2012年5月5日


このままでは入試の公平が保てない
      矛盾を含んだ「入学者選抜制度改善方針」

・・・定時制など教育現場の現実と経験を踏まえた公平でわかりやすい高校入試を・・・


 2011年10月、県教委は2013年度から実施される新入試の「入学者選抜制度改善方針」を発表した。この方針に示した1次選考では「調査書の成績を用いた『数値的選考』で募集人員の90%まで選考」と、従来の80%を90%に変更したため、調査書の成績を持たない受験生の合格可能枠が20%から10%へと狭まった。

 県内10団体で構成(かながわ定時制通信制教育を考える会も参加)する神奈川定時制通信制高校教育を考える懇談会は、中学時代不登校だった人、高校での学び直しを希望する社会人や外国の中学を卒業してきた人などが高校受験をする際に不公平な扱いを受ける恐れがあるとして、「『調査書がない、あるいはその一部の記載がない受験生』の公平な扱いを求める請願」を県教育委員会議に提出し、『90%』を『80%以下』に、定時制の『全日制と同一の数値的選考』を『各校の状況に応じて定める総合的選考』に変更することを求めた。審議は3月26日に行われ、各委員からは「この『方針』のままで不公平が生じないか」など県事務局に対して念入りに確認する発言が繰り返された。

 結局、「『弾力的運用』で十分に配慮できる」との県教委事務局の説明で請願は「不採択」となった。「弾力的運用」ということだが、実質的な方針変更である。昨年10月に示した「方針」をそのままに、それを修正する「運用基準」がつくられるということで、選考手順の複雑化は免れない。守るべきは「すべての人々に開かれた公平でわかりやすい入試」ではないのか。


新入試制度の変更点とその問題点

 「入学者選抜制度改善方針」での大きな変更点は以下の通りである。
① 全日制の入試は、従来の前期入試と後期入試をまとめて『一体化』する(『共通選抜』のみ)。
② 定時制、通信制については、全日制と同日程で行う『共通選抜』で定員の8割までを募集し、その後に定員の残りの部分について『定通分割選抜』を行う。
③ 『共通選抜』の1次選考においては、募集定数の90%までを「調査書」と「学力検査」および「面接検査」の成績を用いて「数値的選考」を行う。(現行の数値的選考は80%まで)
④ 定時制の選考においても全日制と同様に全県一律の基準で「数値的選考」を行う。

 「高校入試改善」の主眼であった、「受験生や中学・高校の負担軽減」や「入試の長期化の解消」は、全日制については「一体化」というかたちで一定、達成された。しかし定時制や通信制は『共通選抜』と『定通分割選抜』の2回の入試とされてしまい、『改善』からはほど遠い。

<請願の内容(請願項目)>
① 全日制共通選抜における第1次選考の選考人員は90%でなく80%以下にしてください。
② 定時制の共通選抜および分割選抜については、調査書と実施した検査をもとにした総合的選考とし、「調査書がない、あるいはその一部の記載がない受験生」にも十分配慮した制度としてください。


「1次選考80%」には実績がある  90%に変える理由は一体何なのか

 現行の全日制の入試では、学力検査や面接を行っている後期選抜の1次選考で、調査書と学力検査・面接の成績を用いた「数値的選考」を行い、募集定員の80%までを選考している。この「80%」という数字はここ数年、変えられていなかった。

 「数値的選考」では、「調査書の成績をもたない受験生」は選考の対象から除かれ、その後の2次選考(募集定員のほぼ20%を選考)で、学力検査と面接の成績を使って選考されている。現行の入試でも「調査書の成績をもたない受験生」が応募者全体の20%を超えてしまうと不利益をこうむり、入試が不公平になるが、全日制の場合には今までそのような事態は生じていなかった。

 しかし、「80%」を「90%」に変えてしまうと事態は異なる。「2次選考」の数は20%から10%へと半分にもなってしまう。全日制でも、工業や農業・商業などの専門学科では、学科ごとに選考が行われる。一つの学科は1クラス(40人か39人)であることも多い。「調査書を持たない受験生」が4,5人も受験すると、「入試改善方針」の基準では不公平が生じてしまう。

 不登校経験者や外国につながる受験生は増加している。いま「80%」を「90%」に変更することは、このような人々に対して「全日制高校はあなたたちの来るところではありませんよ」との誤ったメッセージを伝えることにならないか。


「調査書を含めた数値的選考で90%」は定時制では実態からかけはなれ、
    全く不公平な入試となる!

