2018年3月25日
インクルーシブ教育実践推進校の10数校指定(今秋学校名公表)を見直し、再検討せよ
昨年9月、県教育委員会はインクルーシブ教育を今年度から導入された3校(茅ヶ崎高校、厚木西高校、足柄高校)につづき、2020年度から始まる県立高校改革第2期実施計画で新たに10数校指定することを目指して、学校名を今秋の実施計画策定時に公表することを明らかにしました。現場のニーズに対応し、県内すべての地域で通学可能な範囲に少なくとも1校整備する予定と報じられています。
しかし、この発表は、今年度4月から開始されたインクルーシブ教育パイロット校(上記3校)の1学期間だけを見て、連携募集で入学した知的障がいの生徒が、「必要な支援を受けながら充実した高校生活を送っている」と判断し、全県への拡大を決めた極めて拙速な計画といえます。
2学期以降、様々な問題、課題が生じている
インクルーシブ教育パイロット校では、「知的障がいのある子」、それも校長推薦の要件とされている軽度知的障がい(療育手帳のB2程度)のある子を受け入れるものと考えていました。しかし、実際に入学してきた生徒の中には、知的障がいだけでなく発達障がいを抱えている子も含まれていました。また、療育手帳B1(B2より重い)の子もいました。
入学してきた生徒たちは、2学期に入ると、次第に遅刻や授業に出られなくなる生徒が出てきたと聞きます。その原因は様々あると思いますが、一つには授業がよくわからない状態でどんどん進んでいく、テストでまったく点が取れないということがあると考えられます。
パイロット校3校では、国語、数学、英語などでこれらの生徒を合同の授業ではなく、別の場所で個別指導を行い、テストを他の生徒とは違う内容にして実施する学校も出てきています。
教職員の指導にも、課題が山積
パイロット校には、今年度各校当たり7名の教員加配がつきました。これによって、クラスは正担任が2名、授業は原則すべてT-T2名で行うことができるようになりました。しかし、正担任はクラスに1〜3名いる知的障がいの生徒に1日のかなりの時間関わることになります。
一人ひとりの生徒について、個別指導計画を立て、チェックシートで経過と達成状況を把握、記録していかなければなりません。各科目については、授業担当教員が一人ひとりの個別指導計画を立て、その達成状況を確認し、担任に伝えることになります。
また、合同の授業では「一緒の授業で教えるのが難しい」「ついていけない状態でも全体の授業は進めざるを得ない」、「評価をどうしたらよいのか。同じ評価2でも他の子の2とは違うから」など戸惑いの声が聞こえます。また、教職員間の協力態勢、意思統一が十分とはいえないとも言われています。
インクルーシブ教育実践校を急増させる前に、パイロット校の教育条件を改善すること
パイロット校では業務内容が通常の学校の倍近く増えるのに対し、現状の加配程度では全く不十分です。知的障がいの生徒がいるクラスの正担任の持ち時間は、それ以外の教員とほとんど変わりません。
来年度、今年度の加配に加え新たに7名以上の加配をという現場の要求に対して、県教委が新たな加配を3校で6名と大幅に削減する案を示したのは極めて問題であり、インクルーシブ教育に対する姿勢が問われます。
インクルーシブ教育を進めていくためには、生ずる問題点や課題を一つ一つ解決していくことが必要です。2学期入って新たな問題が生じたように、今後1年次の成績発表時や留年が出た時に生ずる問題、さらには就職や進学など進路の問題に直面する3年次など、パイロット校の3年間の教育実践を十分に検討、検証して、今後のインクルーシブ教育の方向を決めるべきです。
今秋に予定されているインクルーシブ教育実践校の10数校指定は時期尚早、拙速であるので根本的に見直し、再検討すべきです。今必要なのは、現在実施しているパイロット校3校の教育条件を更に抜本的に改善することです。