2018年7月21日


今秋発表予定の「県立高校改革Ⅱ期実施計画」に対し

過大規模校の解消・統廃合の見直し・インクルーシブ校増設の中止を



 神奈川県教委は、現在進めている「県立高校改革Ⅰ期実施計画」を続き、今秋に「Ⅱ期実施計画」を発表するとしています。2016年度から開始された「県立高校改革」に対しては、「計画素案」の段階で教育関係者や県民の中から多くの疑問や問題点が指摘されました。

 しかし、県教委は「Ⅰ期実施計画」において、1学年9学級以上の過大規模校を解消せず、5校(1分校含む)を統廃合、インクルーシブパイロット校の3校設置、そして学校差別化と管理強化を強行しました。私たちは、これまでの問題点指摘やこの間の状況を踏まえ、「Ⅱ期実施計画」策定にあたって、以下のことを強く要求します。


1学年9学級以上の過大規模校を1学年8学級以下へ


 現在、横浜北部・中部や川崎北部には、過大規模校が多数存在します。県立高校が8校ある横浜北部地区では、3学年すべて10学級である高校が3校、9学級である学年が一つでもある高校が3校です。一つの学年に9学級以上がある学校を過大規模校として、その数と割合をいくつかの地区で示したのが以下の表1です。

表1  横浜北部   横浜中部   横浜西部   横浜東部   川崎北部 
 過大規模校数  6校/8校 4校/7校 2校/5校 2校/6校 5校/7校
 過大規模校率 75% 57% 40% 33% 71%
 

 1学年9学級以上となると、1クラス30~35名程度にする柔軟な学級編成ができなくなります。それだけでなく、教室が確保できないため、2クラス3展開などの少人数授業や選択授業が不可能となります。さらに、様々な課題が集中しているにも関わらず過大規模校とされた学校では、生徒数が多いため生徒指導が行きとどかず、近年生活指導上の問題が頻発するようになってきています。

 過大規模校を解消し、多くとも1学年8学級以下へ、さらに課題をかかえた学校は6学級以下にすることが急務となっています。


県立校を20~30校削減すると、過大規模校拡大(最悪70%)・進学率低下必至

 「改革実施計画(全体)」では、2016年度からの12年間で「公教育の保障の観点から」、「全日制進学率の向上を図るために」などの考え方に基づき、県立高校を20~30校削減するとしています。

 クリエイティブスクールや専門学科高校など学校の特色等により、6学級以下でなければならない学校が必ず存在します。今年度(2018年度)1学年のクラス数が6学級以下の学校が35校あります。今後6学級以下校がこのくらいの数になるとして、それ以外の学校が統廃合計画によって、どの程度のクラス数になるかを試算した表2を以下に示します(2017年度は、当時の6学級以下校41校を除いた平均クラス数)。

表2 公立中学
卒業生徒数
公・私立全日制 県立全日制 条件等
進学率
(%)
人数 進学率
(%)
人数 高校数 6学級以下の学校
を除いた場合
生徒数 1学年平均
生徒数
平均
クラス数
2017年 69,996 90.7% 63,486 56.2% 39,338 142 29,498 292 7.3  分校1校は除く
2027年 63,195 91.1% 57,571 57.5% 35,516 138 27,116 263 6.6  現在校(138校)維持
122 312 7.8  20校削減
112 352 8.8  30校削減
93.5% 59,087 59,087 36,969 138 28,569 277 6.9  現在校(138校)維持
122 328 8.2  20校削減
112 371 9.3  30校削
 

 全日制進学率を県公私立高校設置者会議がめざしている91.1%として、30校削減すると平均クラス数は1学年8.8学級となり、以前の「県立高校改革」で適正規模とされていた6~8学級を超えることになります。「改革実施計画」どおり「全日制進学率の向上を図るために」、埼玉、東京、千葉並の進学率、93.5%にすると、20校削減で8.2学級、30校削減で9.3学級になり、9学級以上校が77校、県立高校の約70%が過大規模校になります。

