2014年9月23日
定時制の進路指導に取り組んで(下)
保永 博行(かながわ定時制・通信制教育を考える会代表 県立定時制高校教員)
就職はあらたな人生の第一歩
多くの定時制生徒にとって、就職は「希望」でもある。3年、4年ともなれば、ほとんどの生徒が昼間はコンビニやファミレス、ガソリンスタンド、建設現場などで働いている。2〜3年間の長期アルバイトで、職場では「ベテラン扱い」の生徒も少なからずいる。しかし、そのほとんどは「フルタイム状態のアルバイト」でしかない。健康保険や年金加入も無く、かつて見られた、アルバイトからの正社員登用もほとんど無くなっている。卒業時にそれまでのアルバイトをやめて、新たな会社に「正社員として就職」することは、本人の人生、家庭生活の環境を変える大きなチャンスとなる。
職業人としての自立を支えるために、職業技術校を増設して「無料の職業訓練」の充実を
定時制の生徒は「就職面接」の受けが良い。長いアルバイト生活で、職場での責任感、接客、異年齢の人に対する対応など、場をわきまえて大人としての振るまいができると、受験先の担当者から感心されることも多い。
しかし、「即戦力」を求める企業はますます多くなっている。「構造改革」、「小泉改革」、「終身雇用制の廃止」などの結果、社内教育を廃止している企業も多いと聞く。でも、高卒者に「即戦力重視」はいかにも乱暴な話である。いまこそ、国の責任で職業訓練を急いで充実させる必要がある。
とくに製造業など、専門知識・技能を必要とする分野では、普通高校からの就職のハードルは高く、職業技術校などの公的職業訓練施設の存在意義は大きい。職業技術校では、授業料無料の6ヶ月コース、1年コースと授業料月1万円弱の2年コースが有り、介護や造園、自動車整備など多くの分野が用意されている。K校でもかなりの生徒が毎年、職業技術校へ進学して製造業や介護などの会社への就職を果たし、頼りになる存在となっている。
しかし、かつては県内に9校あった県立職業技術校(訓練校)も統廃合されて今は東部(横浜市鶴見区)と西部(秦野市)の2校しかない。生徒の住所によっては通学時間とその費用は大きな負担となる。
この間の国の政策による公的職業訓練の軽視、縮小が今の若者を非正規社員の地獄に追いやっている。一方で専門的技能者などが不足して外国人労働者の導入の検討も始まっていると聞く。しかし、このような現状を招いたのは国の政策と、それを主導した経済界の責任であることを肝に銘ずべきである。すべてのツケを若者(次世代)にだけ支払わせるという事はけっしてあってはならない。
生徒にとって他人事ではない「ブラック企業」 学校での労働教育はますます重要
「○○君はもうやめたんだって。あの会社ブラックらしいよ」。ときどき学校にやってくる卒業生からの情報を耳にする。土日休や年休がまともに取れない、残業代の不払い、社内教育が不十分など、思わず「そんな会社辞めちゃいなさい」といいたくなるようなケースも多い。
入社時に示された「雇用契約書」が受験時の求人票と大きく違って、正社員でなく契約社員となっていたケースでは、入社した4月当初に本人が「雇用契約書」を持って学校に相談に来たことから明らかになった。学校からは担当の職安、県教委担当者と連絡を取り、会社への「指導」を依頼した。本人にはアドバイスを受けるため、神奈川労連の労働相談センターを紹介した。
しかし、職安からの「指導」だけでは事態は改善せず、労働相談センター担当者の支えもあって、本人が勇気を出して労基署での「申告手続き」をとった結果、残業単価や労働時間・休日の改善などが実現した。正社員から契約社員への改善はならなかったものの、「よくぞやってくれた」と職場の仲間からもおおいに感謝されている。
いま、労働法、労働組合、職安や労基署、労働相談センターなどについての知識を持つことはきわめて重要である。雇用制度や労働条件については、国や県など行政の取り組みを強く求めると共に、労働者の権利、労働法の知識など、教育現場での労働教育の重要性もひしひしと感じている。