2012年7月21日


「6:4体制」をやめて、生徒の希望を踏まえ、来年度は最低限


計画進学率91.6%以上、公立募集枠62.7%以上に

・・・全国最低の全日制進学率88.0%(2011年度)の改善は待ったなし・・・


 5月18日公私協議会が開かれ、今年も「定数協議」が始まった。2005年3月に設置者会議・公私協議会による定数協議が始まって以来、公立枠の縮小が続けられた。2010年度から公立枠60.0%が実施されて3年目となり、今年は検証・見直しの年に当たる。「6:4体制」を続けた弊害は明らか。大幅な改善が求められる。

 過酷な入試状況が10年以上も続くなかで、生徒の「希望」は1973年度から始まった「100校計画」以来最低の、全国でもまれな91.4%にまで落ち込み2年間続き(下のグラフ参照)、2012年度入学生は91.6%。希望というよりこれ以下はないという最低基準である。来年度は計画進学率をこの91.6%以上に設定して公立、私学の募集計画を策定しなければならない。現状の実績進学率は88.0%(2011年)であり、この数値から3.6%程度の増加が必要である。2011年の進学実績は公立60.4%、県内私学19.5%でありこれをふまえれば、公立で2.7%、私学0.9%の増加となる。この実現には公立枠の拡大と私学学費補助の大幅改善が不可欠となっている。


全国最低の全日制進学率88.0%と10年以上続く「全日制希望率低下」は
        神奈川の高校教育の制度的失敗  「6:4体制」の強行がこれを加速


 2005年3月に設置者会議・公私協議会による「定数協議」が始まって以来、従来の「計画進学率」による行政目標の設定がなくなった。一方で「少子化」だからと、公立募集定数に「枠」をはめて縮小し、私学進学へと誘導する政策が採られた。60.0%を目指して公立枠が縮小されていくなかで、全日制進学率は急低下を続け、2011年には全国最低の88.0%にまで落ち込んだ。そればかりではない。毎年10月に行われている中学校3年生への進路希望調査においても、全日制希望率が2001年の94%から2011年には91.4%へと急低下している。

 21世紀になり、高校卒業が市民として当たり前のように考えられる現在において、全日制希望率が年々低下していることは異常事態であり、これこそ「制度的失敗」である。本来希望を育むはずの教育が、「あきらめ」を強制している。中学校3年生の10月というと、公立高校受験まで3ヶ月しかない。「希望」といっても「現実可能性」を踏まえたものとならざるを得ない。本来の本人の希望とはかけ離れて、神奈川の現実を踏まえた「希望」ということになる。

 実績の全日制進学率が年々低下し、やむなく定時制や通信制に進学する生徒が増えていく中で、この厳しい現実に合わせて、早めに全日制をあきらめて定時制あるいは通信制を希望する生徒も次第に増加している。10年以上もこれを繰り返した結果が、「全日制希望率の低下」である。2010年、2011年の希望率はなんと91.4%。2001年の実績進学率91.3%とほぼ同じで1997年の92.5%より1%以上も低い。これは明らかに悪しき政策誘導の結果である。これを県行政が「生徒のニーズの変化」とか「希望の多様化」とか説明するのは無責任もはなはだしい。


募集計画の変遷・・・・「計画進学率」  生徒急減期での私学空枠と進学率低下

 2005年度までの全日制生徒募集計画は、「計画進学率」により行われてきた。県教委が県立と市立を含めた公立高校および県内私立高校、県外の高校・高専等への進学見込み数などを含めた「計画進学率」を設定し、一方で私学と県知事との協議が行われて「私学枠(人数)」を設定。「計画進学率」から「私学枠」を差し引いた人数を「公立募集定数」として公立高校の募集計画を策定していた。この方式は生徒急増期に行われた1973年からの「高校増設100校計画」の中で、全日制高校進学率の維持・向上のために役立っていた。

 しかし、90年代以降の生徒急減期に入ると、バブル崩壊による経済的影響も重なって「私学枠」に生じた「空き」(空きの分は「空枠」と呼ばれた)が年々増加し、計画進学率と全日制進学率(実績)との間に2〜3%と大きな差が生じるようになった。2000年度になって「県立高校統廃合」が実施されると、公立高校の募集枠が大幅に削減されて、公立高校の進学実績は99年の64.3%から05年の59.8%へと急低下し、全日制進学率は92%から90.1%と約2%も低下してしまった。

