2013年11月23日
なぜ今また、県立高校の統廃合なのか
全国最下位の全日制進学率をさらに引き下げ、全日制に行けない子を大量に生み出し、
矛盾を定時制・通信制に押しつける統廃合は暴挙そのもの
学級数の縮小と横浜北部地区に県立高校の増設を
9月24日、朝日新聞は県教育委員会が「神奈川の教育を考える調査会」(教育臨調)の「最終まとめ」を受け、県立高校の統廃合を進める方針を決めたと伝えました。それによると、県内の中学卒業者数が来春をピークにゆるやかに減っていく見通しなので、今年度中に協議会を設置し、来年度に再編の基本計画をつくり、15年度には具体的な校名などを盛り込んだ実施計画をまとめるとのことです。
しかし、なぜ今また、県立高校の統廃合なのでしょうか。今は、全日制高校進学率が3年連続全国最下位となり、全日制に入れない子どもが大量に生み出され、1学年9学級や10学級規模の高校が増加しています。また、全日制から締め出された子どもたちが定時制や通信制に殺到し、定時制、通信制の大規模化と教育条件の悪化がもたらされています。
こうした問題がなんら解決していない時期に、県立高校の統廃合を持ち出すことは暴挙そのものです。以下、統廃合の検討を県教委に促した「教育臨調」の「最終まとめ」について、問題点の指摘と私たちの意見を明らかにします。
教育を「対費用効果」で議論し、県に統廃合を促す「最終まとめ」
「最終まとめ」は、基本的視点の一番目に「できる限り少ない経費で最大の効果を得ることのできる『効果的な教育』を検討する」をあげ、経費削減を強調しています。
具体的には、高校教育の課題のなかで、「全日制の入学が果たせず、定時制や通信制の高校への進学を余儀なくされる生徒も少なからず存在し、全日制高校への進学率が課題となっている」と指摘する一方で、その対策としては従来通りの「公私協調による全日制高校進学率の向上」を述べるだけです。その上で、現在の全国最低の全日制進学率が、2000年度以降進められた県立高校の統廃合(25校削減)にあることについては全く検討せず、「今後の生徒数の減少傾向はもとより、各校の取組成果と課題の検証を踏まえて、再編・統合を進めていく必要があり」と記し、再編・統合という名で県立高校の削減を県教委に促しています。
「最終まとめ」は、中学校卒業者が、「今後は平成26年の約7万人をピークに再び緩やかに減少に転じ、6万5千人程度で横ばいとなる見込みである」ことを統合の根拠としています。しかし、この間の統廃合を推し進めた「県立高校改革推進計画」は、生徒数の減少を5000人も多く見込む誤りを犯し、後に訂正し混乱をまねきました。今後外国籍生徒の増加等、社会情勢の変化を踏まえるならば、統廃合については十分すぎるほど慎重でなければなりません。まして、89.4%である全国最下位の全日制進学率を全国平均である92.3%、さらに県教委自らがこの「推進計画」で目標として掲げた94%にするためには、県立高校の削減など考えられません。
適正規模化を掲げ、9学級以上の学級数拡大を促す「最終まとめ」
「最終まとめ」は、「各校の規模については、・・・・学校の活力を高め、学校文化の継承と発展を図る観点から、学級数の拡大に向けて検討していく必要がある」と述べています。
しかし、これは現在の県立高校の実情をまったく把握していない議論といえます。県教育委員会は2000年度に始まった「県立高校改革推進計画」において高校の適正規模を1学年6〜8学級と規定しました。しかし、全日制高校を25校も削減したため、自ら決めた適正規模を破る9学級や10学級の高校が続出し、来年度の募集計画では、9学級規模が26校、10学級規模が7校となり、県立高校全体の約24%が適正規模の基準を超えています。「最終まとめ」は、このうえさらに「学級数の拡大」を促しており、11学級や12学級への道をひらくものです。
学級数が増えるということは、学校の施設において、これまでに使われてきた選択教室、保体教室等の特別教室、進路室、教科準備室、職員休養室などがなくなっていくことです。この間、6学級から8学級へ、8学級から9ないし10学級へ拡大した学校では、選択教室や特別教室が少なくなるなど、教育に支障が生じています。教育の効果を上げるために、1クラス30人編成にして授業展開を行う柔軟な学級編成が、8〜10学級規模になった学校ではできなくなっています。
多様化や選択肢の拡大は進路選択を難しくする 直ちに横浜北部に高校増設を
「最終まとめ」は、「平成12年度から県立高校改革推進計画に基づき、単位制普通科や総合学科などの新タイプ校や定時制高校等の設置を進めてきた。しかし、多くの選択肢が用意されたことで、それぞれの学科等の違いがわかりにくくなり、進路選択がしづらいとの指摘もなされてきている。そこで、新タイプ校、定時制高校については、当初の設置目的や趣旨・理念、取組成果と課題等の検証を踏まえ、新たな県立高校の全体像を導き出した上で見直していく必要がある」と記しています。
わたしたち「かながわ定時制通信制教育を考える会」は、「推進計画」が新タイプの高校として設置推進した単位制普通科高校、フレキシブルスクール、総合学科高校に対して、「これらの単位制高校については、・・・・ホームルーム活動や学校行事などの特別活動による人間形成が十分にできない問題点が指摘されています」(「意見書」1999年)と警告を発していました。こうした警告を踏まえず新タイプ校を数多く設置し、計画発表からわずか13年経過した今、あまりに多様化しすぎてわかりにくくなったので見直すというのは、教育行政として無責任も甚だしいといえます。
「最終まとめ」は、なぜこうした事態になったのかについて十分な検討や総括を行わず、「進学に重点を置いた学校、少人数で実習・体験活動を行う学校、学習状況に課題のある生徒にきめ細かく対応する学校、発達障害などの障害のある生徒への個々に応じた適切な支援を行う学校など」と述べ、再び新タイプ校らしき学校を持ち出しています。これでは、多様化や選択肢の拡大がさらにすすみ、これまで以上に進路選択が難しくなります。
また、定時制について見直していくというのならば、全日制に入れない子どもたちの「受け皿」としての役割を定時制や通信制に求めてきた、これまでの「推進計画」に基づく施策を抜本的に改めるべきです。それを行わず、新タイプ校や定時制を見直し、経費削減にもとづく統廃合を推進するならば、また定時制や通信制に矛盾が押しつけられるのは明らかです。わたしたちは、暴挙といえる県立高校の統廃合と学級数の拡大ではなくて、学級数の縮小と9学級規模や10学級規模の高校が8校中7校も存在する横浜北部地区に直ちに県立高校を増設することを強く求めます。