 2000年〜2010年にかけて行われた「県立高校改革」で25校の県立高校が削減されたため、全日制進学率は92.5%(1997年)から88.0%(2011年)にまで低下し、全日制希望者が定時制に殺到し大問題となりました。それだけではなく、急減した進学率を90%台に回復するのに10年を要し、現在も90.2%と全国最底のレベルです。

 「実施計画」がめざす「公教育の保障」や「進学率の向上」と統廃合は、両立しません。過大規模校を解消し、全日制進学率を向上させるためには、20~30校削減の統廃合計画を根本的に見直すことが必要です。


インクルーシブ校を10数校増設するのではなく、パイロット校の教育条件改善と検証を

 昨年度から、軽度知的障がいの子が連携枠(特別枠)で全日制に入学し、全日制の教育を受けることができる「インクルーシブ教育」が開始されました。初年度は、インクルーシブ教育実践パイロット校3校に対し、各校7名の加配がつき、すべての授業をT-T授業(教員2名)、国語、数学、英語で個別(取り出し)授業を行うことができるようになりました。結果として、年度末には単位が取れ進級が認められたと聞きます。

 しかし、今年度の加配は各校7名に加え2名しか増員されませんでした。これでは、1学年はT-T授業や個別授業が可能であっても、2学年に進級した知的障がいの生徒に対しては充分な指導を行うことができません。すでに昨年度において、「一緒の授業で教えるのが難しい」「ついていけない状態でも進めざるを得ない」、「評価をどうしたらよいのか」など教員のなかで戸惑いの声が聞かれました。それがわずか2名の追加加配では、「授業がまったくわからない」、「テストで全然点がとれない」などの悩みをかかえ、次第に授業に出られなくなる生徒が出てくるのではないかと心配されます。

 昨年9月教育長は、インクルーシブ教育を「Ⅱ期実施計画」で、「現場のニーズを踏まえて早期に対応することが必要である」として、新たにインクルーシブ教育実践推進校を10数校指定することを明らかにしました。しかし、「現場のニーズ」と言っても、募集定員各校21名に対して2年連続3校とも充足せず、足柄高校は昨年度8名、今年度4名の応募しかありませんでした。また、高校や特別支援学校高等部の現場からインクルーシブ校増設の声はまったく聞かれません。

 そもそも、「県立高校改革実施計画(全体)[素案]」に対して、県民から「障がい児の発達を保障する視点が欠落している」、「インクルーシブ教育に対して充分な研究、検討が行われないもとでの導入は拙速」、「普通高校に障がいのある子が詰め込まれるのでは」、「1クラスの生徒数を減らし、補助教員の配置などの措置を充分に講じることが必要」など、多くの問題点の指摘と実施する際の教育条件の抜本的整備(文科省は通常教育の10倍の予算が必要としている)が欠かせないなどの声がパブリックコメントとして寄せられました。

 現状は、このような疑問や不安が的中する事態になっています。まず、パイロット校3校において昨年度1年間のインクルーシブ教育についての詳細な報告が早急にまとめられ、県民や教職員に示されるべきです。

 さらに、加配の増員が2名になったことにより、今年度の教育にどのような影響が出たのか、昨年度に比べどのような変化が生じたのかなどが検討されなければなりません。それとともに、2年次の生徒について進路指導がどのように行われたのか、そして卒業までにどのような力がつき、どのように進路が決まっていったのかなど、パイロット校3年間の教育実践を十分に検討、検証して、今後のインクルーシブ教育の方向を決めることが必要です。

 インクルーシブ校を増設するかどうかは、その検証と総括を待つべきです。今求められているのは、インクルーシブ校を10数校増設することではなく、パイロット校3校の教育条件を抜本的に改善すること、そしてこれまでのインクルーシブ教育の実践を検証することです。

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