2018年2月16日
随想 7
降る星のように
中陣 唯夫(元県立定時制高校教員・「考える会」前代表)
テレビでみるアスリートの美しさには息を呑む、スポーツ大の苦手の身にはほとんど偶像である。
とはいえ、この二十年来のスポーツの過剰供給というより氾濫、その清々しさを消してしまうような「喧噪」は何だろう。それが、スポーツの興行形態が生み出す貪欲な「経済効果」とその「裏舞台」が排出する有象無象(うぞうむぞう)によって、不快感となってゆくようでたまらない。
そこでこれを払拭すべく、この「喧噪」の一因を一人の政治家の事績に求めてみた。
18.5 群馬県に出生 /38.4 東京帝大政治学科入学 /41.8 海軍主計中尉として任官/42.- インドネシアで、部下の兵士たちの退廃の有様に「そんな彼らのために私は苦心して、慰安所を作ってやっ」た。/54.3 米国原水爆実験で第五福竜丸が被爆。4月、「核の平和利用」を謳い、わが国初の原子炉の調査費2憶3500万円を計上。(案)の根拠を問われ、「濃縮ウランはウラニウム235だから」と答弁、爆笑を誘う。/56.4 「憲法改正の歌」を東京・有楽町“日劇”で安西愛子の歌唱で発表。 /82.11~87.11の三次にわたる組閣。/84.9~87.8 臨時教育審議会が四次にわたる答申。首相退任後「暮れてなお 命の限り 蝉しぐれ」の色紙を配り歩く。/88.6 財団法人世界平和研究所会長に就任。/89.5 リクルート事件で国会に証人喚問される。/97.5 春の叙勲で大勲位菊花大綬章授与。/11.6 福島原発事故後、要旨「原子力は人類に害を及ぼす面もある。太陽エネルギーをうまく使い、日本を太陽国家にしたい」とのメッセージを発する。
この政治家が三次の首相在任時に合わせて受けた臨時教育審議会の全答申は、21世紀を貫通する国家ファーストの階層的「教育指針」であり、その中でも「国民スポーツ」が重視されている。
この夏の終わりころ、もやもやとして夜空を眺めるうちに、ふいと「一炊の夢」に陥った。
日付が変わるほどの深更(しんこう)、アルプスに蜿蜒(えんえん)と匍(は)うようにのびた白い尾根が、一面に降るように瞬(またた)く星空を戴いている。ところが岩絵具の群青の天空から、キラキララと輝いていた星々が数限りなく降りはじめたのだ。駆け寄ってそれを見る私を私が見ている。手に取ってみるとそれは素紙(そし)に写経生(しゃきょうせい)のような字体で書かれた「履歴書」であった。私のも卒業生のもある、まったく静謐(せいひつ)に地上に届くとき、それは腰をくず折るようにたおやかに横臥(おうが)して積もってゆく――。俺の「履歴書」は俺が書く!それを誰が書いているんだ、誰が……。悔しいことにその履歴は一点の誤りもなく書かれている。
―― 誰が?誰が!と反芻(はんすう)しもがいているうちに、レム状態になって目が覚めた。
なあんだ、不快感が霧状というより気体ガスのようにまとわりついてくるのは、この「喧噪(けんそう)」には、観る者をくつろがせないモヤッとした「哲学」が伴走しているからだと朧気(おぼろげ)ながら気づいた。
この政治家は遺書に、「人間の平和利用が必要だ。人間は人類に害を及ぼす者もあるが、それはスポーツで淘汰できる。スポーツエネルギーをうまく使い、日本をスポーツ国家にしたかった。志半ばで斃(たお)れるのは遺憾である。」などと書くかもしれない、「国葬」の設(しつら)えの下に。