2017年1月4日

  インクルーシブ教育パイロット校

  クラス2分割授業やTT(3名)を可能にする教職員の加配、施設設備の充実など、

「障害者権利条約」による「合理的配慮」を行うこと!



 10月28日、来年度生徒募集計画が発表されました。それによると、インクルーシブ教育パイロット校ついては、6学級規模を求める声が強かったにもかかわらず、茅ヶ崎高校は8クラス、厚木西高校と足柄高校は7クラスの募集となり、柔軟な学級編成によって30人以下学級にすることは、学校施設に余裕がないと難しくなりました。

 また、「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」と県教委インクルーシブ教育推進課との話し合いのなかで明らかになってきたことは、「障害者権利条約」による「合理的配慮」が行われないままで、インクルーシブ教育がスタートさせられるのではないかということです。

発達障がいの子を含めたインクルーシブ教育全体の計画を示すべき

 インクルーシブ教育パイロット校3校については、各校21名の知的障がいの子を連携募集するとされました。厚木西高校は厚木市内13校の、茅ヶ崎高校は茅ヶ崎市内16校の、足柄高校は足柄上郡1市5町9校の中学校と連携し、中学校の校長からの推薦を受け、学力検査はなく面接だけにより選抜されることになります。

 知的障がいがあっても、上記の連携地域の中学校に在籍していなければ、出願できません。なぜ、この3地域なのか。障がい児が多い県東部には連携できる中学校がなく、県西部に偏っているのはなぜなのか、明らかではありません。

 インクルーシブ教育推進課が連携中学校用に作成したパンフレットによると、連携募集に出願できる要件として、3年間の高校生活をみんなとともにできること、公共交通機関で通学可能、校外学習が可能、進学希望高校の説明会や行事への参加、学校生活への意欲などが挙げられています。

 また、校長推薦の要件として療育手帳を持っていなくてもよいが、軽度知的障がい(療育手帳のB2程度)であることとされています。軽度知的障がいは、食事や衣服着脱、排せつなどの日常生活スキルには支障がなく、簡単な文章での意思表示や理解、集団参加や友達との交流は可能です。しかし言語の発達がゆっくりで、多くは小学生レベルの学力(12歳程度)であると言われています。

 ここから明らかになることは、知的障がいであることが出願できる要件であり、知的障がいを伴わない発達障がいの子は対象外となり、出願できないことになります(下表参照)。知的障がいを伴わない発達障がいの子に対するインクルーシブ教育をどのように進めるかについては、具体的に何も示されていません。

 知的障がい
 発達障がい   広汎性障がい   自閉症
 アスペルガー症候群 
 トレット症候群
 学習障がい(LD)
 注意欠陥多動性症候群
    発達障がいには、知的障がいを伴う場合があります

 現在、クリエイティブスクールや多部制定時制、夜間定時制には発達障がいの生徒が入学しており、様々な取り組みが行われています。県教委はそれらの実践を踏まえ、発達障がいの子を含めたインクルーシブ教育全体の具体的な計画を示すべきです。

国・数・英などの授業は半分の人数で 教員は、TT(3名)で

 発表された募集学級と人数によると、茅ヶ崎高校は、連携募集の21名を含み8学級301名募集となりました。301名を均一にクラス分けすると、38名クラスと37名クラスとなります。柔軟な学級編成を行い、10クラス編成とするとほぼ30名クラスとなります。厚木西高校と足柄高校は、それぞれ連携募集の21名を含み7学級261名募集で、38名クラス37名クラスとなります。柔軟な学級編成を行い、9クラスにすると29名クラスとなります。

 しかし、3校ともこれだけの学級数にする余裕が、校内の施設にあるかどうかが問題です。少人数授業の教室や休憩室、相談室などが必要だからです。

 現在クリエイティブスクールは、6学級規模の生徒数を8学級編成とすることにより、1クラス30名となっています。それに加え、数学や英語の授業をクラス半分の15名で行っています。インクルーシブ教育パイロット校も、国語、数学、英語などの授業をクラス半分の人数で行うことが必要です。また、授業はすべてTT(チームティーチング)で行うこと、それも3名で担当すべきです。また、施設が足りないというのなら敷地内にプレハブ教室を建てることも考えられます。


