2016年7月30日
インクルーシブ教育パイロット校、準備期間が短く7学級規模では大変
2017年度募集を延期するとともに、
人的配置と施設設備を充実させ、30人以下学級へ
県教委は、1月12日に決定した「県立高校改革実施計画(全体・T期)」を「準備期間があまりにも短いので延期するように」という声が多くあるにもかかわらず、「計画(T期)」通り実施しようとしています。改編校では、2017年度から新しい編成や教育課程が始まることになり、準備期間は実質1年もありません。
特に、インクルーシブ教育パイロット校(3校)は、1学年7クラス規模で1クラス3名まで、学年で20名程度知的障がいのある子を受け入れることとし、入学者選抜・教育課程・進路支援・連携事業などについて実践と検証を行うとされています。検討しなければならない課題が山積しているのに、募集は来年度(2017年度)から開始するとしています。このままでは見切り発車となり、入学後に試行錯誤しながらインクルーシブ教育を行うことになりかねません。
準備期間1年では無理、少なくとも1年延期すべき
「県立高校改革実施計画(全体)」では、改革当初4年間で3校程度をパイロット校として指定し、段階的に20校まで拡大します。指定を受けた学校では適切な入学者選抜、教育課程の弾力的な運用、就労や進学等の支援など、充実した校内体制や教育環境の整備に取り組みます」とされました。
これに沿って指定されたインクルーシブ教育パイロット校3校と改革T期の行程は、「実施計画(T期)」によると、以下のとおりです。
指定校 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 茅ヶ崎高校
足柄高校
厚木西高校指定を受けたパイロット校が
知的障がいのある子の
受け入れ体制の整備1期生入学 2期生入学 3期生入学 実施および検証
(入学者選抜・教育課程・進路支援・連携事業)地域における連携先の中学校(注)との交流・連携事業の実施 (注)「みんなの教室」のモデル事業を進める市町村(及び周辺地域)の公立中学校.。 「みんなの教室」とは、障がいのある生徒が、できるだけ通常の教室で学びながら、必要な時間に適切な支援を受けることができる別の場で学ぶしくみであり、その教室をいう。
しかし、2017年度から開始するためには、施設・設備の改善充実、教育課程の弾力的運用、単位認定や内規の見直し、生活指導の対応、校内教職員体制の検討、地元の「通級指導」を行っている中学との連携、特別支援学校やその分校との話し合い、教職員の研修等、行うことは山ほどあり、1年間ではまったく準備ができません。
また、現在神奈川県では夜間定時制や多部制定時制、クリエイティブスクールなどで、LD(学習障がい)、ADHD(注意欠陥多動性障がい)、自閉症など障がいのある生徒が、通常学級で学んでいます。インクルーシブ教育パイロット校は、これらの学校と密接に連絡を取り合い、教訓を学び、研修を重ねる必要があります。
以上のことを踏まえるならば、インクルーシブ教育パイロット校の準備期間を少なくとも1年間延長すべきです。
国の施策の「お先棒」を担ぐために、準備期間を無理矢理縮めスタートさせるのでは
県教委が、インクルーシブ教育をどうしても来年度からスタートさせたいのは、国の施策との関連があると思われます。
文科省は、3月末日「調査研究協力者会議」による「高等学校における通級による指導の制度化及び充実方策について」(以下「充実方策」)という報告を公表しました。これによると、2018年度から高校において「通級による指導」を制度化し、「障害に応じた特別の指導」を行えるようにするとしています。
通級指導の対象者は、「少・中学校等における通級による指導の対象と同一にすることが適当である」とされています。つまり、「@言語障害者、A自閉症者、B情緒障害者、C弱視者、D難聴者、E学習障害者(LD)、F注意欠陥多動性障害者(ADHD)、Gその他障害のある者」(学校教育法施行規則第140条による規定)です。知的障がい者については、「充実方策」において「知的障害については、・・・・・一定の時間のみ取り出して行うことにはなじまない」と記されています。
そのうえで、「充実方策」は制度化にあたって、「まず、通常の学級の中で障害の状態に応じた適切な配慮が最大限行われることが重要」とされています。
しかし、こうしたことを可能にするためには、教育条件の充実と競争主義の克服がどうしても必要です。この「充実方策」には、この点がまったく触れられていません。高校教育全般における条件整備の改善や競争・能力主義の克服なくして、インクルーシブ教育は進みません。
文科省は、国の委託事業の研究指定校(全国で19校、神奈川県では、綾瀬西高校と釜利谷高校)による報告や2017年度から始めようとしている神奈川県のインクルーシブ教育パイロット校の実践を受け、2018年度から「高校における通級指導」を開始するとしています。このままでは神奈川県は、国の施策の「お先棒」を担ぐために、準備期間を無理矢理縮めインクルーシブ教育をスタートさせようとしていると指摘されても仕方ありません。
教育条件の抜本的な改善とゆきとどいた指導を可能にする30人以下学級を
小中学校と同様に、高校で「通級による指導」をはじめとするインクルーシブ教育を導入するにあたっては、国及び県による大幅な財政支援による教育条件の抜本的な改善が必要です。
具体的には、インクルーシブ教育のための教職員定数の加配、養護教諭の複数配置、特別支援教育コーディネーター、自立支援員、学習支援員、就労支援コーディネーターなどが欠かせません。さらに、校内に専用の教室や相談室の設置、トイレの改修、必要な備品、教材の確保が必要です。また、障がいをもっている子を含め、担当する生徒の数をできるだけ少なくして、丁寧でゆきとどいた指導ができるクラス人数にすることが求められます。
しかし、「実施計画(全体)」では、学校規模は、「障がいのあるなしにかかわらず、共に学ぶ仕組みを提供するため、1学年7学級規模」とされています。7学級規模で、柔軟な学級編成を行い30人以下学級にすると10クラス編成となり、これだけの教室を校内に確保することはできません。
インクルーシブ教育パイロット校は1学年7学級規模ではなく、クリエイティブスクールが行っていると同様な柔軟な学級編成、つまり1学年6学級規模で8クラス編成をすることにより、30人以下学級が可能となるようにすべきです。