全日制希望率・計画進学と進学実績および募集計画の変遷(1999年~2012年)
入学
年度
公立中学
卒業者数
全日制
希望率
計画
進学率
全日制
進学率
進学実績 私立
募集枠
私立空枠
(埋まらなかった分)
公立募集定数
の算定など
公立 私立
1999 77,424 94.4% 93.5% 92.0% 64.3% 20.1% 18,000 2,456(3.2%) 計画進学率の
想定進学者数から
私立募集枠を
差し引いた残りを
公立募集定数とした
2000 74,865 94.1% 94.0% 91.8% 62.9% 21.0% 17,500 1,760(2.4%)
2001 71,792 94.1% 94.0% 91.2% 62.1% 21.0% 17,400 2,340(3.3%)
2002 69,106 93.2% 94.0% 90.1% 60.5% 21.2% 17,300 2,646(3.8%)
2003 68,850 93.6% 94.0% 91.1% 61.3% 21.3% 16,700 2,047(3.0%)
2004 67,958 93.3% 93.8% 90.8% 60.5% 21.5% 16,700 2,074(3.1%)
2005 64,080 93.3% 93.5% 90.1% 59.8% 21.1% 16,100 2,571(4.0%)
2005年3月 設置者会議・公私協議会設置(2006年以降の募集定数について協議開始)
2006 63,680 92.4% この間
計画進
学率は
設定
せず
89.6% 59.9% 20.1%
公立枠 38,000人 : 公立枠のみ決めることとした
2007 64,933 92.1% 89.3% 60.8% 19.4% 公立枠 60.6%(39,300人) 「率による割り振り」導入
公立枠60.0%に向けて段階的に縮小
2008 64,507 91.8% 89.2% 61.0% 19.0% 公立枠 60.6%(39,000人)
2009 65,422 92.3% 88.7% 60.8% 18.8% 公立枠 60.3%(39,450人)
2010 68,711 91.4% 88.2% 60.4% 19.4% 公立枠 60.0%(41,202人)
2011 66,521 91.4% 88.0% 60.4% 19.5% 公立枠 60.0%(39,889人)
2012 68,200 91.6% 7月~8月に発表予定 公立枠 60.0%+120人(40,730+120人)


募集計画差し止め訴訟から公私協議会 当事者不在の議論の中で進学率低下はますます進行

 このような中、2004年秋、県私学協会は、公立高校の募集数が多すぎるとの趣旨で、県教育委員会を相手取り募集計画の差し止め訴訟を行った。松沢知事の「仲裁」で訴訟は取り下げられて「設置者会議・公私協議会」による「定数協議」が始まった。

 2006年以降は「設置者会議・公私協議会」が始まった。「計画進学率」などの全体計画を県民に明らかにしないまま、「公立枠」協議だけに終始してきた。公私協議会での議論でも、全日制進学率の低下や、全日制進学希望だった生徒が定時制・通信制へ殺到する「あふれ現象」などの報告はされるものの、それについての真摯な議論は全くといっていいほど見られなかった。私学経営の都合や行財政改革政策にもとづく公立の「高校再編」など設置者の立場からの議論を繰り返し、全日制進学率の低下が続いた。


来年の募集計画では 計画進学率91.6%以上を掲げよ  また、進路希望調査は1学期実施を

 「6:4体制」の弊害は明らかである。全日制進学率88.0%の全国最悪の状態から脱するには関係者の決断と大変な努力が必要である。しかし、「高校入試」は学校関係者や行政にとっては毎年の事であるが、生徒にとっては一生に1回しかない重い機会である。憲法で保障されている権利の実現に、「段階的に」などが許されるはずがない。最低限度にまで落ち込んだ今の生徒の希望に合わせて「募集計画」を策定する必要がある。そのためには、昨年度10月に中学3年生に実施した「公立中学卒業予定者の進路希望調査」の結果、「全日制希望率91.6%」を計画の目標として掲げるべきである。「計画進学率」を公表し宣言することは、県民に直接責任を負う姿勢を明らかにするとともに、「公私比率の協議」という学校設置者だけの都合による密室協議の談合から脱するためにも必要である。

