満が52.4%でした。世話する家族は「きょうだい」が最も多く71.0%、ついで「母」が19.8%と続き、世話する内容は「見守り」40.4%、家事(食事の準備や掃除、洗濯)35.2%など、頻度については「ほぼ毎日」が半数を超えていました。

 世話する家族がいる児童は、「遅刻や早退をたまにする・よくする」が22.9%、「健康状態がよくない・あまりよくない」が4.6%と、世話する家族がいない児童のいずれも2倍前後高い数値となりました。

 自由記述欄には、「助けてほしい。逃げ道をつくってほしい」、「いつでも頼っていい人がほしい」、「いたずらをする弟や妹を止めるために勉強が減ってしまい、夜遅くまで勉強をしてしまう」など切実な状況が記されています。

大阪、埼玉でヤングケアラーに関する高校生調査実施  神奈川は未実施


 2016年大阪府下の高校生に対して行われた調査では、20人に1人(5.3%)がケアを担っており、そのうち33.5%の人が「毎日ケアしている」と回答しています。

 埼玉県は、2020年県下すべての高校生に調査を実施、25人に1人(4.1%)がケアラーと確認されています。「ケアの開始時期」については「中学生の時」が34.9%と最も多く、「小学生4~6年生頃」が20.1%、「高校生になってから」が19.5%となっています。自由記述欄の「勉強時間が充分にとれない」、「ストレスを感じている」、「睡眠不足」、「体がだるい」などからは、学校生活への深刻な影響が見て取れます。

ひとり親家庭が極めて多い(55%)、 家事や家族の世話を担わざる得ない

 「かながわ定時制通信制教育を考える会」が行った調査では、ひとり親家庭が極めて多いことがわかりました(下記表1参照)。

表1  父母と同居   母子家庭   父子家庭   祖父母と同居    その他 
 A校 1~3年生  18(42.8%) 19(45.2%) 4(9.5%) 0(0%) 1(2.4%)
B校 1~4年生 10(45.5%) 6(27.3%) 2(9.1%) 2(9.1%) 2(9.1%)

 アンケートでは、「誰と同居しているのか」と問うことによって、父母と同居している生徒、母親とだけ(兄弟等との同居は問わず)同居している生徒(母子家庭と考えられる。以下母子家庭と表記)、同じく父親とだけ同居している生徒(父子家庭と考えられる。以下父子家庭と表記)、同じく祖父母とだけ同居している(祖父母と同居と表記、両親がいない家庭かもしれない)生徒の数と割合が明らかになりました。

 A校では調査数42人のうちで、母子家庭の生徒は19人、父子家庭の生徒は4人であり、ひとり親家庭と考えられる生徒は54.7%と極めて高い割合を示しました。

 B校では調査数22人のうちで、母子家庭6人、父子家庭2人であり、ひとり親の割合は36.4%です。さらに、祖父母とだけの同居が2人、姉とだけの同居が1人となっており、これらを加えると両親と同居していない生徒は50%になります。

 また、「どのような家事を行っていますか」という問に対して、無回答と「行っていない」という回答はA校で12名(28.6%)、B校で7名(31.8)であり、約70%の生徒が様々な家事をおこなっています。ヤングケアラーでなくても、ひとり親家庭の多い夜間定時制では、大半の生徒が、炊事、洗濯、掃除、買い物などの家事を行っていることが今回の調査で明らかになりました。

「だるい。めんどうくさい。すてたい」と回答、まず全県で実態調査を

 アンケートの「家族のなかに、世話を必要とする人(幼い弟や妹、持病を持っている人や介護を必要としている人など)がいますか」に対しては、A校で3名が「いる」と答えており、7.1%がヤングケアラーといえます(下記表2参照)。

表2 いる いない  無回答 
 A校 1~3年生   3(7.1%)   35(83.3%)  4(9.5%)
 B校 1~4年生 0(0%) 21(95.5%) 1(0.5%)
 

 ケアしている人はそれぞれ母(外での立ち歩きの補助)、祖父母(立ち歩き補助)、妹(面倒をみる)と答えています。母をケアしている生徒は、「今、悩んでいること、不満は」という問に対して、「いつ、ころぶか心配」と記しています。

 B校では、無回答を除いた全員が「いない」と答えているものの、ある生徒は、次の「『「いる』と答えた人は、具体的にどのような世話(ケア)を行っていますか」に対して、「親の病院の付き添い」と記し、その次の「家事の内容」についての問では、「買い物、炊事、洗濯、掃除」と答えています。これからわかることは、この生徒はヤングケアラーと自覚していないもの、実態からいうとヤングケアラーそのものです。

 また、ある生徒は「家事の内容」」についての問で「6さいの妹の世話」と答えているのでヤングケアラーと考えられ(上記の生徒に加えB校で2名がケアラーとされると9.1%となります)、次の「家族の世話や家事の悩みや不満」を聞いた問では、「だるい。めんどうくさい。すてたい」と記しており、強いストレスがかかっていることがわかります。「すてたい」という回答には、ヤングケアラーの問題が深刻な状況に至っており、当事者には助けが届いておらず、家族や本人の責任、つまり「自己責任」とされている現れと見て取ることができます。

 こうした事態を解決するためには、まず実態の正確で詳細な調査が必要です。調査の分析では、ひとり親家庭や貧困との関係を考慮に入れることが重要です。神奈川県は、直ちにヤングケアラーに関する高校生調査を全県で実施し、必要で十分な対策を早急に打ち出さなければなりません。

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