2019年6月26日


教員の長時間・過密労働をどう考え、立ち向かうか



 戦後70数年。あらゆる分野で、慨嘆するような現実が展開している。
 労働基準法を形骸化した労働者の不安定雇用、過労死に到る長時間・過密労働を容認した「働き方改革」法も、ゆるがせにできないその一つである。

 教員の世界もその例外ではない。1990年代からその深刻さが指摘され始め、30年近く経った今日、教育現場は「ブラック」と称されるほど深刻になっている。

 ようやく今年1月25日、中央教育審議会(中教審)は、文科大臣に教育版「働き方改革に関する総合的な方策」(略称)を答申した。しかし一読して、対応の不十分さは否めないものである。

 そこで、小紙ではこの問題について、三回にわたり、なぜこうした事態に立ち至ったのかを歴史的経過を中心に述べ(Ⅰ)、次に、そうした経過がどんな結果や事象をもたらしているかを数値なども含めて指摘し(Ⅱ)、最後に改善策や、長期にわたるであろう本気度を要する「真の改革」について提起する(Ⅲ)ことにした。
 

(Ⅰ)この事態に立ち至らせている、これまでの教育法と政策

教員の仕事の特性は

 教育は、教育を受ける者の成長を期して働きかける労働である。一般の労働と異なるところは、労働力を傾注する対象が人間であることである。その労働は、対象の成長に資することが命題とされていることから、極めて高い緊張と見識を求められる職種である。

 一般にも言えるが、その身分は、憲法の条文にある生存権、幸福追求権、勤労の権利と義務、労働基本権等々の諸条文に護られている。法律では、教育基本法をはじめ、教育公務員特例法などの教育諸法や、地方公務員法などに依っている。加えて社会的な通念で、子どもの成長を知的情操的な面から育む崇高な職業として信頼されていることも、その一つである。


方々から降り込む、豪雨のような「教育政策」

 ところが、歴史的経過はこの条件を豊かにし、その成果を児童・生徒の教育に反映するようにすべきはずであったのに、そうはならずに今日に至っている。
 どうしてそうなっているのか。その真因を探るために、便宜上、教育行政の性格・内容を次の三つに分類して、主なものを時系列でたどってみる。

①教育理念の国家的利用―・「学習指導要領」から「試案」が消え、58年以降、文部大臣(当時)の作成権限となる。・1999年制定の「国旗国歌法」を現場に強制。・07全国学力テストの復活
②管理統制―・88年 初任者研修制度・06年「教育基本法」改悪→新設の17条で5年ごとの国家事業規模の教育版『振興基本計画』を設定する。・07学校評価制度・09年「教員免許更新制」・16年 人事評価制度
③賃金・労働条件改善の怠慢(サボタージュ)― ・71年 給特法(教職給与特別措置法)・74年 人材確保法・02年 週休完全五日制

 こうした流れの下で、紙幅(スペース)の関係から特にこの事態の根本的な原因となっている、主な三つの元凶を指摘しておく。まず71年の給特法(教職給与特別措置法)の施行に関して。もう一つは02年 週休完全五日制に伴う問題、そして、学校を取り巻く状況の変化である。

この事態の元凶 ① ― 「給特法」押しつけっぱなし

 給特法は、当時数多く争われていた“超勤訴訟”を背景に、一般の平均残業代から割り出し、一律に4%を「教職調整額」として基本給に上乗せすることで強行成立した給与措置法である。したがって、超過勤務を命ずる業務を四点に限ることによって、残業代は一切支払わない、“超勤訴訟”は切って捨てるという側面を持っていた法である。当時から残業に規制力がなくなって「青天井」になると、今日の事態が危惧されていた法で、成立から半世紀近く、その通りとなって問題の元凶の一つになっているものである。

この事態の元凶 ②― 週休五日制なのに、担当時数は六日制のまま

 02年に完全実施となった完全週休二日制は、一般社会の趨勢で教育現場にも導入された。ただこの時に、意図的と考えられる行政「怠慢(サボタージュ)」が行われたのである。つまり、教職員定数の標準法制定時に、1日4時間(コマ)、準備にほぼ同時間数とするのが算定基礎とされていたのに、週一日授業日が減ったことに伴う対応措置を取らなかったのである。

 それではどうなるか。週4コマ✕6日=24コマが五日制になれば5/6、担当コマ数を約17%減らさねばならなかったのに、担当授業減を7%に止(とど)めたのである。結果、担当コマ数は1日4.8コマとなり、その上に「ゆとり教育」の反省ということで、反動的に授業時数増やす傾向が強まり、過密労働に加速がつく事態となってしまつている。今日の問題の元凶の二つ目である。

この事態の元凶 ③― 社会変化や管理強化による業務の累積

 さらに、不登校やいじめ、社会の学校を見る目の変化、部活動の過熱化、管理体制の強化に伴う業務量の累積、43年ぶり復活の全国学力テストに伴う事前準備、事後の採点業務等の書類づくり、地域イベント等への参加など、現場はますます「ブラック」の状況となっている。


あまりにも深刻な実態― ようやく06年.16年に全国「教員勤務実態調査」

 06年には国会審議にも上るようになり、文科省が教職員の意識調査を実施したところ、「多忙」とする回答が95%と出る事態に。そこで文科省は40年ぶりに06年に全国「教員勤務実態調査」を踏み切ったが、これまでの教育現場軽視の総決算(ツケ)のように、平均して平日の一日の超過勤務が、3時間37分という深刻な長時間労働の実態が明らかとなった。

 それから10年経った16年の再度の調査では、中学教師の6割近くが残業週20時間以上-過労死ラインというさらに衝撃的な結果が明らかとなった。具体的には前回の調査より、週の勤務時間が5時間12分も増えて63時間18分(1日約12時間40分)となっていたのである。ちなみに本県の17年調査では、中学教師で過労死ラインにあるのは72.7%にのぼっており、より深刻になっている。


「働き方改革に関する総合的な方策(答申)」は、事態解決の切り札となるのか

 さすがに当時の文科大臣は、この結果に対し「看過できない深刻な状況」と強い言葉で反応、この数年、次のような文書にまとめる取り組みを重ねてきた。
17年6月、 文科大臣は中教審に「働き方改革の総合的な方策」を諮問。8月中教審「緊急提言」、12月「中間まとめ」発表、同月に文科大臣「緊急対策」決定。
18年2月文科省の「緊急対策の徹底(通知)」。
19年1 月 中教審「働き方改革に関する総合的な方策(答申)」。

 次回(Ⅱ)では、深刻な実態の数値的な資料や事例をあげ、この1月の中教審「総合的な方策(答申)」が、この事態の解決の方向にかみ合うものになっているのか検証してみる。

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