2017年7月22日
インクルーシブ教育の開始と「通級よる指導」の導入にあたって
「高校入学適格者主義」を克服し、 「希望者全入」の実現をめざそう
インクルーシブ教育パイロット校3校は、知的障がいのある人を対象に各校21人の定員を設け、2017年入試を行いました。結果は、茅ケ崎8人、厚木西15人、足柄8人が志願し、全員が合格しました。
また県教委は、昨年末の学校教育法施行規則改定を受け、発達障がいなどの生徒を対象に、高校においても小・中学校と同様に、通常の学級に在籍しながら障がいに応じた指導を別教室で受ける「通級による指導」を行うとして、実施校を今年度中に複数指定し、来年度から開始することを表明しました。
こうした状況を踏まえると、長い間「高校入学者は、高校教育を受けるにふさわしい適格者だけであり、不適格者は入試で排除する」という「高校入学適格者主義」を見直さなければならない事態に至っているといえます。教職員や教育関係者、県教委はもちろんのこと、子どもたち、生徒、保護者、県民を含めて、このまま「高校入学適格者主義」を続けてよいのか、高校入学「希望者全入」にすると問題が生ずるのかなど、広く検討、議論を行い、「希望者全入」に進むことを提案したいと思います。
「希望者全入」の条件が生まれてきている
「希望者全入」とは、後期中等教育(高校、中等教育学校後期課程、特別支援学校高等部、専修学校後期課程)のなかでも特に高校について、入学を希望する人にはすべて門戸を開き、受け入れていくことです。具体的には、進学校など特定の高校への入学を志願・希望した人をすべて入学させるということではありません。全日制の入学定員を十分に確保したうえで、定員を満たさない場合には二次入試、三次入試を必ず行うことによって、全日制を希望する人は全日制に、定時制を希望する人は定時制に、通信制を希望する人は通信制に、すなわち、希望する課程の高校への入学希望を実現させることです。
現在、高校入学への障害となっているのは、第一に授業料や学校納付金を払えるかどうかという経済的問題です。高校で学ぶためには授業料以外に、教科書や制服・体操着等の費用、教育振興費など年間数万〜十数万円もの学校納付金が必要です。このため、依然として経済的理由から全日制には進学できず、定時制や通信制への入学を余儀なくされる生徒がいます。しかし、2010年度から始まった授業料無償化、2014年度からは世帯年収910万円未満の授業料不徴収によって、この障害はハードルが下がってきています。
第二の、そして最大の障害となっているのが、入試の学力検査によって高校、特に全日制に入学する学力に達していないという理由で不合格にされることです。しかし、高校で学ぶことができる最低限の基礎学力とは何かについて特に決まった基準があるわけではありません。入学定員割れの場合には、全日制においても、「定員内不合格は出せない」ということで、学力検査の得点が非常に低くても入学が認められているのが現状です。つまりここでは、「適格者主義」は崩れています。
さらに、神奈川県においては、2017年入試から軽度知的障がい(療育手帳のB2程度)であっても校長推薦があれば、連携募集で全日制に進学できる道が開かれました。現在は、茅ヶ崎市、厚木市、足柄上郡の3地区にすぎないものの、将来的には全県に拡大していく方向です。軽度知的障がいは、日常生活スキルには支障がなく、簡単な文章での意思表示や集団参加、友達との交流は可能です。多くは小学生レベルの学力(12歳程度)と言われており、これまで全日制には進学してこなかった子どもたちが、これからは入学してくることになります。
高校入学への第三の障害になっているのは、入試の面接などによって、意欲や関心、態度、コミュニケーション力が判定され、高校のなかで集団生活ができるのか、問題行動を起こさないか、などが考慮されていることです。コミュニケーションをうまくとれない発達障がいなどの児童・生徒は、入試の面接で適切に答えられず、黙り込んでしまうこともあります。しかし、2018年度から、発達障がいなどの生徒を対象に、「通級による指導」が、全国の高校で開始され、神奈川県においても導入されることになりました。
以上のことから、経済的理由においても、学力や生活態度・行動という点においても、「高校入学適格者主義」を見直し、「希望者全入」を実現する条件が生まれてきているといえます。
「希望者全入」を実現するためには
第一に、経済的理由で全日制に進学できないことを無くすこと、すなわち、教育費や生活費の心配をしないで安心して高校で学ぶことができるようにすることです。
授業料の無償化を復活させ、授業料完全不徴収を実現させなければなりません。それと同時に、多額な学校納付金を減らすために公費負担を増額することが求められます。また、給付型奨学金を拡充するとともに、義務制の就学援助制度に準じて高校生向けの就学援助制度を創設することが必要です。
第二に、学力が極めて低い子が高校、特に全日制に入学して、高校の授業についていけるのかという疑問に答えることです。これに関しては、この間の定時制や通信制、クリエイティブスクールなどでの取り組みが参考になります。
日高教(2014年「全教」に合流)は、2012年に発表した「新たな高校教育改革・第2次提言」のなかで、「繰り上がりのある足し算や繰り下がりのある引き算をするのに時間がかかるレベルやかけ算の九九については七の段あたりから未習得などというレベルであっても、日本語での意志疎通ができ加減乗除の基本的スキルを持っていれば、高校数学への導入にはほとんど障害はない」と記しています。また、「読み書き」については、夜間中学校で到達目標としている「生活基本漢字」(病院、非常口など381文字)を参考にあげ、これらを読み書きできることを基本的スキルとしています。さらに、外国籍の生徒に対して、この間行ってきた、ルビの利用、取り出し・個別指導なども指導に活かすことができます。
次に、この「読み・書き・算」の基本的スキルに達していない子どもについて、どうするのかが問題になります。これについて、日高教提言は「当該の高校におかれる補習クラスに短期間在籍し、その『やり直し』あるいは『補習』を集中的に行ったうえで、他の子どもたちと同様な教育課程に合流するという方法を取ることなどが考えられます」と述べています。こうした提言などを広く検討し、受けいれ態勢を整えていくことが求められます。
第三に、高校とりわけ全日制の入学定員を拡大するとともに、全日制高校の数を確保することが必要です。
神奈川県では、2001年度から県立全日制高校の統廃合(以前の「県立高校改革」で25校削減)や入学定員の絞り込みによって、多くの全日制不合格者を生み出しました。そして、全日制に入学できなかった子どもたちが定時制に殺到し、定時制を希望する子が定時制に入学できないことになりました。全日制、定時制を問わず、希望者が希望する課程の高校に入学できない深刻な事態が生じました。その後、2011年入試では、全日制高校進学率は全国最下位の88.0%となりました。近年、保護者・教育諸団体の強い要請によって、やっと90.9%の進学率となったものの、入学定員は常に公立中学校卒業予定者における全日制入学希望率を下回るように設定されています(2017年入試では、希望率92.2%に対し、入学定員は91.1%)。
したがって、まず全日制入学定員を必ず全日制入学希望率を上回るように設定しなければなりません。そのうえで、毎年中学校3年次の10月に行われている進学希望調査を、「全日制進学のあきらめ」が反映されることのない5月に行うことです。また、学校規模が大きくならないようにするためにも(1学年8学級未満)、新たな「県立高校改革計画」で打ち出された統廃合は中止し、1学年10学級規模校が多く存在する横浜北部では高校新設を検討することが必要です。
このように全日制の入学定員を全日制希望率以上に大きく拡大していくことが、「希望者全入」を実質的に実現していくことにつながります。長い間、当たり前と思われていた「高校入学適格者主義」を見直し、克服することを通じて、「希望者全入」に向け具体的な一歩を踏み出すべきであると考えます。