 計画進学率の根拠となるのは「公立中学卒業予定者の進路希望調査」である。これは神奈川では毎年10月20日に中学3年生について実施されてきた。しかし、これでは1学期から始まっている「定数協議」には間に合わず、前年度のデータを使うしかない。この調査は他県でも行われているが、実施時期は、5月、9月、12月など様々である。10月20日実施にこだわる必要は無い。1学期中に実施して、その年度の生徒の募集計画に生かすようにすべきである。


全日制進学率91.6%実現のために公立枠60.0%は2.7%以上の増加を さらに私学学費補助の増額を
 
 「全日制進学率91.6%」実現のためには、現状の88.0%から3.6%は増加させなければならない。今年度のデータは未発表なので、2011年度のデータをもとに考えると、下表のようになる。全日制進学者は、「県内公立」、「県内私立」と「県外の国公私立」と3通りあるが、「県外の国公私立」の比率は「学費無償化」以降減少しつづけており、計画としては増加分は「県内公立」、「県内私立」だけでまかなうとするのが順当であり、公立2.7%、私立0.9%の増加が必要である。公立枠は現状の60.0%から62.7%以上に増やすことが必要である。私学をさらに増加させるには学費補助増額が必要である。

公立中学
卒業生
全日制進学者
進学率 公立 県内私立 県外
2011年度
実績
66,521 88.0% 40,164 12,972 5,403 58,539
60.4% 19.5% 8.1%
2013年度
の計画
69,163 91.6% 43,641 14,095 5,618 63,353
63.1% 20.4% 8.1%
進学率の増加分 3.6% 2.7% 0.9%


「県教育委員会議」の実質「上位組織」となっている「設置者会議」は廃止して新たな協議組織を

 今年は2010年から公立枠60.0%が実施されて3年目、設置者会議の合意事項にある「見直し」の年に当たる。事態の深刻さからすればもっと早い「見直し」が行われるべきであった。ここまで事態を放置した根本の原因は、「設置者のみによる密室協議」にある。学識経験者など二名を含むとはいえ教育において県民全体を代表する立場に無い私学協会代表や各教育長だけの協議では限界がある。ここを変えない限り、再び同じ事が繰り返される。

 現在、「設置者会議」は知事が主宰し、その下に実務協議を行う「公私協議会」が置かれている。公立高校の募集定数は県教育委員会議で決められるが、「設置者会議・公私協議会」ができてからは「公私協議会」での決定をそのまま県教育委員会議が承認するということが繰り返されて、教育委員による議論も反映されないという異常な形が続いてきた。2009年にはこのような募集計画決定に反対する渡辺美樹委員が辞任するという事態も発生した。「生徒募集計画」という最重要な決定は、県の教育全体に責任を負う県教育委員会議を中心とした形に戻さねばならない。


「定数協議」には保護者代表、校長会代表   教職員団体代表の正式参加を
 さらに、中学生・高校生の意見表明・参加の具体化を


 「生徒募集計画」では、生徒・保護者・県民の立場からの発言が、まず第一に尊重されなければならない。具体的には、現在、公私協議会にオブザーバー参加している「公立・私立の保護者代表」と「中学校長会代表、県立高校長会代表」は、すぐに正式メンバーに加えるべきである。さらに、生徒の状況に詳しい学校現場及び専門家代表として、「中学・高校の教職員団体代表の参加」は欠かせない。

<設置者会議>14名 2年任期
県知事、学識経験者(1名)、県民代表(1名)、横浜・川崎・横須賀・県の各教育長(各1名)
私学協会代表(4名)、県民局長、県教委事務局(2名)

<公私協議会>16名(オブザーバー4名含む) 2年任期
県民局学事振興課長(座長)、私学協会(6名)
横浜・川崎・横須賀の各教育委員会の課長(各1名)
高校教育企画課長、高校教育指導課長
  オブザーバー(4名)
 県公立中学校校長会代表、県立高校校長会代表、私学保護者連合会代表、県PTA協議会代表


 生徒や保護者は「消費者」や「お客」ではない。生徒は教育の主体、主人公である。それを支えるのが、保護者であり、教職員をはじめとする学校関係者、教育行政である。1994年に我が国が批准した国連子どもの権利条約には子どもの「発達に応じた意見表明と社会参加の権利」が定められている。募集定数や入学制度は中学生や高校生の「最善の利益」に最も関係する。

 生徒の意見表明と参加の具体化が求められている。

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