2014年12月9日


〜壊れていく教職員を救え〜

教職員の労働と健康「負担軽減の仕組み」  川口市の取り組み <上>



 8月に行われた「学校にローアンの風を」基礎講座に出席した。今回の講座では、日本の教職員が置かれている状況と、川口市が独自に取り組んだ、「教職員メンタルヘルスカウンセラー」に関する話であった。

1.教職員の負担労働について

a) 日本の教職員はどのくらい働いているのか
 経済協力開発機構(OECD)は、2013年に34カ国・地域を対象に中学校レベルの教職員の勤務環境を調べた「国際教職員指導環境調査」(TALIS)の結果を公表した。

 日本の教職員の平均勤務時間は週53.9時間となり、参加国・地域中最も長く、平均(38.3時間)の1.4倍だった。この値から法定労働時間40時間を除くと、教職員は週あたり平均で13時間54分残業をしていることになり、月単位では55時間36分の残業をしていることになる。これは多くの教職員が過労死ラインの80時間に近い状態での労働を強いられていることを表す。

 また、2012年の全日本教職員組合の「教職員の生活・勤務・健康状態に関する調査」によると、持ち帰り残業を含めた時間外勤務は1ヶ月で平均90時間59分となっており、平均的に過労死ギリギリで働いている現状を知ることができる。

 また、日本の教職員は、学級経営、教科指導、生徒の主体的学習参加の促進のいずれの側面においても、 高い自己効力感を持つ教職員の割合が、参加国平均を大きく下回る。その中でも特に、「生徒の批判的思考を促す」、「生徒に勉強ができると自信を持たせる」、「勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする」、「生徒が学習の価値を見いだせるよう手助けする」など生徒の主体的学びを引き出すことに関わる事項について、参加国平均よりも顕著に低い。


b) 長時間労働の原因
 OECDの調査によると、授業の時間は先進国の平均以下であり、授業の準備等の時間も平均程度であった。これに対し、事務作業5.5時間(平均2.9時間)と課外活動指導(主に部活動)7.7時間(同2.1時間)で大きな差がついた。校外で行う研修への参加率も低く、8割以上が「仕事のスケジュール」を理由に挙げた。OECDの基準で教職員を配置した場合、現在の日本の充足率は70.8%であり、47万人が不足している。これも教職員の長時間過密労働を助長しているといえる。

 また、文部科学省の「教職員のメンタルヘルス対策について」(最終まとめ)では以下のような要因が長時間労働の原因の例として挙げられている。
・授業、部活動、校務分掌等、1人で多くの仕事を担当している。
・突発的な生徒指導対応、保護者対応など、予測できない業務がある。
・保護者会や学校行事等の保護者向けプリントの作成、膨大な量の報告書やアンケート調査の回答・集計、集金したお金の計算など、事務作業が増加している。
・生徒指導・保護者・地域との関係で困難な対応を求められ、いままでの知識や経験で対応できない。
・職務を個人で抱え込みやすい。同僚教職員に意見を言いにくい。
・「完璧にやって当たり前」など、非合理な思い込みで自分を責めてしまう。


2.長時間労働が心身に及ぼす影響
 厚生労働省の専門検討会において、「長時間にわたる1日4時間〜6時間以下の睡眠状態では、睡眠不足が脳・心臓疾患の有病率や死亡率を高める」と報告されている。また、その月の時間外労働が80時間を超えていなくても、発症前6か月の平均的な時間外労働が45時間以上あった場合、脳・心臓疾患の発症に強い相関が認められることも、過労死裁判の事例から明らかである。また、睡眠時間が減少すると仕事の能率が著しく低下し、さらなる長時間労働を要する結果となる。

 長時間労働、特に土日の出勤を要する労働の場合、川口市の「生活実態調査」によると、「家族との団らんがない」、「家族からあてにされていない」、「周囲の同僚に相談できる雰囲気ではない」など、生徒とのかかわりで悩んでいる教職員の気持ちをさらに追い詰めることになる。

 教職員の長時間過密労働の現状を改善するためには、校外行事や報告書、アンケートなど、業務を精選する必要があることは言うまでもない。これに加え、川口市は独自に教職員メンタルヘルスカウンセラーを配置し、教職員の精神的なサポートを行っている。

以下、次回へつづく

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