2012年2月10日


早期実現が望まれる 

夜間定時制の「1学年2クラスを原則とした適正規模化」

 全国最低の全日制進学率88.0%を踏まえ、   

多部制定時制増設よりも、全日制高校の増設を


 2011年12月、県は「県立高校改革の取組について」を発表した。定時制関連では、①「夜間定時制は1学年2クラスを原則とした適正規模化」および、②横浜市港南区内の旧港南台高校跡地に、多部制定時制高校(昼間定時制、単位制普通科)を2014年4月に開校する計画が盛り込まれている。

 「1学年2クラス」は夜間定時制現場の切実な要求であった。これが計画に明記された意義は大きく、早期実現が望まれる。

 その一方、定時制と通信制進学者の合計が10%近くにもなるなかで、今必要なのは多部制定時制ではなく、「全日制高校の増設」であることは明らかである。

県立高校改革の検証は?

 今回の報告は、昨年3月の「これからの県立高校のあり方」(最終報告)にもとづく個別計画として、県議会文教常任委員会および県教育委員会議に報告された。「最終報告」は「県立高校改革推進計画」(2000〜2010年)の検証を踏まえて作成されたというが、一番基本となる高校入学の問題、この10年間に全日制進学率が91.3%から88.0%にまで低下したことについての検証、原因究明、改善策は全くみられない。

夜間定時制は1学年2クラスを原則

 今回の報告で「定時制課程の再編整備の検討」(適正規模と適正配置)、「夜間定時制は1学年2クラス(1クラス35人)を原則とした適正規模化を推進」と記載したことは大きな前進である。2009年秋の県民団体との対県交渉の席では、「再編計画で、全日制には1学年6から8クラスという適正規模を決めているが、定時制には適正規模がないのか」との質問に対して、県は「国基準では定時制も1クラス40人と決めており、定時制には適正規模はありません」と回答していた。

具体化には大きな課題

 「1学年2クラス」が実現すれば、全国でも最悪と言われる過大・過密な夜間定時制の教育環境が大きく改善することは間違いない。様々な困難を抱えた生徒に合わせた定時制本来の教育が展開できる。しかし、乗り越えなければならない課題は多い。1学年で3や4クラス募集といった超大規模な夜間定時制(下表)があるなかで、「いつになったら本当にできるのか」といった疑念はぬぐえない。

 2012年度県立定時制高校生徒募集計画(県資料より)
学校名 募集学級数 募集人数 学校名 募集学級数 募集人数
横浜翠嵐 140 川 崎 70
希望ヶ丘 140 厚木清南 140
横須賀 105 神奈川工業 140
追 浜 105 小田原城北工業 35
茅ヶ崎 140 磯子工業 105
伊勢原 70 向の岡工業 105
津久井 70 平塚商業 105
湘 南 140 秦野総合 70
小田原 70 神奈川総合産業 105
 小計      1855
相模向陽館(午前部140人、午後部140人 240
   平塚農業初声分校 35
県立定時制合計                            2170

 現在県立の定時制は20校。そのうち昼間定時制の平農初声分校と相模向陽館を除いた18校の入学定員は合計1855。それをすべて1クラス35人、1学年2クラス以下にすると1225。その差の630人分をどうするのか。
 全日制をどの地域にどの程度増やし、小規模な夜間定時制をどこにどの程度増やすのか。私学ではどの程度増やすのか、私学の学費補助の増額も含めて、腰を据えた検討と対策が必要である。


全日制の「適正規模」はどうなった?    1学年9〜10クラスの大規模化が進行
横浜北部地域などはとくに深刻

 2010年度に終了した「県立高校改革推進計画」(再編計画)では、全日制の適正規模を「1クラス40人、1学年6〜8クラス」と定めた。これを基準として「少子化」だからと、2000年から2010年の間に、25校の県立高校の削減をしてきた。

 しかし完成直後の2010年から、「適正規模6〜8クラス」を超える高校が、横浜北部、茅ヶ崎などの地域で続々と増え、1学年10クラスの募集をする県立高校も出ている(下の表)。再編前とは教育の質的変化(個に合わせた教育の導入等)がある中で、教育条件の悪化は甚だしい。
 公立全日制高校はあきらかに不足している。小中学校から始まっている30人学級も視野に入れるとなおさらである。

 9クラス以上の募集をする県立全日制高校(2012年度生徒募集計画より)
旧学区 9クラス(360人)募集校 10クラス(400人)募集校
横浜東部 新羽
横浜北部 霧が丘 荏田、市ヶ尾
川崎北部 生田
鎌倉藤沢 湘南
茅ヶ崎寒川 鶴峰、茅ヶ崎西浜、寒川
秦野伊勢原 秦野
厚木海老名 厚木、海老名
相模原南部 麻溝台


横浜南部の新設校は
 多部制定時制高校ではなく全日制に

 多部制定時制の増設は、2011年3月の「最終報告」に、「昼間の時間帯に定時制のしくみを活用して学びたいというニーズに対応するために・・・志願者数が多く、地域的にも十分対応している状況にないことから・・・さらなる設置について・・・検討」とあった。

 県立の多部制定時制高校は、2010年4月、県央の座間市(旧ひばりヶ丘高校跡地)に相模向陽館高校が開校した。発表された計画は横浜南部の廃校した全日制の跡地にあらたにつくるというものであるが、いったい「多部制定時制高校」である必要はどこにあるのだろうか。

生徒の希望は全日制、増設が必要  「公立60%枠」の撤廃と私学学費補助増額を

 2011年3月中学卒業生の全日制希望は91.4%。しかし進学実績は88.0%であった(下表参照)。3.4%(約2300人)の中学生が全日制を断念している。10年前の2001年の全日制進学率は91.3%。ほんの10年前には保障されていたことが、少子化のいま保障されないという、どう見ても理不尽な権利侵害が進行している。


 この間、各年度の生徒募集計画では、「少子化」のもとで私学の枠を確保するためとして、公立全日制の募集枠を年々削減し、2010年には公立全日制60%(公立中学卒業者比)にまで削減した。また、公立枠を制限する代わりに県は私学助成を積極的に出さないという政策が行われ、私学学費補助も全国最低位になってしまった。その結果、神奈川の全日制進学率は88.0%にまで落ちて、全国最低を更新し続けている。

 まず手をつけるべきは、「公立60%枠」の撤廃である。全日制を断念している約2300人の生徒を救うためには63%程度にまで高める必要がある。そのためにはもはやクラス増だけでは追いつかない。「全日制高校の増設」が必要である。

 「公立全日制枠の制限があるため昼間に授業をする多部制定時制を増設」という「まやかし」はやめて、全日制を増設するしか解決の道はない。

横浜市立横浜総合高校との「競合」

 「計画」では、「2014年に横浜市港南区に開校」とあるが、一方で横浜市立横浜総合高校(三部制定時制、総合学科)の移転計画がある。2002年に横浜市中区に総合学科として設置されたが、2013年4月に横浜市南区(旧県立大岡高校跡地)への移転が決まっている。2014年には旧横浜南部学区の地域に2校の昼間多部制定時制高校が隣り合わせで存在することになる。県立と横浜市立との違い、普通科と総合学科との違いがあるとはいえ、生徒の目から見れば同じ「公立の昼間多部制定時制」である。

 同じ地域に2校も大規模な昼間多部制定時制高校をつくる必要は無い。全日制だった旧港南台高校を全日制として復活させればすむことである。

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