「合理的配慮」を伴うインクルーシブ教育を

 「障害者権利条約」によると、インクルーシブ教育は以下のように規定されています。


 「障害者が障害を理由として教育制度一般から排除されないこと及び障害のある児童が障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと・・・・個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。・・・・」    (「障害者権利条約」第24条)

 「合理的配慮とは、障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整を行うこと・・・」 (「障害者権利条約」第2条)

 しかしこの間、パイロット校と県教委インクルーシブ教育推進課との話し合いのなかでは、「一般授業は健常者と一緒に授業をうける、『総合学習』のみ取り出すことができる、現行カリキュラムはいじらない、特別科目はつくらない」という話がでています。

 ここから明らかになることは、県教委は、「知的障害の特性としては、習得した知識や技能が断片的になりやすく、・・・・ 一定の時間のみ取り出して行うことにはなじまない」(文部科学省調査研究協力者会議「高等学校における通級による指導の制度化及び充実方策について」)という文科省報告を踏まえ、通級による指導は行わないという立場に立っているのではないかということです。

 また、「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」が提出した請願(下記資料参照 県教委は不採択にしました)に対して、インクルーシブ教育推進課課長は「個別授業を行う」と答えてはいますが、どれくらいの科目と何人くらいが対象になるのか明らかではありません。
 神奈川県がインクルーシブ教育を本当に推進するというのなら、「障害者権利条約」にある「合理的配慮」を十分に行う立場に立つことです。

 「合理的配慮」を行うには、30人以下学級やクラス2分割授業、TT授業(3人)、取り出し授業、マンツーマンの個別授業などを可能とする教員加配が必要です。また、常勤養護教諭の複数配置、常勤特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラー、自立支援員、学習支援員、常勤スクールワーカーなどが欠かせません。さらに、校内に専用の教室や休憩室、相談室の設置、必要な備品、教材の確保が必要です。

 県教委事務局のなかでは、「インクルーシブ教育は失敗できない」と言う声が聞かれるとのことです。そうであるのならば、インクルーシブ教育を「合理的配慮」とはいえない、ごくわずかな「配慮」で済ますのではなく、「障害者権利条約」による「合理的配慮」を行いスタートさせるべきです。

資料

 「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」は10月7日、神奈川県教育委員会に対して「請願」を提出しました。「不採択」とはなりましたが、これをきっかけに県当局と該当校との話し合いもはじまっています。

2017年度に向けて、子どもたちが安心して学べるように、
インクルーシブ教育パイロット校での十分な条件整備を求める緊急請願




【請願項目】
 平成29年度より実施予定のインクルーシブ教育パイロット校については、「障害者の権利に関する条約」および「障害者差別解消法」に定める「合理的配慮」を実現するために、以下の項目を求めて請願します。

1, 平成29年度入学生から学級定数を20人以下とすること。

2, すべての授業において、取り出し授業あるいはティームティーチングを実施できるだけの教職員定数を確保するとともに、入学生徒の状況に応じて迅速で柔軟な対応ができるよう、学校からの緊急の要請にもこたえられる十分な教職員定数と特別予算を確保しておくこと。

3,養護教諭については常勤者を複数配置とすること。

4,スクールカウンセラーおよびスクールソーシャルワーカーをそれぞれ常勤で配置すること。

5,保健室および相談室、生徒のパニック発生時等のための休養室などをはじめとする、「合理的配慮」実現のために必要な施設や設備の確保と充実のための特別予算を、各パイロット校の状況に応じて保障すること。

6,予算は他の教育予算を切り詰めて回すなどせずに、失敗を許されない大事業にふさわしく特別予算を確保して対応すること。

【請願理由】              (以下省略)

《請願に対する県の回答書》              

平成28年11月14日

かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会 様

神奈川県教育委員会

 平成2810月7日付けで提出のありました標記請願については、平成28年11月8日に開催した神奈川県教育委員会定例会において審議した結果、以下の理由により、不採択としましたので、通知します。
 なお、標記請願の趣旨の一部については、県教育委員会の、パイロット校の体制整備の考え方と同趣旨であると認識しております。

<理由>
・クラス規模については、より多くの生徒と関わって、相互理解を深めていく必要があること。
・職員の配置については、県立学校全体の配置バランスを踏まえて、常勤・非常勤を含めて、今後配置を検討していく必要があること。
・施設整備については、そもそも特別予算という仕組みはないこと、また、今年度予算で一定の整備を行っており、来年度以降も必要な予算の確保に努めていくこととしていること。
  

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