2014年3月8日


定時制の進路指導に取り組んで(上)

    

 保永 博行(かながわ定時制・通信制教育を考える会代表 県立定時制高校教員)



いま、定時制は大きく変化している

 1990年代以降はそれまでの勤労学生や学び直しの社会人に加えて、少人数教育の教育環境を求めて、不登校や外国から来た日本語に不自由な生徒などが増えていた。しかし、高校統廃合が進み始めた2002年度あたりからは、入試直前まで全日制希望だった生徒が定時制・通信制に殺到した。この間、もともと全日制希望だった生徒が半分近くを占める状態が続き、また最近は「家にお金が無いから定時制」という経済的理由から定時制に進学してくる生徒も増えている。
 いずれにせよ、家庭に経済的困難を抱えている生徒は多い。
 

自立を支える定時制での進路指導

 母子家庭など経済困難を抱える生徒は在学中からのアルバイトと学業の生活の中で多くの経験を積んで、将来の人生に向けての進路を考えている。経済的自立の意欲も高いが、将来の人生設計に向けての自分の能力形成の必要も感じている。就職か、進学かと悩みも多い。

 小中学校で不登校だった生徒も、比較的少人数の環境の定時制では友達もでき、4年間の学校生活でたくましさと社会性を身につけて、会社見学など就職や進学へと活動を始める。

 いまの日本の社会では学校を卒業したての「新卒」は、就職や進学にとっての最大のチャンスである。しかし、生徒の抱える困難は大きい。大学も専門学校も進学には100万以上のお金が必要となる。また、進学や就職活動のためにはその準備や受験のための時間の確保が必要となるが、生活のためのアルバイトに追われて、その時間さえままならないという生徒も少なくない。本人が動きだして求人票を探し、会社見学に行き、履歴書を書いて堤出するまでの指導がある。

 やっと受験できても就職情勢は厳しい。下表の2012年度で見ると就職活動では、40名の生徒が就職活動に取り組み、のべ90社を受験した結果、31名合格し7名辞退と約40%の合格率。3月末までがんばって6社目を受験してやっと内定した生徒もいる。しかし、卒業時までに就職や進学など進路活動に取り組めた生徒は60〜70%とまだまだ低い。保護者や生徒との面談などを通じて個別の事情を把握して適切なアドバイスをするなど、教員の果たす役割は大きい。

年度 就職活動 進学 進路活動生徒 進路決定者  卒業生 
活動生徒 打診企業 見学数 受験数 辞退数  内定数 職業
技術校
大学
専門学校
2010 39 98 79 49 26 11 20 70 57 97
40% 27% 11% 21% 72% 59% 100%
2011 28 71 58 36 17 12 45 34 74
38% 23% 7% 16% 61% 46% 100%
2012 40 157 132 90 31 21 65 56 103
39% 30% 4% 20% 63% 54% 100%
                             ★パーセントは卒業生数(卒業予定者数)に対する割合を示す。

 

「お金が無ければ進学できない!」 なんとかならないか、奨学金

 奨学金も重要である。合格発表後の手続きに必要な学校納付金が間に合わなくて進学をあきらめるケースも多い。日本学生支援機構だけでなく、母子福祉資金、生活保護などの制度を生徒や家庭に知らせ、進学資金や就業資金として活用するきめ細かい指導が欠かせない。
 日本育英会から日本学生支援機構へと変わる中で、大きな変化(制度改悪)があった。「大学院を卒業したが、奨学金で1000万円の借金地獄」などの話も聞く。日本学生支援機構の奨学金は今や「教育ローン」と化している。

 無利子の奨学金にあった教職などの職に就けば返還免除される規定が無くなり、有利子(3%)の奨学金は大きく拡大した。貸し出し限度を月額12万円まで増額した一方、返還が遅れると「10%の延滞金」も課されるなど返済時の問題も本人に認識させておく必要がある。

 北欧やEU諸国などで実現しているような、返済不要の給付型奨学金と、大学や専門学校などの学費無償化をいちはやく実現して欲しいものである。

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