2018年12月10日
インクルーシブ教育パイロット校 教員加配が極めて不十分
個別授業を望んでも対応しないのは、『合理的配慮』を欠いた差別
問われる県教委の姿勢
インクルーシブ教育は、県立高校改革実施計画(T期)においてパイロット校3校(茅ヶ崎、足柄、厚木西)が指定され、昨年度(2017年度)から始まりました。実施後1年半が経過し、この3校で行われてきた教育活動や生徒の状況が明らかになり、課題と問題点が浮きぼりになってきました。
学年進行による教員加配が減らされたため、個別指導に重大な支障
パイロット校には、昨年度1校あたり7名の加配がつきました。それにより、1学年では1クラス3名担任、全科目でT-T授業(教員2名)、個別授業(取りだし授業)やリソースルームでの個別指導が可能となりました。しかし、今年度の加配は各校7名に加え、3校で6名しかつきませんでした。6名は入学者数に応じて配分され、学校によって0名、2名のとこともありました。
その結果、1学年で2科目はT-T授業ができなくなり、2学年でのT-T授業は数学や英語など4科目となった学校があります。3校とも、2学年になった生徒に対しては、1学年当時のきめ細かな個別指導ができなくなっています。
「同一空間(教室)・同一時間・同一内容」に固執し、個別授業の要望に応えないのは問題
パイロット校では、「九九の7段以上やアルファベットが不確かな生徒とそれ以外の生徒を同じ教室でどう教えたらよいのか」、「ついていけないことがわかっていても、全体の授業は進めざるを得ない」との声が聞かれます。そのなかで、数学や英語で個別授業を行う学校も現れました。
しかし、一方では個別授業をまったく行わないところもあります。そこでは、一部の保護者や生徒から個別授業の要望があったものの、行わないことを知って入学してきているのではということで応えていません。
「障害者権利条約」の第24条では、「障害者の権利実現にあたり、障害者が初等教育や中等教育から排除されないこと、他の者との平等を基礎として、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の教育を享受することができること、個人に必要とされる『合理的配慮』が提供されること」と規定されています。
同じく第2条で、『合理的配慮』とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって・・・・均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と記されています。
保護者・生徒本人による「個別授業」の要望は、「特別な措置(配慮)」を求める「意志の表明」と言ってよく、法制度による『合理的配慮』が可能かどうかを検討しなければなりません。「均衡を失した又は過度の負担を課さない」ということになれば『合理的配慮』を行わなければならず、「合理的配慮の否定」は差別になります。
県教委の姿勢が問われているといえます。
パイロット校の問題点を明らかにし、3年間の教育実践を検証することが必要
パイロット校では、どの生徒が「連携募集」の生徒であるかを特に公表することはありません。知られたくないという生徒もいて、連携に関わる文書などを渡すときは、別教室で個別に渡しているところもあります。一方で「自分は連携募集で入学してきました。手助けしてください」と言う生徒もいますが、まわりの生徒の反応に疎外感を感じるケースも出ています。連携生の半分以上が昼休みにリソースルームにおいて、連携生だけで昼食を摂っている学校もあります。
また、教職員間でインクルーシブ教育について意思統一や共同の取り組みが十分とはいえない状況があります。教員のなかで、連携募集の生徒について、テストで点がとれなくても欠点(成績1)がつかず、行事や部活動だけを楽しんでいることから「ただ乗りしている」という声や、左右の区別ができず時計が読めない生徒に対して「きちんと指導してもらえる特別支援学校にいくのがよいのではないか」という話が聞かれるとのことです。
拙速にインクルーシブ教育実践推進校を増設指定するのではなく、パイロット校で行われている教育活動や生徒の状況、さらに問題点や課題を全面的に明らかにし、3年間の教育実践を検討、検証して、今後のインクルーシブ教育の方向を決めることが必要です。