 いままで定時制の入試選考は前期選抜も後期選抜も「総合的選考」となっていた。各高校ごとに実態に合わせた選考方法を決めて、7月以降に県教委ホームページなどに公開している。

 定時制高校では、「調査書がない、あるいはその一部の記載がない受験生」は多く、現行の前期入試では、応募者全体の2割から5,6割にもなっている。また、各学校や入試の年度によっても大きく変動している。もともと定時制高校は、仕事を持った社会人のための学校であった。その後、社会の変化とともに、そこで行われている少人数教育、生徒個々人に応じた教育などの実践をふまえて、不登校経験者や外国につながる人々などが集まるようになった。これらの人々はいずれも「調査書がない、あるいはその一部の記載がない受験生」である。

 ところが、「入試改善方針」では、定時制も全日制と全く同様に学力検査・面接を行い、全く同じ選考方法(1次選考を調査書も含めた数値的選考で実施)を採るとしている。どういう根拠でこのような「方針」が出されたのか。県はいったい定時制高校にどのような生徒を受け入れたいと考えているのだろうか。実態を踏まえた、地に足の着いた行政が求められる。


各教育委員からも不安の声 ・・・・教育委員会議での請願審議

 3月26日の県教育委員会議で請願の審議が行われた。各委員からは、「請願者は平等性・公平性の確保ということから具体的提案をしているが、この提案でなくてもそれが実現できるのか」、「請願者は詳しく調べたデータを出して指摘しているので一抹の不安があるが」、「2回の入試を1回にまとめた一体化をする中で変化も考えられる。受験者の動向を見きわめて欲しい」などの意見・質問が出された。県からは担当課長が「これから具体的な運用基準をつくるので、そこで十分な配慮をしていく」、「各学校の実態を踏まえ弾力的運用をする」と答弁した。

 また答弁の中で、「調査書がない、あるいはその一部の記載がない受験生」の数は今回の入試では、前期・後期あわせて全日制で0.9%、定時制では14%(いずれも全県平均)だったことが報告されたが、受験生の状況が各高校によって大きく異なることを無視してはならない。また、定時制では全県平均でも10%を大きく超えており、「調査書を用いた数値的選考で90%まで」という選抜が無理であることが明らかにされた。


矛盾を含んだ「入試改善方針」は「弾力的運用」でかわすのではなく、すみやかに修正すべきだ

 「入試改善方針」には、「第1次選考として、共通選抜の募集人員の90%まで数値Sに基づく選考を行う。ただし、資料の整わない者については、参考にできる資料を活用し、適正に選考するものとする」と記述されている。「数値S」は「調査書」、「学力検査」、「面接」のそれぞれの成績の合計値なので、「資料の整わない者」はその選考対象から除かれる。字句通り読めば、①最初に「資料の整った者」だけで募集人員の90%まで選考する。②次に「資料の整わない者」を、①での合格者と面接・学力検査で比較して同等の者を選考する・・・となる。すると、②の段階までで選考された人数は募集定員の90%を超えてしまい、『矛盾』が生じる。また、次の2次選考で残りの人数を選考することになるが、「資料の整わない者」(調査書のない者)の受験者数が10%を超えた場合は、「資料が整っている者の合格者」と同等の試験成績であっても「資料の整わない者」の不合格が生じて、不公平となる。

 これを防ぐためには『90%』を『80%以下』に、定時制を『総合的選考』に修正するか、あるいは1次選考において

【手順ⓐ】「募集定員の90%」から「資料の整わない者」の受験者数を差し引く。
【手順ⓑ】ⓐの人数分だけ「数値S」に基づく選考を行う。
【手順ⓒ】次に「資料の整わない者」を、ⓑでの合格者と面接・学力検査で比較して同等の者を合格とする・・・・という方法を採ることも考えられる。

 ともかく、いま必要なのは、県当局が「改善方針」を修正し、『受験生すべてを公平に扱うことのできる選考基準』を示す事である。

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